「ようこそいらっしゃいました。ソースケさん、盾の勇者様、弓の勇者様」
「相変わらずだな、ウェルト」
「いえ、ソースケさんも御健勝で何よりです。三勇教からの提案とはいえソースケさんを追い出してしまったのは我々ですからね」
「お、おう……」
尚文と樹は別の意味で驚いている様子だ。
そりゃまあ、樹の仲間を見た後だもんな。拍子抜けするのは仕方ない。
「盾の勇者の岩谷尚文だ」
「弓の勇者をしています、川澄樹です。何度かお会いしたことありますね」
「あー、色々あって投擲具の勇者? に選ばれてしまった菊池宗介だ。初めてのやつもいるし一応自己紹介しておく」
まあ、羨ましいよな。七星武器は冒険者がなれる勇者だし。ま、俺の場合は方法が不正だからなんとも言い難いが。
「よろしくお願いします。盾の勇者様、弓の勇者様。それに、ソースケさん」
「久しぶりだな、テルシア。生きてて何よりだ」
「レン様はいつもソースケさんをいつ戻すのかと考えていましたよ。私達も、ソースケさんの指示で戦う戦いはどんな強敵と戦っても負ける気がしなかったので、戻ってきて欲しいです」
「悪いが俺にも仲間がいるんでな。波の時は一緒に戦うとしようか」
同窓会的な雰囲気である。
仕方ないじゃん、何ヶ月ぶりに話したと思ってんの?
「そうだ、盾の勇者様には謝罪をしなければなりませんね。あの時は申し訳ありませんでした」
ウェルト、テルシア、ファリーが頭を下げる。
「へ?」
「何分、メルロマルク国王がいる場で盾の勇者様の味方をしたらどんなお咎めを受けるかわからなかったもので」
「……宗介から随分前に話は聞いている」
「都合のいい話ではありますが、どうかお許しください」
「わ、わかった」
ウェルトたちの対応が丁寧すぎて引いている感じだ。
「緊張してる?」
「そりゃまあ、勇者様が勢ぞろいしてたら誰だって緊張するよ」
「ふーん」
「緊張してないソースケの感覚が図太いだけだって……」
ファリーがガックリとする。
「それでレン様、何かあったのですか?」
「ああ、さっき勇者同士で連携をしろって言われたからな、お前たちの紹介に来たんだ」
「そうだったんですか。ソースケさんを連れてきたのでてっきりパーティに戻ってくるかと……」
「……交渉中だ」
まあ、今はリノアにレイファ、アーシャにライシェル、ラヴァイトがいる。パーティメンバーとしてはいっぱいいっぱいなのだ。
ラヴァイトはまだ人化せず、フィロリアルキングの姿のままなので、フィロリアル宿舎で待機している。
「期待していますね」
ウェルトはそう言うと、スケジュール帳を取り出した。紹介は終わり! という事か。
「ところでレン様、明日からの日程の確認ですが、どのようなご予定でしょうか? 私達はどこで何をしてればいいでしょう?」
「「はい?」」
「ウェルト、まだそんな秘書みたいな事やってたのか」
「勿論ですよ。ソースケさんが居なくなってから、しっかりつけていますからね!」
呆れる。まあ、錬の話から情報を引き出すのは俺が大概やってしまっていたため、俺が抜けた後はウェルトがやるだろうなと思ってはいたが……。
他の勇者もスケジュールを確認し始めたウェルトの行動に驚きを隠せないでいる。
「近々カルミラ島へ行くらしい。そこで狩る事になる。準備を整えておけ」
「わかりました」
俺はため息をついて、スケジュール帳に書き込む阿呆に突っ込む。
「ウェルト! そんだけじゃ何もわからねぇだろうが! わかりました! じゃねぇよ! 手本見せてやる!」
ビッと俺は錬に指を指す。
「おい、錬。近々というが、今日から何日後の予定だ?」
「それはまだ聞いていないな。宗介も知っているだろう?」
「じゃあ、とりあえず2、3日後の予定で良いな?」
「ああ、恐らくそうなるだろう」
「じゃあ、わかったらウェルトに日程教えておけよ」
「わかった」
「次だ。狩る魔物の種類は覚えているか?」
「ああ、もちろん覚えている」
「必要な回復薬の量、状態異常薬はどれぐらい準備しておけば足りる?」
「ふむ……、そうだな。回復薬は2箱、状態異常薬は麻痺を使う厄介な奴がいるから、1箱は欲しいな」
錬から情報の聴取が完了して、俺はウェルトに伝える。
「聞いたか? 2、3日後カルミラ島出発。回復薬は2箱、状態異常薬は麻痺多めで1箱準備だ。船は港町ロラから出るから移動までの時間を考慮しておけよ」
「あ、は、はい! さすがソースケさんですね」
目を輝かせるウェルト。
と、尚文が突っ込む。
「おい、宗介。お前の手際は凄かったがそれ以前の問題に突っ込んでいいか?」
「ん? どうした」
「お前たちは何の話をしているんだ? 錬ではなく、ウェルトと宗介に聞きたい」
あー、錬パーティはこれが普通なんだよね。すっかり忘れていたが、他人の前でスケジュール確認は明らかに変だろう。失念していた。
「はぁ……えっと、私達がレン様とは別のパーティでどのようなスケジュールでどこで魔物を狩ってレベルを上げていればよろしいでしょうかという話です」
「錬は、自分一人でレベルを上げるんだよ。で、ウェルト達パーティは錬の指示した効率のいい狩場でレベルを上げるんだよ」
俺とウェルトの解説に、ますます頭にクエスチョンマークを浮かべる尚文と樹。おかしいのはわかっている。だってねぇ……それでどうやって信頼を得るのだよと。幸いにして俺は錬と二人で戦う機会があったが、ウェルト達はそれが無さそうだった。
「何かあるか?」
「うーん……。宗介さんが戻った方がいい感じだということぐらいですけど……」
「そうだろうそうだろう」
樹の言葉にめっちゃ同意する錬。
「錬さんとは別行動が常なんですか?」
「はい。基本的に私達は……ソースケさんが仲間だった時もですが、レン様とは別のパーティを組んで、レン様が指示する効率のいい狩場でレベルを上げていました」
「たまにアイツが強敵と戦う時、一緒に戦ったがな」
「ええ、その方針に変更はありません」
「無いのかよ!」
俺は思わず突っ込んでしまう。仲間というより従者だよな、正直。
「後は、敵の攻撃は絶対に受けないように気をつけろといつも注意して頂いております」
いや、ウェルトはタンク何だから受けるのが仕事だろうに……。
「そうですか……錬さんは一人で戦っているんですか……」
樹が遠い目で錬を見ている。
尚文も呆れた様子だ。
「次は尚文さんの番ですよ」
「……そうだな」
尚文頭を抱えて、俺たちを案内した。
「じゃあ、付いて来い」
「お帰りなさいナオフミ様、どうしたんですか?」
「ああ、とりあえず勇者同士の連携を強化して欲しいって話で、それぞれの仲間を紹介して回っているんだ」
「なるほど……では自己紹介をしますね。私の名前はラフタリアと申します」
相変わらず丁寧な子だな。他の勇者に比べて明らかに教養があるぞ!
まあ、殺人狂の俺に言われたくは無いだろうがな。
「剣の勇者をしている天木錬だ」
「弓の勇者の川澄樹です。これからは一緒に戦うことも多くなると思います。よろしくお願いします」
「あー……何の因果か知らないが、改めて自己紹介する。武器の人こと現投擲具の勇者の菊池宗介だ。長尾景虎でも良いぞ。改めてよろしく」
しかしながらなんて因果だよおい。別に投擲具に選ばれたわけでも無いんだがなぁ……。
フィーロはこの場には居ないようだ。あっちでビュッフェを食べているのがそうだろう。
「あまり足を引っ張らないなら頼りにするかもしれないな……あいてっ!」
失礼な事を言う子にはお仕置きだ。スパーンとどこからともなく取り出したスリッパのような何かで叩く。
どこから出したかは企業秘密だ。
「おい、その言い方は失礼だぞ」
「むぅ……」
「足手まといになった覚えは無いのですけれど……」
「錬さんは別に悪口を言ったり馬鹿にしているつもりは無いですよ。アナタ達の強さは戦った僕たちが知っていますから」
錬がスリッパもどきで殴ったところをさすりながら、樹に同意する。
「そうだな……思ったより強くはある」
「そうですね。そこも気になっていましたけれど……背中に羽の生えた女の子は居ませんでしたか? 確か魔物に変身する子だったと思うのですが」
「ああ、フィーロの事か。多分あそこだ」
フィーロは案の定ビュッフェでご飯を貪っている。バイキング状態だなぁ。
「フィーロ」
「んー?」
フィーロは食べ物を飲み込み、ぐしぐしと服で口を拭うとてってってーとこっちまで走ってくる。
「どうしたのごしゅじんさまー?」
「ああ、知った顔だとは思うが、俺と同じく勇者をやっている連中を紹介することになったんでな」
「えー?」
フィーロは困ったようは表情をして後ずさる。
「槍の人みたいな人たち?」
「違う違う。あんな女と見れば節操なしじゃねぇよ。なあ?」
「ええ、そこは同意します」
「そうだな。同類に見られたら心外だ」
勇者間でも道化様はヤリチンなのは公認なようで。
「そんなわけで、お前も自己紹介しろ」
「うん、フィーロの名前はフィーロ!」
尚文が馬鹿っぽいなぁと言う顔をしている。ある程度親しくなると、アイツの感情が表情に出ているのが丸わかりなのが面白いな。
それぐらい顔に出ている。
「ごしゅじんさまの馬車を引くのがお仕事なの!」
俺はそもそも乗せてもらった事もあるので不思議にも思わないが、一般的な感覚からすれば幼女がそんな事を言うなんて、事案だろう。
錬と樹が微妙な表情をしている。
「僕は川澄樹と言います。よろしくお願いしますね」
「天木錬だ。足手まといには……ならないか。期待している」
「うん、よろしくね。弓の人! 剣の人!」
まあ、フィーロの他人の呼び方はこんなものだ。俺も武器の人って呼ばれているしな。
どうやら気づいたらしい。
「武器の人は自己紹介しないのー?」
「フィーロは知ってるだろう? あとで俺の仲間も紹介するよ」
「うん、わかったー」
フィーロはそう言うと、椅子にちょこんと座った。
まあ、会話が止まるのもアレだし、聞いておくか。
「なあ、尚文」
「何だ?」
「尚文の戦い方を聞いておきたい。もちろん、あの盾は除外してな」
「……まあ、それなら」
と少しだけ尚文から盾の戦い方を教えてもらう。
色々と発見があって有意義だったな。
「ほかに質問はあるか?」
そんな尚文に、樹があの質問をした。
「ラフタリアさんは奴隷でしたよね」
「ええ」
「主従関係ですが、尚文さんの事はどう思っているのですか?」
まるでサーヴァントの会話2の内容を聞くな。
「そういえば……そのような関係でしたね。あまり意識していませんでした」
ラフタリアの回答に、肩透かしを食らったような表情をする樹。
「何分、ナオフミ様に無茶な命令をされた事はほとんどありませんの。頼られていると思うと頑張りたくもあるので」
「戦いを嫌だと思う事は? 自由になりたいとか思わないのですか?」
安直な奴隷反対をやりたいのだろうな。そう言うアングラなものが無くなるわけがない。
「ありません。自由になったとしても、行く当てもありません……私の故郷はもうありませんし、私はナオフミ様と一緒に戦いたいと思っています」
「……そうですか」
流石に地雷を踏んだと思ったのか、これ以上は無理だと思ったのか、樹は諦める。
「どうしてお前は不満を言わせようとする質問ばかりをしているんだ?」
「そもそも元康が尚文に決闘を申し込んだ時にこの件は解決しただろ」
「残念だったな。安直に奴隷解放を訴えられなくて」
「うぐっ! ……そうでしたね。すみませんでした」
俺の言葉に、尚文はものすごく納得した表情をした。と同時に「やっぱり副将軍だな」と呟く。
「次は宗介の番だな」
「え、んー、俺のパーティは俺一強なんだけれど?」
「挨拶ぐらいはしておきたいからな。紹介してくれ」
「んー、はいよ」
尚文はラフタリア達に他の仲間と交流するように指示を出して、俺に続いてレイファ達のもとに戻った。
「あ、ソースケ! それに、盾の勇者様、レン様、弓の勇者。こんばんは」
レイファがぶちかました。
「あの、何で僕だけ『様』が無いんですか?」
「ソースケを酷い目に合わせたからです!」
「……」
レイファ強い! 樹を黙らせた。
「えっと、一応俺も勇者パーティらしいから、勇者同士の連携のために仲間を紹介することになった。自己紹介よろしく」
俺がそう言うと、最初にレイファが自己紹介をする。
「私はレイファと言います。ソースケのお役に立てるように頑張ってます!」
「私はリノアです。盾の勇者様、レン様、弓の勇者、よろしくお願いします」
「私はアーシャ、ソースケ様の影です。よろしくですわ」
女性陣はサクッと自己紹介してしまう。
「私はライシェル=ハウンド。ソースケくんの旅に同行するメルロマルクの騎士だ。よろしく、勇者様!」
「後は、尚文と同様にフィロリアルキングのラヴァイトがいる。俺のパーティメンバーはこんな感じだ」
俺が紹介を終えると勇者達も自己紹介をする。
「俺は盾の勇者をしている岩谷尚文だ」
「俺は剣の勇者の天木錬だ」
「僕は弓の勇者をしている川澄樹です。なんだかんだでライシェルさん以外は顔見知りですね」
なんだかんだ言って、勇者連中には関わりがある。全員が全員では無いが、顔見知りということななるだろう。
原作改変を阻止するって無かったな。悲しい事だ。
「基本的、俺が殲滅担当で一強になっているが、万が一の時にライシェルにレイファを守ってもらえる。身軽なリノアとアーシャも前衛で戦うと言った感じだな。後衛が少ないのが不安だが……。そこは俺がフォローに入ることになる。戦術はそんな感じだ」
俺がそういうと、樹と錬がレイファを見ていた。
「やっぱり、宗介さんの強さの秘密って……」
「守るべき者の存在か……」
いや、まあ間違いではないけれどもな。
これで、自己紹介は終了した。
「後は仲間たちで話し合いをして俺たちは女王のところへ行くか」
「そうですね。行きましょう」
「と言うわけで、後よろしくな」
「うん、行ってらっしゃい、ソースケ!」
自己紹介はこんな感じですねー