波の尖兵の意趣返し   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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マッスルと金槌

「水中神殿に龍刻の砂時計があった!?」

 

 尚文に招集された俺たちは尚文から報告を受けて、驚きの声をあげた。

 

「まさか……」

「信じられないなら案内するぞ?」

「別に嘘を言っているとは思っちゃいねぇよ」

「海の中にですか……ゲームだとかなりレアなクエストだった覚えがありますね」

 

 すなわち、書籍版ルートは樹からすればレアルートと言うことになる。実際、他の可能性の世界的にはWeb版が正規ルートなのだろうがな。

 二次創作小説なんかを読むと、多くがWeb版……いや、アニメが放送された後だし、よく設定なんか見ずに書いちゃったりするのも可能性の一つとして考えれば、盾の勇者世界の可能性の世界はより複雑に分岐しそうではある。

 例えば、他の神様による転生とかもあり得るだろう。

 メガヴィッチも元はアーク側の存在と聞く。ならば、メガヴィッチの不正を見抜いた神的存在がメガヴィッチの愚行を止めるために、気づかれないように転生者を送り込むなんて言うパターンも考えられるな。

 まあ、今考えたが。

 

「どうする? 俺は参加する予定だが……」

「レベルアップの成果が試せるのですから僕は拒みませんよ?」

「俺もだぜ。腕がなるぜ。もちろん、本当ならな」

「嘘なんて言っていない。後で案内する」

 

 そこで、拒否する奴が出てくる。錬である。

 

「ふんっ、くだらないな」

 

 カナヅチだっけ。

 まるで興味がない風を装っているようだが、額には脂汗が浮かんでいる。

 いやまあ、錬をよく知る奴じゃないと気づかないだろうけどさ。

 

「おい。世界のために戦ってくれと頼まれているんだろ? 戦えよ」

 

 尚文が引き止めるために錬の腕を掴むと錬は尚文の手を振り払った。

 

「触るな。俺は馴れ合いをしたくてここにいるんじゃない。勇者が4人も居れば問題ないと思ったから俺は島を出ようと思っているだけだ」

 

 すると、尚文が錬を羽交い締めにする。一瞬バチンと弾かれたのは、若干関節が決まったからだろう。

 

「離せ!」

 

 錬は思いっきり暴れる。

 

「宗介! 元康、樹! 尚文を止めろ! 俺は無理強いをされた戦いをするつもりはない!」

 

 その反応で、全員が察したらしい。

 元康がニヤリと笑い、錬に指摘する。

 

「錬。お前……金槌だったのか」

「な──違う! おい、宗介からもなんか言ってやれ!」

「錬サマは一度も水辺のクエストを受けたことがなくて──」

「わかった。参加すればいいんだろ? お前らがそんなに言うなら参加してやる。ありがたく思えよ」

 

 こうして錬をある程度理解していると、反応が可愛く思えるな。

 改心した錬はきっと、お姉様に人気のキャラになるだろう。

 錬はますます暴れる力を入れる。

 

「く……尚文、いい加減にしないと力を入れるぞ」

「入れるがいいさ」

「うおおおおおおおおおおおお!」

 

 錬は必死に尚文を振り解こうとするものの、尚文は涼しい顔をしている。これがステータスの差なのか……。

 

「どうする?」

「金槌じゃないんだろ? 尚文、錬を押さえて海へ行こうぜ」

「おう」

 

 必死に金槌を否定するからそうなる。

 まあ、水に関しては苦手な奴は本当に苦手なので、催眠療法でも使わないと克服は難しいだろうけれど。

 

「お、おい! 悪ふざけは止めろ! 俺は泳げる! だから早く離せ!」

「はいはい」

「あー、錬はガチ目の金槌だからやめたほうが……」

「ここで確かめておかないと、戦力になるかも確認できないだろう? それに、嘘をつく奴にはそれ相応の報いを受けてもらう」

 

 こりゃ言っても聞かないな……。

 結局俺たちは錬を港まで連行していた。

 

「樹は泳げるよな」

「ええ、泳げますよ」

「錬みたいに泳げないのに嘘を言ったりするなよ? ちゃんと泳げるか試すからな」

「わかってますって」

「放せぇえええええ!」

「錬、普段クールぶっているくせに泳げないとか。かっこわりー」

「とりあえず、着衣水泳は普段泳げるやつでも難しいから少し脱がすぞ」

 

 暴れる錬を俺も簡単に押さえつけると、重そうな装備をホイホイ解除する。

 とりあえず、尚文が押さえつけてても解除できる部分は装備を外して、首を通す必要のある鎧以外は外した。

 

「く……俺は泳げる」

「じゃあ頑張れよ」

 

 尚文がそう言うと、錬を離してやる。すかさず元康が錬を海に蹴り落とした。

 

「あ?!」

 

 この世の終わりみたいな表情をした錬が真っ逆さまに海に落ちる。

 水飛沫が上がったので、覗き込むと、およそ首まで浸かる程度の深さだろう。

 もがいているのが見えるが、ありゃ溺れているな。

 

「…………」

「…………」

「……浮かんできませんね」

「はあ……しょうがないな」

「俺が行くよ」

 

 俺は飛び込んで錬を起こしてやる。

 ぷはっと顔を上げて、尚文たちを睨む。……涙目で。

 

「はぁ……はぁ……! お前ら! 悪ふざけはいい加減にしろ!」

「溺れるの早すぎだろ。宗介、深さはどれぐらいだ?」

「足がつくな。肩ぐらいまでの深さだ」

「……マジかよ。筋金入りの金槌じゃねぇか」

 

 元康が哀れむような表情で錬を見る。

 一応、擁護するならば、突き落とされれば誰だってこの程度でも溺れるんだけれどなぁ……。

 特に錬はパニックも相まってヤバいことになる。

 

「一応擁護してやるといきなり海に突き落としたら誰だって溺れるからな」

「それでも、錬さんは戦力にならなそうですね」

「それじゃ困るんだがな」

 

 俺は錬を連れて、海から上がる。

 うーん、ここはやっぱり水泳の練習をさせたほうがいいんじゃないかな? 

 溺死とかされても正直ね……。

 

「俺は金槌じゃない!」

「これだけ状況証拠があってまだ言うか」

 

 頑なに否定する錬に、尚文たちは呆れるのだった。




分割します。

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