波の尖兵の意趣返し   作:ちびだいず

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マッスルと勇者魔法

 ロラに到着後俺たちはすぐに定期便に乗船することになった。

 俺たちは尚文と同様に一般客室の案内となったのはまあ、仕方ないだろう。道中で色々と道草を食っていたからな。

 ちなみに、アイテム図鑑は開放させてもらった。別にフィトリアに聞かなくても知っているしな。後は念じれば良い。あと、馬車の強化方法の一つである転移スキルの拡張についてはまあ、やっていない。こちらも念じればできるけれどな。

 しかし、馬車は2つ共有できる強化方法があるのに、投擲具がひとつなのは気になるところだ。

 ……これは俺が正式な所有者ではないからだろうけれどな。

 

 相席したのは普通の冒険者で、俺のことを非常に恐れていたのが印象的だった。まあ、《首刈り》なんて二つ名を頂戴しているもんな。仕方ないだろう。

 

「相部屋にしてもらって申し訳ないな」

「い、いえ……。そんな恐れ多いです」

「ソースケ、なんか怯えちゃっているよ?」

 

 レイファの指摘に、俺はため息をつく。

 

「あー、別にあんたらの首を刈ったりしないから安心してくれ」

「いや、えー、は、はい……」

「ソースケ、余計緊張させてどうするのよ!」

 

 んー? 

 なんで緊張してるんだこいつら? 

 

「オイラ、お腹すいた」

「ラヴァイト、我慢しておけ」

 

 チラッと見ると、冒険者の目線がラヴァイトに行っている。

 

「……ん?」

「そ、そのお方はどういう方ですか?!」

「え、そっち?!」

 

 冒険者は全力でうなづく。

 なんでや! マッスル怖くないやろ! 

 

「あー……コイツは無害だ。気にしないでくれ」

「おいおい、オイラを無視しようってのか? そうはいかねぇぜ!」

 

 ラヴァイトはそんな事を言いながら、サイドチェストを決める。

 ナイスバルク。

 

「ラヴァイトはちょっと黙ってて」

「えぇー、まあ、ゴシュジンサマが言うなら仕方ねぇな!」

 

 しかし、コイツは人化してから性格が変わったと言うか、大人しい印象が吹っ飛んでしまった。

 フィーロもフィロリアルの時と人化後の性格は大きく異なっているし、そんなものかなぁ? 

 

「とりあえず、これからしばらくの間は共に部屋を使うのだろう? 仲良くなっておくのが一番だろう」

 

 ライシェルの鶴の一声で、冒険者たちは落ち着きを取り戻した。

 メルロマルクの鎧を着ているからね、やっぱり騎士がいると安心するものなのだろう。

 尚文達と共にいるラルクやテリスとは結局会わず、船酔いもせずに俺は船室でぼんやりと過ごした。

 レイファたちは甲板に出ているが、おかしなことになってなければ良いが。

 窓の外を見ていると、白いフィロリアルクイーン……フィーロが泳いでいる。潜ってしばらくすると何かを蹴り上げる。相変わらず凄いよな、あの鳥。正直、フィトリアと同様に勝てる気がしないのは確かだ。投擲具なしだと負けるだろう。

 それほど、盾の仲間補正の凄さが窺える。

 フィトリアが倒せる気がしないと言ったのは、投擲具による能力補正及び逃げ足に関してだろう。俺だけならば、フィトリアから確実に逃げ切れるだろうしな。

 

 俺はぼんやりと外を見ながらそんな事を考えていた。

 夜に船が右往左往する大嵐が来たが、ハンモックを人数分作ってそれで寝たので、俺とレイファ、アーシャ大丈夫だった。

 リノアとライシェル、冒険者は信じなかったので可哀想なことになってしまったが。

 

 

 カルミラ島に到着した。

 この部屋にも案内のものがやってきて、勇者たちと一緒に上陸する事になった。

 尚文がラルク達と別れてこちらに合流する。

 勇者連中は酷い状態だ。リノアもぐったりしている。「私もハンモックに寝ておけば良かったわ……」なんて言っているが、時すでに遅しだ。

 

「おい、お前のフィロリアル、ありゃなんだ?! なんであんなにマッチョなんだ?!」

 

 尚文に早々詰め寄られる。

 

「いや、知らないが」

「元康があの筋肉マンを見て余計に船酔いをこじらせたぞ!」

 

 ラヴァイトはフロントラットスプレッドのポーズをしている。

 それに引いている勇者の仲間一行。

 レイファも気まずい顔をしている。

 

「フィロリアルは本人が望んだ姿に人化するんだろう? たぶんあいつが……ラヴァイトが望んだ姿だ」

「……マジか」

 

 尚文はドン引きしている。

 フィーロは楽しそうにラヴァイトの腕に引っかかって遊んでいる。

 あの姿を見ていると、どう見てもフィーロの方が弱そうだが、実際はフィーロの方が強いと言う矛盾が起きている。

 尚文はそんなフィーロとラヴァイトを見比べて、ため息をついた。

 

「そういえば宗介……なんで酔ってないんだ?」

「ハンモックで寝てたからな」

「なるほど」

 

 尚文がチラッと勇者連中を見る。

 ヴィッチが顔真っ青で吐きそうな感じの様子を見て、口元が歪む。

 

「お前達、乗り物に弱過ぎないか?」

「尚文……お前が変なんだよ」

「沈むかと思った!」

 

 俺はまあ、わかっていたから準備していたが、あの大嵐はやはり珍しいらしい。

 部屋が何度か回転してたので、現実ではありえない状況だったしな。なんであの船無事なんだろうな? 

 

「船が沈んで無人島生活が始まるとかではなかったのが幸いか」

「とんでもない事を言っているぞ」

「冗談じゃありませんよ」

「とにかく、今日は早めに宿へ行こうぜ? 時間がもったいない」

 

 と、そこで俺たちに話しかけてくる軍人っぽい奴が登場した。

 

「ようこそいらっしゃいました、四聖の勇者様、投擲具の勇者様とその一行の皆様」

 

 あー、今更だからもう突っ込まないぞ! 

 その貴族は観光案内みたいな旗を持っている。メルロマルクの軍服姿の初老のおじさんだが、うん、旗が似合わないな。

 

「私、このカルミラ諸島の地を任されておりますハーベンブルグ伯爵と申します」

「は、はぁ……」

「以後、お見知り置きを」

「ああ……よろしく」

「よろしくー」

「よろしく頼む」

「よろしくな!」

「よろしくお願いしますね」

 

 尚文に続いてそれぞれ挨拶をする。

 

「では、勇者様方にはこのカルミラ諸島の始まりから知っていただきましょう」

 

 尚文だけではなく他の勇者もグロッキーなので嫌な顔をする。

 

「別に俺たちは観光できたわけじゃないんだが……」

「まあまあ、古くは伝承の四聖勇者がここで体を鍛えたというのが始まりでして──」

 

 俺たちは案内されながら観光案内を聞くことになった。

 さすがに省略するが、小説では書かれていない内容は実際に感心するかというとそういうものでもなく、単純につまらない観光案内でしかなかったのが残念である。

 見回していると、町の中心に礼のトーテムポールがあるのがわかる。先頭を歩いている尚文が怪訝な顔をすると、それに気づいたハーベンブルグ伯爵が嬉しそうに解説を始めた。

 

「お? 盾の勇者様はお目が高い。あれはこの島を開拓した伝説の先住民であるペックル、ウサウニー、リスカー、イヌルトです」

 

 まるでサンリオかなんかのマスコットキャラにいそうな名前である。こういうマスコットって基本的には安直な名前だしな。フィーロだって安直だろう。

 

「ちなみに名前の由来は勇者様の世界基準で一番近い動物の名前を聞いて、自ら名付けたそうです」

 

 自分で名乗ったのか……。知性が高い魔物だったのかな? 

 

「じゃあこの島に、あんなのがいるのか?」

「いえ、開拓を終え、新たな地へ旅立ったそうです。その後、姿を見た者はいません」

 

 いまだに出てきていなかったはずだが、その後24巻以降で登場予定とかあるのだろうか? ほかのドラキュリア山脈だとかも開拓済みのため、きっと他の世界で開拓でもしているんだろう。知らんが。

 

「へー……なんか美味しそうだね。ラヴァイトもそう思うよね?」

 

 フィーロが涎を垂らしながらラヴァイトに同意を求めている。

 

「オイラの好みは三段目のイヌルトってやつだな! じゅるり」

「ラヴァイト、め!」

 

 ラヴァイトはレイファに怒られる。

 まあ、仕方ないな。しかし、ラヴァイトもしょせんはフィロリアルか。

 

「あれはなんだ?」

 

 尚文がトーテムポールの隣にある石碑に気づいた。

 

「四聖勇者が残した碑文だそうです」

「ほう、宗介は知っているか?」

「ん? ああ、勇者専用の魔法を覚えられるポイントだな」

 

 俺がそういうと、さっきまでグロッキーだった勇者どもが石碑に駆け寄る。

 現金だなぁ……。

 

「おい、偽物だこれ!」

 

 一番に確認した元康がそう告げる。

 

「確かに、読めませんね……」

「……宗介は読めないのか?」

 

 なんで錬は俺を見るんですかねぇ? 

 

「えー、なになに? 【この魔法は勇者専用の魔法である。勇者以外は覚えることは叶わない】……だってさ」

「投擲具の勇者様は七星勇者様ですからね。しかしおかしいですねぇ……新たな勇者が現れた時に備えて記したと伝承があるのですが……」

「……ふざけているのか? この世界の魔法の文字だぞ」

 

 魔法文字の解説は面倒だからざっくりでいいか。

 自分の魔力によって読む文字で、当然ながらメルロマルク語で書かれたものはメルロマルク文字を読めないと解読できない。そして、魔法文字にも属性があり、適性がないと読めないという特徴がある。

 ドライファ・サンダーブレークみたいな独自開発の魔法はまあ、一度魔法文字で呪文を書き出して作ったりする。

 当たり前だが、メルロマルク文字の読解をできない奴は読めないため、三馬鹿勇者は習得が出来ないということになる。

 

「お前、読めるのか?」

「水晶頼りのお前らじゃ読めないだろうが、俺はクズの所為で不遇だったからな。読めなきゃ、魔法を覚えられなかったんだよ」

 

 俺は単純に、そもそも翻訳機能がない環境にいたから覚えざるを得なかっただけであるが。

 習得までに4か月はかかっているんだが、早いほうだろうか? 

 

「なんて書いてあるんだ?」

「えっと……」

 

 尚文が手をかざして魔法を読み取る。

 

『力の根源たる……盾の勇者が命ずる。伝承を今一度読み解き、彼の者の全てを支えよ』

「ツヴァイト・オーラ……」

 

 フィーロを指定した結果、フィーロが淡く輝く。

 

「わ! なんか力がみなぎる!」

 

 ぴょんぴょんとフィーロが跳ね回る。人型だが飛ぶ高度は明らかに高い。

 

「オーラ……伝説の勇者が使用する、全能力値上昇魔法です」

 

 リーシアがボソッとつぶやいた。

 

「すげぇ! 俺たちも覚えようぜ!」

「まて、お前ら魔法言語理解していないだろ?」

 

 尚文が止めると、樹が物欲しそうな顔で尚文に向き合う。

 

「尚文さん」

「なんだ?」

「魔法言語理解に効果のある盾はどこで手に入れるのですか?」

「自力で覚えたんだよ! なんでも武器に頼るな!」

「出し惜しみですね!」

「そうだそうだ! 教えろ!」

 

 錬は俺のほうにきてじっと見つめる。

 

「錬、悪いが俺はレイファに言葉を教えてもらったんだ。この武器を入手する前から俺は魔法文字を読めるよ」

「……そうだった。忘れていた!」

 

 当てが外れたのか、がっかりする錬。

 お前には前々から忠告していたんだがなぁ……。

 

「俺はオーラって魔法を覚えたが、お前らが同じ魔法を覚えるとは限らないぞ。宗介は……残念だったが」

「それもそうですね。僕達の場合……宗介さんには悪いですが、もっといい魔法かもしれません」

 

 ちらりと俺を見る樹。えー、樹の魔法ってなんだっけ? 

 

「樹が覚えるのは確か、『ダウン』だったっけな?」

 

 ボソッと言うと、リーシアがそれを拾ってしまったらしい。

 

「ダウン……伝説の勇者が使用する、全能力値下降魔法です」

「ふむ、尚文さんの魔法とは対極の魔法なんですね。これはワクワクしてきました!」

 

 余計な一言だった。やってしまった……。

 

「「宗介!」」

 

 二人が俺を見るので、仕方がない。俺は答える。

 

「たとえ魔法の名前を知ったところで使えるわけじゃないからな。はぁ。錬は『マジックエンチャント』、元康は『アブソーブ』だ」

 

 すぐに二人はリーシアを見る。

 

「ふぇえ……! え、えーっと、マジックエンチャントは魔法を剣に付与できる魔法で、アブソーブは魔法を無効化・吸収できる魔法です!」

「「おお!」」

 

 二人ともー、一生懸命石碑とにらめっこを始めるが、自力で魔法文字を覚えないと習得できないからな? 

 俺はあきれつつ、勇者の様子を見ていた。

 

「はぁ、ほどほどにしておけよ。次に行くか。他に何があるんだ?」

「では宿に行くまでの間にカルミラ諸島での注意事項についてと移動手段を──」

 

 まあ、ここについてはいわゆるマナー講座であったため、本編参照ということで十分だろう。

 マナー違反を平然とする鬼畜野郎がいるが、話を聞いているのかわからなかった。

 俺も口を滑らせないように気を付けないとな……。そう思ったのであった。


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