波の尖兵の意趣返し   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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マッスルと戦略

 尚文は水平線を眺めながらこう切り出した。

 

「波に参加するときの転送って船とか乗り物も持っていけるのか? 波の時に船の上で待機させるしかなさそうだよな」

 

 アイテムを運ぶための道具なら持っていけるはずだが、人間を載せるための道具……馬車とかは確か無理だったように思う。

 

「一か八かになるが隊列を組む時にはこの案で行くとしよう」

「わかりました」

 

 尚文は影に指示を出しつつ、元康と樹、錬を見る。あ、俺もか。

 

「それでお前ら? さすがに編隊を組むことぐらい理解したよな?」

 

 尚文の指摘に元康と樹がムッとした表情をした。

 

「わかっていますよ」

「ああ! それぐらいやるに決まっているだろ?」

「じゃあ作戦は? どのような陣形で挑むか考えているか? 状況次第だが、どう対処するかパターンは決めているのか?」

 

 魔物に対する殲滅陣形か。

 俺はそういう戦略系のゲームはやったことがないため想像しかできないのだが、勇者を支援する船1隻を先頭に立たせて、大型帆船を並の中心からカルミラ諸島を守るように配備、小型帆船を大型帆船の周囲に配備して大型を守りつつ攻撃して魔物を殲滅するのが一番ではないだろうか? 

 大型帆船を守る小型帆船は1隻につき5隻は付けたいところである。

 

「みょ、妙に詳しいですね。尚文さん。まるで知っているようじゃないですか」

「お前さ……こういう大規模戦闘が自分の知るゲームだけだと思っているのか?」

 

 SLG(シュミレーションゲーム)とかそうだよな。

 スパロボの場合もエースを突撃させたりするが、補給・回復ユニットを近くに配備してそれを守るユニットを近くに配置したりする。

 レベリングが目的ならばわざとエースをひっこめたりするが。

 RTSTG(リアルタイムストラテジーゲーム)とかはさすがにやったことがないけれどもさ。いや、FEZはそうだったっけな。スカウトで戦場をかく乱してばかりだったが。尚文はそういうゲームの経験が豊富なのだろう。

 

「完全に同じゲームの経験はないが、大規模戦闘があるようなゲームぐらいはやっていた。お前らはないみたいだけどな」

「俺はあるって前に話したろ」

「元康、お前の経験はあくまで参加していた程度だろ? 50人……100人以上規模のギルド経験はあるか?」

 

 ちなみにFEZは50vs50なので、尚文から言わせれば中規模なのだろう。

 

「う……尚文はあるっていうのか?」

「あるが?」

 

 俺の世界でもそんな200人以上の大規模戦闘PvPのあるゲームなど限られてしまう。50vs50のFEZでも大規模戦闘と称されるのだ。

 俺が聞き及んでいる程度ならば、ROとかTERAがギルド戦があったように思う。

 改めて尚文の世界には2012年でもそんな増強サーバーを用いた大規模戦闘のできるMMORPGがあったんだなぁ……。

 

「本当ですか?」

「嘘だというのなら前回の波を思い出せ。仕事は完遂したし、死傷者はほとんど出してないぞ?」

 

 何故か悔しそうににらむ元康と樹。

 正直、経験が無いならば勉強してパクリとって次回から自分ができるようになればいいだけの話なんだがなぁ……。

 今回は勇者としての立ち位置で参加するので、指揮ができるようにするつもりである。

 

「ある程度は指揮できるぞ? まあ、この世界に適任の奴らがいるのなら任せるのが一番だけどな」

 

 とはいっても、尚文の戦略はゲームの仕様に沿ったものになる。現実での戦闘経験や指揮能力がある奴なんて日本だと自衛官ぐらいしかいないだろうと思われるので、俺たちが即席でできるはずもない。

 ならば、それができるやつに……この世界の軍人であるライシェルとかに任せてしまうのが一番効率がいいだろう。

 自分たちができるようになるためには、できるやつに弟子入りしてパクリとって自分ができるようになるしかない。

 

「メルロマルクからの応援で詳しい奴が来ればそいつに任せるのが一番だ。そいつらを参加させるために編隊は必要なんだよ」

「なるほど、話は分かりました」

「難しく言っているが、結局城の連中に頼るんだな」

 

 元康が悔し紛れにそんなことを言っているが、尚文の眼はあきれている色をしたまま変わらない。

 

「とにかく、俺たちがやることはゲームで言うところのエースプレイヤーとして波との戦いで先陣を切ることだろ? 有能な奴が切ることのできる切り札が俺たちだと思って行動する。それでいいな?」

「ええ、わかりました」

「尚文に言われると不服だが筋は通っているな」

「了解」

「俺は泳げる!」

「錬、まだ言っているのか! いいから水中神殿に行くぞ! 泳げるかどうかは、そこで見るとしようじゃないか」

 

 尚文の提案に、錬は心底嫌そうな表情をする。

 

「何?! 俺も行くのか?! 編隊で呼べるんじゃないのか?」

「できるとは思うが勇者同士は反発するんだろ? できない可能性があるから念のために登録するんだよ。ほら、この着ぐるみを着ろ、3着ある」

「ぶ?! なんだその着ぐるみ?!」

 

 ペックルの着ぐるみ……俺は出なかったんだよなぁ。

 ウサウニー着ぐるみが出た。

 

「ふざけた見た目だけど水中では優秀な装備なんだぞ。というかお前ら、島の一番奥にいるボスクラスの奴からドロップを手に入れただろ?」

「……そうですね。ですが僕はリスーカ着ぐるみというものでしたよ?」

「俺はウサウニー着ぐるみだったぜ」

「俺もだ」

「……俺はイヌルト着ぐるみだった」

 

 尚文は眉を寄せて難しい顔をする。

 若干噴き出したのは、勇者全員が着ぐるみ装備を装備して戦う姿を思い浮かべたからか? 

 ペックルは負けないペン! 

 ウサウニー着ぐるみも例にもれず優秀な装備だけどな。俺は着ることをためらわないが、レイファやリノアにやめてほしいとお願いされたから着るのはやめている。

 足がめっちゃ速くなるんだよな。俺が着るとクロックアップかアクセルフォームのような速度で動くことができる。

 

「他にも色々とドロップしましたが三着も稼げていませんよ?」

「確かに出現頻度は低いが……あいつら雑魚だろ?」

 

 まあ、俺にとっても投擲具を使うまでもなく雑魚である。なんなら俺単体でも行ける。レイファ達のパーティだとそれなりに苦戦するけれども、倒せないことはない。

 結果、俺は4着程度ウサウニー着ぐるみを持っている。

 

「地味に強くありませんか? 一応ボスクラスの魔物ですし」

「は?」

 

 尚文は疑問に思っているようだが、俺はこれで勇者たちの強さが大体把握できた。

 俺はどうやら素の状態でもラフタリアと同程度の強さであり、勇者たちはレイファ達と同じ程度の強さなのだろう。

 ……改めて聞くと、なかなかに絶望的な状況ではないだろうか? 

 

「とにかく、出発しよう」

 

 尚文が指示を出し、俺たちはそれに従う。

 

「くっ……俺は行かなくても大丈夫だろう!」

「ほら、行くぞ。ほらほら」

「やめろ! 宗介! くっ!」

 

 いじめでもやっている気分だが、錬が泳げないとはいっても勇者である。戦いを強要されているので、ある程度戦えるように水を克服してもらう必要はあるだろう。

 

「錬は泳げるんだろ? なら怖がる必要はないじゃないか」

「くっ……!」

 

 海岸まで錬をひぱってきて、いよいよ水中神殿まで潜るとなって、ついに錬は泳げないことを認めた。

 

「……俺は泳げない! くそっ! 認める!」

「……やれやれ」

 

 尚文があきれていると、ライシェルがやってきた。

 

「勇者殿、水中神殿の調査に向かわれるので?」

「ああ、だが、錬の奴が泳げなくてな。どうしようかと悩んでいたところだ」

「でしたら、水中で呼吸ができる魔法がありますので、それをかけましょう」

 

 ライシェルが指示をすると、魔法使いが錬に魔法をかける。

 

「ファスト・アクアブレスシール」

 

 ほわっと青い光が錬を包み込む。

 アクアブレスシールね。援護魔法っぽいから俺にも使えそうだ。

 

「これで、1時間程度は水中でも呼吸ができます。戦闘用の魔法ではないので急な動きには対処できませんし、流れが急だったり水深が深いところでは効果がなくなりますが、気休めにはいいかもしれません」

「いや、助かる」

「確認のために我々も同行します。剣の勇者様も心配ですし……」

「そうしてもらえると助かる」

 

 尚文はそう言うと、錬にペックル着ぐるみを渡す。

 

「ほら、これを着ろよ」

「ぶふっ! やっぱだせぇ!」

「ふふっ、ですが、水中戦用の装備としては優秀だと思いますよ」

「宗介は?」

「俺はブレスシールがあれば大丈夫だろう」

 

 というわけで、水中神殿まで潜ることになった。

 酸素ボンベ代わりに容器に空気を封入したものを持参して潜る。

 アクアブレスシールの効果は水中神殿が見えてきたところで切れて、錬は溺れかけた。

 多分パニックになるんだろうな。

 こうして俺たちは水中神殿の龍刻の砂時計に登録することになった。

 せっかくだし、俺はこのタイミングで砂時計の砂を入手してポータルを使えるようにしたのだった。


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