波の尖兵の意趣返し   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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勇者会議【下】

 勇者様方とソースケが会議に行っている最中、私達は連携して戦う為の話し合いをすることになっていた。

 弓の勇者の仲間からの自己紹介が始まり、レン様、私達の順に(つつが)無く進行する。リノアさんは尻尾を隠しているのは、ここが人間至上主義の国だからという事らしい。リノアさんは獣耳ではないので尻尾さえ隠して仕舞えばわからないのは事実だ。

 私達のパーティはソースケだけが突出して強い。

 ソースケは勇者武器を装備している場合はそれこそ鬼神のように強いし、装備していない場合でも今の勇者様方よりも強いのは確かである。

 リノアさんの役目はブーメランを使って近接・遠距離攻撃で、亜人だからか反応もすごい。元がレジスタンスで頑張っていたお陰か、判断力もある。

 アーシャさんは元影と言う感じで、消えるように動くし、暗殺が得意だ。

 ライシェルさんは理想的な前衛といった感じで、盾を使い攻撃を受け流し、剣でトドメを指すと言った戦い方をする。熟練した腕前の持ち主だ。

 私は主に回復魔法での支援と、風魔法での攻撃をしているけれど、ソースケに大切にされすぎている感じはする。

 嬉しいんだけれど、私は私でソースケの役に立ちたいから、ちょっと思うところはある。

 

 次に、槍の勇者様の仲間が自己紹介する。

 槍の勇者様に連れられて、ま……ビッチ王女が戻ってきた為だ。

 あれだけの醜態を晒して処刑を免れたのに、すぐに盾の勇者様を毒殺しようとするのは、人として少しおかしいのではないだろうか? 正直、異常だと思う。常識が無いどころの話ではない気がする。

 エレナさんはビッチ王女やレスティさんに合わせた感じで自己紹介している。

 

 そして、問題が起きたのはラフタリアさんが挨拶をしたときだった。

 

「私はラフタリアです。盾の勇者であるナオフミ様の剣です」

「ふん、汚らわしい亜人風情が何ができるというのだ。ポンコツ勇者の盾如き、怯えて隠れて居れば良いというものをな! 世界はイツキ様が救われるのだ。盾の席など無い!」

「なっ?!」

 

 マルドさんは傲慢というには異常だと私は思う。

 普通の感性を持っているとは到底思えなかった。

 確かに亜人を排斥する思想は、メルロマルク国民は幼い頃から教会で教えられるけれど……。

 

「それに、お前ら亜人や魔物どもと連携などできるわけがなかろう。人間様に知能で劣っておるくせになんの実りもないわ」

「そうよ。彼の言うとおりですわ。盾の悪魔などこの世の害悪! 眷属の亜人如きと連携など無理ですわ。いつ背後から襲われるとも知れません!」

「そうだそうだ! それにあの犯罪者の仲間の女どももムカつく。なぜイツキ様を崇拝せずにあんな犯罪者を慕っておるのだ? 感性が常人とは思えんな!」

「たしか、ルルロナ村だったかしら。どうせ汚らわしい亜人共の住んでいた村です。滅んで正解でしょうに。肥溜めのような匂いがしていたに違いないわ!」

「そうよ! ま……アバズレの言うとおりよ!」

「それに、鳥。まったく、モトヤス様の気に入るような容姿をしているなんて多少は考えたようだけれども気色悪いわ。鳥は鳥らしくグアグア鳴いて人間に使われているのがふさわしいのよ!」

「そうだそうだ! 王女の言う通りだ、亜人の娘!」

「メルティも、私よりママの顔色を見て取り入るのが上手かっただけのクズですわ。そう、ビッチという名はメルティの方が相応しいわね!」

「マ……ビッチ王女、マルド殿、おやめください!」

 

 ライシェルさんが割って入るが二人の暴言は続く。

 

「それにしても、あんな盾の悪魔のような不細工が好みなんて品性もありませんのね! 流石は亜人ですわ!」

「そうだそうだ! 弱職の盾如きがたかが一つ手柄を立てたからと言って偉そうにしおって! 世界を救うのはイツキ様と決まっておるのだ!」

「……言わせておけば!」

 

 ラフタリアさんが反論し出す。

 

「ナオフミ様を悪く言うなんて! 訂正してください!」

「ハッ! 誰が!」

「弱職の盾は身の程を弁えればいいのだ!」

 

 私は反論しないのかと言われたら、この人たちを既に見限っている為、怒りすら湧かないと言うのが正直なところである。

 マルドさんは、最早話なんて通じる人じゃ無いし、マ……ビッチ王女も同じような人だ。

 正直、関心が湧かない。

 少し前だったらラフタリアさんのように反論をしたかも知れないけれどね。

 

「今すぐ訂正してください!」

「イヤよ。あんな不細工、アイツは世界の害悪よ。私の目に狂いはないわ」

「それは貴女では無いのですか!?」

「ふん、流石は弱職の盾の仲間の亜人よ! 流石は弱職の癖に傲慢な奴の配下だな! 程度が知れるわ!」

「ナオフミ様を悪く言うのは許せません!」

 

 ついに、ラフタリアさんは剣を抜く。

 合わせてマルドさんも斧を構える。

 

「今すぐ訂正しなさい!」

「ぬかしおる! ぐおっ!」

 

 ついに乱闘が始まってしまった。

 当然ながら便乗するビッチ王女とレスティ、弓の勇者の仲間はなぜか私たちの方に攻撃を仕掛けてきた。

 

「犯罪者の仲間などここで懲らしめて、イツキ様の素晴らしさを叩き込んでやりましょう!」

「ちょ! 何考えてんのよ!」

 

 リノアさんが剣士の方を、ライシェルさんがカスクさんの剣を受け止める。

 ちなみに、アーシャさんは無視されている。強いのがわかっているからだろうか? 

 それからもう、完全に盾&ソースケVS槍&弓の様相になってしまった。

 私はレン様の仲間に守ってもらいつつ、怪我したらいつでも回復魔法を出せるように準備していた。

 

「ふん。汚れた亜人と魔物の娘との連携なんてしていたら、命がいくつあっても足りないわ!」

「じゃあ今すぐ死にますか? 騒ぎを起こした罰です」

 

 女王様の声が聞こえると同時にビッチ王女の胸の奴隷紋が浮かび上がる。

 

「ぎゃあああああああああああああああああ!!」

 

 ビッチ王女の叫びと女王様の声で、乱痴気騒ぎとなっていた会場は静まり返った。

 ビッチ王女は痛みで床を転げ回る。その様子にマルドさんが驚き、女王様を見て青ざめる。

 

「まったく……どうして騒ぎを起こすのですか……」

 

 女王様は痛みで転がるビッチ王女を見下ろしている。

 

「退け、間抜け!」

 

 ソースケはリノアさんに斬りかかっていた剣士を蹴り飛ばし、頭を地面に押さえつけてナイフを突きつけていた。

 

「てめぇ、何やっている? ロージル」

「ひぃ?!」

「涼しい顔して何やってると聞いてるんだ!」

「ぐっ……!」

 

 ソースケはガイーンっと、鎧が響くように兜を鳴らす。

 

「ぎゃああああああ!」

「リノア、ライシェルさん、大丈夫だったか?」

「う、うん。あ、ありがと。助けてくれて……」

「ああ、いや、すまない。こうなる前に止められればよかったのだがな」

 

 私はソースケのところに駆け寄る。

 

「レイファ、無事だったか」

「うん、ウェルトさん達に守ってもらったから大丈夫だよ」

 

 ソースケは私の頭を撫でる。

 流石に恥ずかしいけれど、ソースケの癖みたいなものだろうか? 

 と、ここでソースケに追いついた弓の勇者が仲間に注意をする。

 

「ダメですよ。この方々は世界を救うための勇者仲間なんですから!」

 

 流石の弓の勇者も、自分の仲間が問題を起こしたことに困惑しているのか本気の口調で注意をする。

 

「ですがイツキ様、この者たちは各地で問題を起こしているではありませんか。特に犯罪者は!」

「尚文さんについては無罪が証明されましたし、宗介さんに関しては恩赦で赦されています。ですから、宗介さんは仕方ないにしても仲良くしてください」

 

 マルドさんとソースケが仲良くなることは、弓の勇者でも諦めている様子だった。

 

「……わかりました」

「マイ──アバズレ! 娘になんて仕打ちをするんだ!」

「問題を起こしたから処罰しました。ただそれだけですよ。もちろん、マルド殿にも騎士としての給与を減俸いたします。話を聞く限り、我が娘とマルド殿の方に問題があるようですからね」

「うぐっ!」

 

 女王様は口元を扇子で隠して答える。槍の勇者様は不快感を露わにして思いっきり睨んだ。

 

「おい、元康。リノアやレイファも狙われたんだが」

「ええっ!?」

「モトヤス様、それはマイ──アバズレではなく、弓の勇者様の仲間が狙ったようでした」

「そうなのか! ……くっ!」

 

 ソースケの煽りに槍の勇者様は何を思ったのだろうか、苦虫を噛み潰したような表情をする。

 

「キタムラ様、よくお考えください。治療院から帰ってきたその足で、こんな騒ぎを起こしたのですよ?」

「……」

「先ほどの言葉をお聞きになりましたか? どちらが悪いかは明白かと思いますが?」

「……」

 

 槍の勇者様はビッチ王女をお姫様抱っこすると、私のところにやってくる。

 

「……レイファちゃん、リノアちゃん。巻き込んでしまって申し訳ない。今度埋め合わせをさせてもらうね」

「は、はぁ……」

「それじゃ」

 

 槍の勇者様はそれだけ言うと、会場を去っていった。槍の勇者様の仲間も後に続く。

 弓の勇者は自分の仲間をなだめている。

 女王様はその様子にため息をつくと、こう宣言した。

 

「今宵は一旦、宴を取りやめましょう。後日、余裕があるときにでも再度連携に関して話を進めるとしましょう。勇者様方が同席しているときに」

「そうだな」

「概ね同意だ」

 

 盾の勇者様とレン様は女王様の言葉に同意する。

 弓の勇者も頷いて、仲間を押しながら会場を去る。

 

「……俺としちゃ、このまま第2回は絶対無理だな。燻製がいる時点で同意できない」

 

 ソースケはそう言って私の頭から手を離し、ウェルトさん達にお礼を言いにいった。

 

 

 こうして、第一回勇者会議は大失敗の様相を呈して終了したのだった。

 

 

 夜、ノックがしたので出ると、錬が訪ねて来た。

 

「宗介、聞きたいことがある」

「どうした? こんな夜中に」

 

 俺がそう聞くと、答えてくれた。

 

「今日言っていた俺の強化方法は試したか? 一応、確認をしておきたくてな」

「どうしてまた?」

「他の連中の強化方法は嘘だと思っている。だが、課金しかできないお前なら俺の強化方法を実践することは可能じゃ無いかと思ってな。試してみたらどうだと忠告に来た」

 

 あっさり断言するなコイツ。

 まあ、俺の事を気にかけてくれているんだろうけれども。

 

「錬は課金は試したか?」

「課金か……。確かにブレイブスターオンラインにも課金システムはあったが、1ヶ月1050円だぞ。追加購入はしなかった」

「ああ、そうなんだ。基本プレイ無料じゃなかったんだ」

「ああ、システムがその分凝っていたしな」

 

 しみじみと答える錬。

 

「だが、課金ならば最初に試しはしたさ。メダルの剣が出ただけだったがな」

「素材として吸収されたのね……」

「ああ、でだ、宗介。お前は俺の強化方法は実践したのか?」

「ああ、既にしてあるぞ」

「やはりな。宗介の武器なら一つぐらいだったら使えるだろうと言う予測は当たりだな」

「錬も課金ぐらいもう一回試してみたらどうだ?」

「検討しておく。それじゃあな、強くなれよ。俺は追いついて見せるから」

「お、おう……」

 

 勝手にライバル宣言をして去っていく錬。

 なんだかなぁと思いつつ、俺は部屋に戻ったのだった。

 

 ちなみに、俺たちが乗る船は4日後の港町ロラの定期便である事は会場を去ってしばらくした後に兵士から教えてもらった。




風邪で寝込んでました。
アニメ版の乱痴気騒ぎと書籍版の展開を混ぜた感じにしています。

次回からはいよいよカルミラ島編!
レイファとリノアの強化を頑張りましょう!

ロラからの出港の時間を錬から教えてもらうのはいくら考えてもおかしかったので「この時に」は「ちなみに」に戻して追記しました。

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