『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、我に雷の如き速度を与え給え」
「ツヴァイト・サンダーファストアップ!」
俺は手始めに自分の速度を上昇させる魔法を唱える。
バチバチと電流が走り、足元に伝わる。
雷系の援護魔法の一つだ。
通常のファストアップに比べて雷を纏う分、速さの上昇が見込める。
俺は次元ノケルベロスに近づく。
「せりゃ!」
槍で突いてみるが、あまりダメージを受けた感じはしなかった。
だが、皮膚ぐらいは切れたようではある。
硬い。
ステータスを見ると俺のレベルは15まで上がっているが、それでもダメージを与えた感じが薄かった。
「ワオーン!」
次元ノケルベロスは俺に狙いを定めると、爪で引っ掻き攻撃をしてくる。
見え見えの攻撃ならば、俺にだって回避は出来る。
右、左、右と来る爪を回避する。
「っつえええい!!」
槍で攻撃の合間を縫って突くものの、いまいち攻撃力が足りない。
ならば、クリティカルダメージを狙うのが一番だろう。
基本的に動物の一番脆い箇所と言うのは関節である。
特に筋肉で鍛えようのない場所……股間や鳩尾を含めた正中線の部分は防御力が弱い傾向にある。
実際、何度か試している中でも正中線に攻撃が入るとクリティカルヒットになりやすい事は確認している。
剣の必殺技である兜割は、モーションが大きい一方で当たればほぼクリティカル確定だったりする。
俺は槍で牽制しつつ、戦略を練っていた。
次元ノケルベロスが噛み付いてくる。
それを蹴り上げて口を無理やり防ぐ。
だが、攻撃をしようにも他の首……3つもある首が邪魔だ。
俺が剣で攻撃をしようとすると邪魔をしてくる。
「ブロオオオオオオオオオオオ!!」
俺は剣を持った手で喧嘩殴りをする。
真ん中の首を横殴りにする。
そのまま、俺は剣に力を貯める。
いわゆる魔神剣や空波斬と似たような、斬撃を飛ばす技だ。
「必殺! 空烈剣!」
思いっきり袈裟斬りをすると、目に見える真空波が次元ノケルベロスを斬りつける。
それなりにダメージになったようだが、まだまだHPが残っている。
「ツヴァイト・ファイアランス!」
ミナも援護はしてくれるらしく、時々魔法が飛んでくる。
ミナの方がレベルが高いため、若干効きがいい。
俺は地面を蹴り、次元ノケルベロスまでの距離を詰める。
『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者に雷の衝撃を与え給え』
「ツヴァイト・サンダーブリッツ!」
「必殺! 雷大旋風!」
俺は電気エネルギーの塊を飛ばす魔法を唱えて、それを槍先に纏わせる。
片手で槍を回転させて、次元ノケルベロスの首に叩きつける。
もちろん、ミナの打って弱らせた首を狙う。
バチンッ!! バリバリバリバリ!
雷を纏った槍先がケルベロスの頭を直撃する。
「ギャイイィィイイィイン!!!」
悲鳴をあげて、一つ目の首が沈黙した。焼き焦げて内部まで逝ってしまったのだろうか。
兎にも角にも残り二つ!
注意を向ける数が減ったので、一気に戦いやすくなる。
俺の攻撃はレベル差があるためかチマチマとしか入らないが、内部を攻撃する場合とクリティカルヒットの場合は大きいダメージが見込める。
「ミナ! 兜割を当てる! 魔法で援護を頼む!」
「わかりましたわ」
俺は槍を背負い、剣一本にする。
両手なら鋭く力強い反応ができるためだ。
左手で殴ることもできるため、これはこれでありな戦法だ。
その分、牽制ができなかったりするがな。
「はああああああああ!!」
「ツヴァイト・ファイアランス!」
ミナの援護を背中に、剣を両手で構えてもう一度、次元ノケルベロスに攻撃を仕掛ける。
噛みつき攻撃を回避しつつ、俺はケルベロスの頭をかち割るべく飛び上がる。
「必殺! 兜割!」
全力で左端の頭を狙って振り下ろす。
流石に真っ二つとはいかなかったが、グシャっと音を立ててケルベロスの左端の頭は地面に叩きつけられる。
その影響で剣が食い込み、頭が歪んだ。
ブオンっと音が聞こえる。
次の瞬間、左脇腹に衝撃が走る!
「グハッ!!」
バゴーンっと俺は廃墟となった家の壁にぶつかっていた。
い、今のでHPの半分が吹っ飛んだぞ……!
まだ意識はあるが、朦朧としている。
頭の中で星が飛んでいるイメージだ。
「ソースケさん!」
ミナの声が聞こえるが、急激にHPが減ったせいで動けない。
ただ、直感で俺はその場から逃れる。
直後、俺がいた場所が次元ノケルベロスによって薙ぎ払われた。
「ガハッ!」
「あの冒険者を助けるんだ!」
他の亜人の冒険者が援護に入ったようだ。
「ファスト・ヒール!」
他の冒険者がかけてくれた回復魔法のおかげで、グラついていた意識が回復する。
「はぁ、はぁ、ぽ、ぽーしょん……!」
俺は太腿にあるポーチから、なんとか即時回復用のヒールポーションを取り出すと、口に含んだ。
意識がなんとか回復する。
HPのゲージも3/4まで回復した。
うう……、恐らくさっきの一撃で内臓が逝ってしまったのかもしれない。
すぐに回復できたおかげで、復活したようではあるが。
唾を吐くと、血が混じっている。
やはり、俺と次元ノケルベロスには決定的にレベル差があるのだろう。
『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、我に戦う力を与えよ』
「ツヴァイト・ブースト!」
タゲが他の冒険者に行っていたおかげか、なんとか体制を立て直した。
身体中が痛む。
骨折や内臓破裂は回復したが、痛みは残っている。
目眩がしているが、戦闘中だ。
俺はヨロヨロと立ち上がり、剣を構える。
「行くぞ! 俺!」
気合いを入れて、俺はもう一度ケルベロスに向かう。
「必殺! 空烈剣!」
俺は次元ノケルベロスの尻に向かって空烈剣を放つ。
必殺技なら、多少ダメージは通るようで、すぐに俺の方にタゲが向く。
「ワオォォォォーン!!」
まだ死んでなかったか、と言った態度で俺を殺しに走ってくる。
力だ、力の流れを感じるんだ!
俺は、合気道の剣を持った構えをする。
呼吸を整え、相手に集中する。
「危ない!」
「逃げて!」
と声が聞こえるが、無視をする。
既に一つ頭となったケルベロスはでかいだけの犬だ。
走ってくるならば、力の流れは読める。
俺はケルベロスの噛みつきに剣を合わせる。
転換をして、力の方向を回転に持っていく。
突進に使うパワーを剣で誘導するのだ。
「はぁぁぁぁ……」
呼吸を吐き切り、余計な力みを全て捨てる。
俺の転換に合わせて、次元ノケルベロスはまき糸のようにグルンと回転した。
その力を俺は投げ飛ばす方向に解放する。
先程俺が埋まっていた家の方に次元ノケルベロスを解放すると、ケルベロスはそのまま吹っ飛んでいった。
「行くぞ! 必殺! 兜割!」
俺は追撃をする。
今度は一気に力を溜めて、ケルベロスの中央の頭を破るために飛び上がる。
「はあああああああ!!」
剣は、ケルベロスの中央の頭に命中する。
グシャっという音とともに、ケルベロスの頭部が歪に歪んだ。
クリティカルヒットしたようである。
それと同時に、耐えきれなくなったのか俺の剣がポキンと折れて、剣身が飛んでいき、地面に突き刺さる。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
俺は肩で息をしていた。
次元ノケルベロスはピクピク痙攣しているが、動く気配は無かった。
「おおおお! やったぞ! 波のボスを倒したぞ!!」
「やったああああ!」
と声が聞こえるが、俺は身体が震え出していた。
恐怖、そう、死と隣り合わせだった事実に恐怖を感じていたからだ。
「は、ははは……」
なんとか勝てはしたが、達成感よりも恐怖が俺を支配していた。
「だ、大丈夫ですか? ソースケさん?」
ミナが慌てて寄ってきたが、若干失望感を感じていたように思えた。
「と、とと、とりあえず、ボスは倒したんだ。波はまだ治っていないし、他の冒険者と協力して、波を治めるんだ!」
俺は気合いを入れ直して立ち上がるが、どうしようもない恐怖感に負けないように気を貼るので精一杯だった。
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