夜になり、俺たちは酒場に来ていた。
ライシェルは何か用事があるのか席を外していたが。
「勇者の飲み代は国持ちらしい」
「へぇー。気前がいいじゃない」
「そうですね。私、お酒飲むのは初めて!」
俺の前には、ブランデーのボトルが置いてある。いや、メルロマルク語では『ブランデー』ではないんだけれどね。ルコルの実で作られたお酒を蒸留しているので、ルコル・ブランデーと言ったら正しいだろうか。今日はウィスキーではなくブランデーな気分だ。
勇者武器は基本的に食べ物はそれに近い日本語に翻訳してくれるらしい。
リンゴっぽい木の実はリールの実というんだけれど、味はリンゴで触感はなしと言うものもある。
これのブランデーはリール・ブランデーと言うんだけれど、リンゴ・ブランデーと味は変わらないのでなかなかおいしいのだ。
ちなみに、ルコルの実の酒はワインに近い味わいになる。
そもそも果実酒だからな。ピノ・ノワールに近い味わいの果実酒になる。
渋みがなく、すっきりした味わいが癖になる感じだ。ガメやマスカット・ベリーとは違う感じ。
味はプシャール・ペール・エ・フィスに近いんじゃないだろうか?
個人的にはローラン・ペリエ ロゼのシャンパンなんかは女性でも楽しめる逸品だと思う。果物の味がさわやかに広がり、後味もいいし香りも最高だ。
ちなみに、スパークリングワインは残念ながら提供されていないようであった。
「ラヴァイトも飲むか?」
「オイラ、お酒は苦手だぜ」
「そうか」
「あっちで音楽引いているやつがいるから、そっちに混ざってくるぜ」
「……ほどほどにしておけよ」
ラヴァイトは吟遊詩人が曲を弾いているテーブルにおとなしく座って鼻歌を歌っている。
「……こうして、ソースケとお酒を飲むのは初めてじゃない?」
「そうだな、結局国を解放した後の祝賀会には参加できなかったしな」
「ソースケ、あの時死にそうだったもんね……」
確かに、ひどい重体だったため、回復薬を飲んでも治りきらなかった。
そのため、俺は祝賀会に参加できず、結局樹に拘束されることを許してしまった。
ちなみに、レイファやリノアが飲んでいるのはルコルの実のお酒である。
俺はルコル・ブランデーをストレートでちびちび飲んでいる感じだ。
「うーん、ルコルの実のお酒、やっぱり苦いです」
「アルコール独特の苦みがあるからな。慣れないうちはカクテルにしたりするといいかもな」
「カクテル?」
「そうそう、ジュースと炭酸水を混ぜて飲む飲み方だ。この世界にも普通にある飲み方だけれどね」
俺は店員を呼んで、ハチミツとレモン……シトロンのしぼり汁、炭酸水とロックの氷を準備してもらう。
で、レイファの飲んでいるルコル・ワインにハチミツを小さじ一杯、シトロンのしぼり汁を小さじ一杯、炭酸水を半分になる程度に入れて棒で混ぜて氷を入れる。
「ほい、簡単なワインサワーの完成」
「わあ、ありがとう!」
レイファはさっそく飲んでみると、驚きの声を上げる。
「すごい! すっきりさわやかで飲みやすいかも」
「え、ちょっと、どれどれ?」
リノアも飲んで驚く。
「ほとんどジュースじゃない! 炭酸水が飲み口をさわやかにしている感じね。ソースケ、バーを開いたら儲かりそうじゃない」
「そりゃ、お褒めに預かり光栄ですね」
「さすがソースケ様です」
アーシャはこう、褒め方が心酔している感じがして、褒められてもうれしくないのが特徴だ。
「麦酒……エールなんかは肉体労働した後だとかだとおいしく感じるんだけれどね。この世界ではルコル・ワインの方が一般的なんだな」
「メルロマルクではそうね。そもそも、ルコルの実自体がメルロマルクの特産品だものね。麦酒よりも一般的なのはその通りだわ」
「エールはゼルトブルが有名です。最近はラガーなるものが開発されているとか」
エールは麦汁を上面発酵したものを指す。常温~やや高温で発酵させたもので、3~4日発酵させて2週間熟成させたものがエールだ。この時エールは浮いてくる感じで作成される。だから上面発酵と言うんですね。
ラガーは麦汁を下面発酵させたもので、5度前後の温度で発酵させる。10日ぐらい発酵させて、1月ほど熟成させたものがラガーだ。麦汁に沈む感じで作成されるので下面発酵という。
ラガーのほうは温度の維持が難しいのか、開発が遅れたんだよね。低温発酵だから、雑菌が繁殖しないメリットもあるので、今の日本ではもっぱらラガーが流通しているけれど。
エールは芳醇で濃厚な味わいがするのが特徴で、ラガーはすっきりした喉越しが特徴になる。
どっちも労働者に好まれるお酒ではあるんだけれどね。
「ラガー……無いのか。それは悲しい」
「噂では、貴族の一人がびぃると言うものがない事を嘆いて研究が始まったそうです」
「あー……。マジか」
でも、日本から転生したら飲みたくなるよね、ビール。
俺は、そのビールを提唱した波の尖兵を殺すことができないかもしれないなと思った。
どうせ作り方なんてわからないため研究中なんだろうけれどね。
しかし、この世界では食文化の侵略が起きていなくて驚く。ワインやブランデー自体はそもそも自然発生して然るべきだし、カクテルなんかも、飲みやすいお酒を追求していれば自然発生する。
だが、米や醤油、お味噌なんかがこの世界に存在しないのは不可解でしかなかった。
いやまあ、クテンロウには米だとかありそうだがね。
「そう言えば、ソースケが飲んでいるお酒って美味しいの? ちびちび飲んでいるけれど……」
「ん? ああ、ルコル・ブランデーのストレートはレイファには不味いだけだから飲まない方がいいよ。もうちょっとお酒になれてからな」
「うーん、そうなんだ。わかったわ」
俺たちがそんな感じで飲んでいると、見慣れた一行が酒場に現れた。
勇者共だ。
「お、レイファちゃんにリノアちゃん、アーシャちゃんも来ていたんだな」
「宗介さんが一番乗りでしたか」
そう言えば、この店の間取りはどこかで見たことある気がしていた。
「ああ、お先にいただいているよ」
俺が軽く挨拶をすると、勇者達はそれぞればらけて座る。
元康はヴィッチやハーレムに囲まれ、樹は薫製達と共に、錬は一人で座る。
と言うことはだ。尚文が来て面倒なこと……ルコルの実騒動が発生するだろうから、そろそろ出るのがいいかな?
俺がそんな事を考えていると、最初に絡んできたのは元康だった。
「やっほー、レイファちゃん、リノアちゃん、アーシャちゃん。飲んでる?」
うーん、この軽い感じ。
「は、はあ……」
「モトヤス様、私達と飲みましょうよ」
相変わらずヴィッチがベタベタとくっ付いているんだな。
-1145141919点
「お、宗介は美味そうなブランデー飲んでるんだな!」
「飲むか? ストレートだが」
「俺はソーダ割のほうが好きだね。炭酸水あるなら割ってくれよ」
「配分は?」
「5:5で」
俺は仕方なく、ブランデーを炭酸水で割る。
5:5で割ってロックアイスを入れると、シュワーっと炭酸がいい感じに弾ける。それを元康に渡す。
「おお、いい感じ! お前バーテンやったほうが向いてるんじゃないか?」
「平和になったら考えておくよ」
俺は単に酒好きなだけである。
それも、別に専門書じゃなくてwikiとかそこら辺から引っ張ってきた怪しい知識ではあるけれどな。
「しかし、異世界でもお酒は結構しっかりとした文化があるんだな。これでビールがあったら言うことなしなんだが……」
「エールなら頼めば出してくれるんじゃないか?」
「エールねぇ……。俺としてはクルヒの辛口ドライが好きだったんだが……」
クルヒのドライ?
似たニュアンスだと、アサヒィスゥーパァードルゥァァイ! みたいな感じだろうか?
個人的にはキリンの一番搾りなんかが好きだったが。
「ラガーは無いよ。我慢するんだな」
「マジかー。何でないんだろうな?」
「製法的に難しいんじゃないか?」
「ああ、そうなんだ? 知らないけれど」
残念そうな元康であるが、無いものはないで仕方がないだろう。
元康はすぐに切り替えると、レイファ達に話しかける。
「レイファちゃんたちは今日はどこで狩りしてたの? 良かったら明日、俺たちと一緒に狩に行かない?」
俺の目の前でナンパを始めるスットコドッコイ。
その打たれ強さはさすが、ギャルゲー世界の主人公と言ったところか。
「あー、俺たちは明日も訓練するからスケジュールを合わせるのは難しいぞ」
「そうか……だったら、仲間交換しないか? 俺の仲間と宗介の仲間を交換するんだ。勇者同士の交流にもなるしな!」
「モトヤス様?!」
え、何言っているんだこいつ。
「別に宗介は俺の仲間たちと仲が悪いわけでも無いだろう? だったら問題ないはずだな」
この強引感。有無を言わさないつもりだな!
「何を考えている?」
「何もお前の強さの秘訣を知りたいのは、錬や尚文だけじゃないって事だ」
「なるほど、私やレスティたちが投擲具の勇者様について、強さの秘訣を観察しろと言う事ですね」
「そういうことだ。もちろん、逆に俺の強さの秘訣をレイファちゃんたちが観察して宗介に教えてもいい。どうだ? 面白い案だろ?」
ええー、それって俺に何の得があるんですかねぇ……?
「単に元康がレイファ達とデートしたいだけでは……?」
「おほん! もちろん、狩にはちゃんと行くさ」
咳払いしやがったぞこいつ!
「もちろん、訓練の時間はそれぞれって感じにするさ。どうだ?」
どうだ? って言われてもなぁ……。
レイファ達にをチラリと見る。
「ソースケに任せるわ」
「私はソースケと一緒がいいけれど……」
レイファは引く気がなさそうな元康を見て諦めている感じだ。
「……やはりダメだ。お前はレイファ達を守りきれなかったからな」
俺が当たり前の指摘をすると、元康は驚いた顔をする。
いや、当たり前だろうにな。
「いやいや、あの時はまさか兵士がレイファちゃん達を襲うなんて思わないだろ!」
「思わなくても、だ。錬が守らなければ殺されていたかもしれないんだぞ?」
あの時の話は今思い出しても腹が立つ。
おそらく、俺が皆殺しにした連中も含まれるだろうが、主犯格の奴は牢獄行きになったらしい。
「……いや、すまなかった」
「ちょっと、モトヤス様に無礼じゃないの?!」
ムカッ!
「おい、ビッチさんよぉ? 『誰の許可を得てレイファ達を殺そうとしたか』をここで詳らかにしてもいいんだぞ……?」
「うっ……」
流石に不利を悟ったのか、口出しを止めるヴィッチ。
自覚があるのか、そうか。
現在は推定無罪だから手を出していないだけだ。
物語上影響がないならば俺が殺してしまうだろう。
残念ながら、奴は殺しても死なないタチの悪い悪霊だからな。
「……今度こそ! 今度こそは守ってみせる!」
「……はぁ」
どうにも引きそうにない。
まあ、ヴィッチ達は俺と居るし、元康だけならばまあ、まだマシだろう。
「……はぁ、わかった。1日だけ、1日だけ名誉挽回するチャンスをやるよ」
「おっしゃあ! 話がわかる! ま──アバズレもそれで良いか?」
「まあ、モトヤス様がどうしてもと言うのであれば構いませんわ」
「ま──アバズレはしっかりと宗介の強さの秘密をパクってきてくれよ」
「しょうがありませんわね」
うーん、嫌な予感しかしないな!
ヴィッチのそばにいるとこう、なんだか心が暗くなる感じがするので、そばに居たくない。
「しっかし、美味いな。このブランデー」
「ルコル・デ・メルロマルクの10年ものだしな。結構有名なブランデーメーカーが作ってるから美味しいんだと思うぞ」
「へぇー。宗介ってお酒に詳しいんだな」
「まあ、元の世界にいた時の趣味だしな」
そんな感じで、俺たちは元康と仲間交換をする羽目になってしまったのだった。
作者はそこまで詳しくないです。
少し追記しました。