波の尖兵の意趣返し   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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マッスルと稽古

 女王陛下が用意した部屋は、俺たちのものも最上級のリゾートホテルだった。

 温泉設備も整っており、ベッドはふかふかの最高クラス。日本ではこんなホテルに泊まれることはなかった。

 部屋もかなり広く、エステの施設もあったりと至れり尽くせりな感じである。

 俺の勝手なイメージで日本旅館的なものをイメージしていたが、城を改造したと思わしきこのホテルはどちらかというとプリンスホテルやそういったものを連想させた。

 

「……なんか、すごいね、ソースケ……」

「そうだな、さすがは最高級ホテル」

「きゃー!! 久しぶりのふっかふかのベッド! ゆっくりできそうね!」

 

 俺とレイファは唖然としているが、リノアは普通に荷物を置いてベッドに飛び込んだ。

 ボフンと音を立ててベッドに横になるリノア。

 

「ふむ、さすがはカルミラ諸島で名高いリゾートホテルだな。俺もこんなホテルに泊まるのは初めてだ」

「ライシェルさんは要人警護とかされないんですか?」

「城下町のスウィートホテルならば警護の関係で何度か使用したことはあるが、カルミラ島みたいな完全なリゾート地のホテルは無いな」

 

 アーシャをちらりと見ると、にっこり微笑んで俺のほうを見る。

 

「私は影でしたので、王族の方が使われる際に出入りはしましたが泊まるということはありませんでしたよ」

「ふーん、そうなんだな」

 

 俺はつい、緊張してしまう。

 こういうホテルに自力で泊まれるようになったら一番だろうな。

 カルミラ諸島で経験値稼ぎが終了したら、世界に打って出るのだ。魔物は全員で、尖兵共は俺とアーシャで皆殺しする予定なので、しっかりと鍛えておく必要があるだろう。

 

「それじゃあ荷物整理が終わったら、適当に狩りでもしに行くか。俺も仲間の斧を出しておくからレベル上げの時の補正は働くはずだしな」

「わかったわ」

「わかりました」

「行こう!」

「了解だ」

 

 というわけで、俺たちはラヴァイトを連れて狩りに向かった。

 経験値は確かに普段より高い。

 レイファが魔法で吹き飛ばし、ライシェルが的確に守っては敵を切り裂く。リノアのブーメランは思っていた以上に威力があり、ぶつかった魔物は粉みじんになる。

 アーシャは本当に暗殺するため、俺に魔物の死骸をそのままプレゼントしてくるため、俺はそれを投擲具に吸わせてドロップを確認したりしていた。

 ラヴァイトは人型での戦いを練習中のためか、マッスルパンチを繰り出して、魔物を粉砕していた。

 このパーティはこのメンバーである程度完成されている感じだ。

 俺は中衛に入り、仲間に的確に指示を出していくだけでいいから楽ではある。

 だって、錬のように集中しすぎるわけでもなく、燻製のように脳筋なわけでもないのだ。ライシェルがタンクをしてくれているおかげで、全員安全に戦えている。

 

「リノア、リカバー」

「わかってるわ!」

「レイファ、五時方向」

「ツヴァイト・エアーショット!」

「ラヴァイト、左のほうを殲滅」

「オイラに任せとけ!」

 

 ライシェルが漏らした敵はアーシャが暗殺する。

 姿が見えているのに暗殺できるほど、アーシャは技量が高い。

 

「敵が弱いのに恐ろしいほど経験値が入るわね。それに、レベルが上がった時の能力値の上がりが大きくなっているわ」

「仲間の斧の補正だな」

「うーん、さすがは勇者武器ってところね」

「私も戦えてる気がするよ」

 

 俺はレイファに魔力水を手渡す。

 

「ソースケくんの指示は的確で動きやすいな。戦場全体を俯瞰してみているかのようだ」

「まあ、錬と仲間だった時にな」

 

 主に燻製と錬の動きを見て、全員が力が出せるように指示をして動いてきた成果だろう。

 そういう部隊長的な指示は、すっかり得意になっていた。

 ちなみに、俺は指示だけで一回も攻撃をしていない。もちろん、動こうと思えば動けるけれどな。

 

「経験値の入りはどうだ? 勇者の仲間だと、通常よりも多く入るはずだ」

「ああ、それは確かだ。これならば明日にはレベルが80は行くだろうな」

 

 ならば、ラヴァイトのクラスアップも考えておいたほうが良いだろう。

 尚文がカルミラ島の砂時計を見つけるはずだから、クラスアップはその神殿の砂時計を使えばいいだろう。

 

「それじゃ、適度に狩ったら休憩だな。そのあとは稽古をしよう」

「「はーい」」

 

 そんな感じで平和に俺たちは狩りを続けたのだった。

 

 

 昼休憩が終わり、俺たちはホテルの運動施設を借りて戦闘訓練を始めた。

 ライシェルがリノアの稽古をつけて、俺がレイファに合気道を教えている感じだ。

 ラヴァイトは好きにさせているが、レイファを見守っている感じだ。

 

 と言っても、俺は所詮2段だから、教えられるほどうまくはない。道場を持てるのは4段になってからだ。

 だけれども、付け焼刃でも護身術を覚えておくことは悪いことではないだろう。

 

「はっ、はぁぁぁ!」

 

 リノアを横目で見ると、動きが格段に良くなっているのがわかる。

 ブーメランを使った戦闘が上達している。それにライシェルの指摘があり、徐々に改善している感じだ。

 ブーメランを武器に接近戦で戦う近接戦法、ブーメランを投げて攻撃する遠距離・中距離の戦法それぞれのノウハウをライシェルから教えられる。

 

「いいぞ、その動きだ!」

「そりゃあああ!」

 

 キンキンという金属音が響く。

 リノアの強化はうまくいってそうな感じだな。

 で、レイファのほうはというと、

 

「も、もう一度お願い!」

「はいよ」

 

 合気道の基礎稽古をつけているところだった。

 四方投げ、小手返し、入り身投げの三つを教えている感じだ。

 小手返しと入り身投げは俺も戦闘でそれなりに使うので、割と重点的に教えている感じだ。

 座技は体幹を鍛えるにはいいが、こんな畳やマットのないところでやっても膝をやってしまうだけなので、さすがにそれはしないがな。

 

 合気道の稽古が終わったら、休憩をはさんで龍脈法の訓練に入る。

 

 我の出番だな。少し体を貸すが良い。祝福は血塗れの勇者ならば出てくる必要がないが、さすがに他の物に習得させるには我が表に出る必要がある。

 うげ、まあそんなことだと思ったよ。

 

「それじゃあ、龍脈法を使うための儀式みたいなのをするからちょっと待ってくれ」

 

 俺はレイファとリノアにそれを告げて、主導権を竜帝に渡す。

 おお、なんか動けなくなった感じがするぞ。

 

「ソースケ?」

「……ふむ、久方ぶりの外だな」

「ぶー! なんでソースケがドラゴンになってやがるんだ!」

 

 あ、ラヴァイトが反応している。

 

「ふん、龍脈法を授けるために表に出ただけだ。気にするなよフィロリアル」

「ぶー!」

 

 レイファとリノアは困惑している。後で理由を話したほうがよさそうだな。

 

「さて、我の加護を受けた少女たちよ。血塗れの勇者に頼まれた故にお主らに龍脈法を授けよう」

「え、ど、どういうこと?」

「我は竜帝。今はこの血塗れの勇者の体を借りておるのだ。お主らに龍脈法を指導するためにな」

「ソースケは?」

「無論起きておるぞ。ふふ、慕ってくれるものがこんなにおって、血塗れも幸せ者だな」

 

 いいからさっさと教えろよオモシロドラゴン。

 

「わ、我の名前はオモシロドラゴンではない! まあいい。では、さっそく始めるとしよう」

 

 竜帝は俺の体とレイファとリノアに手をかざす。

 

『我、竜帝サティオンが天に命じ、地に命じ、利を切除し、繋げよう。ここに我、新たな祝福として力を授けようと大地に願う。祝福されしものに龍脈の加護を』

「ドラゴン・ブレスシール!」

 

 俺の体を中心に、ふわりと何かが広がってレイファ、リノア、そして俺を包む。

 

「うむ、これでお主らに龍脈の加護を与えることができた。後は魔力の操作と力の引き出し方を学べば使えるようになっていくだろう」

「そうなんだ……そんな実感ないけれど」

 

 俺もそんなに感じはしないがな。今は竜帝が表に出ているおかげか、魔力の流れみたいなものが見えるようになっている。こう、物から湯気みたいな感じで魔力の流れが出ているのだ。

 

「そうだな、では、あの池の水を使って魔法を見せてしんぜよう。血濡れの、よく見ておけよ」

 

 そう言うと、竜帝は池のほうに手をかざした。

 

『我ここに水の力を導き、具現を望む。地脈よ。我に力を』

「アクアシール」

 

 池の水がふわりと浮き上がり、俺の体を優しく包む。池の水だが、どうやら魔法に使う分は浄化された水のようできれいな水であった。

 

「はぁ……。なんだか難しそうな魔法ね」

「覚えられる気がしないです」

 

 だろうな。俺も見ていたけれど、かなり難しい感じを受けた。

 普段魔法で使っているパズルのようなものの難易度が高い。できなくはないけれどもね。

 

「ほう、ならば試してみるか? 血濡れの」

 

 突然、竜帝は俺に主導権を戻した。

 おい、いきなりでびっくりするじゃねぇか! 

 いいから、試してみるが良い。魔力の流れは、我が目となろう。

 

「はぁ……。試してみるか」

 

 俺は手をかざしてみる。

 え、何これ難しくない?! 

 感覚とかイメージは知っているが、それを実現できない感じ。

 右利きなのに左手で文字を書くような、そんな難易度を感じる。

 

「ソースケ?」

「ごめん、ちょっと集中させて」

 

 俺はレイファに謝り集中する。

 そうら、魔力がこもっておるぞ! 

 うぐ、意識するとつい魔力を込めてしまう。

 確か、魔力を出さないで他から魔力をもらうイメージだったな。完全にマナを使う感じか。

 だが、うんともすんとも言わない。こりゃ、めっちゃ練習するしかないな! 

 

「……だめだ。うんともすんともいわない」

「それじゃあ、私が試してみるわ」

 

 リノアが今度は試してみる。

 

「龍脈法は魔力を他から抜いて使うイメージだ。我が指導するから、上達するまで付き合うぞ」

 

 いきなり主導権を奪うな! 

 

「わ、私もやってみます!」

 

 レイファも水に手をかざした。

 そんな感じで俺たちは、一生懸命に龍脈法を習得する訓練を開始したのだった。


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