「輝石・爆雷雨!」
テリスの唱えた魔法がラルクの鎌に向けて雷を放ち、それが集まる。
そして、鎌を大きく構えると、尚文に向かって振りかぶる。
バチバチと言う放電音が少し離れた位置にいる俺にまで聞こえてきた。
「合成技! 雷電大車輪!」
鎌の剣先が尚文の出した結界……流星盾に当たると、結界にヒビが入りバキンと音を立てて割れる。
そのまま振り下ろされた鎌を、尚文は盾で受け止める。
「はぁああああああ!」
俺は後ろ手で合図をしながら、ラヴァイトと共に女王の方に回り込む。
バチバチと放電する音がするが、尚文は表情を変えずに受け止め切る。
鎌から放電された雷は尚文の背後には届いていないようであった。
「おうおう、雷電大車輪を余裕で耐え切っちまうか」
そのセリフと同時に、尚文の盾が動いてラルクの腕をかじる。
ソウルイーターシールドのカウンター効果だったっけか?
今回の切り札の盾だ。
「うお!? なんだ!? 痛くねぇ……」
ラルクは思わず尚文から距離を取る。
その様子を横目に俺は、女王様の側まで近寄った。
「ああ、投擲具の勇者様。来ていただけたんですか!」
「……盾の勇者の実力ならば、俺の手助けは必要ないと考えますけれどね」
「いえ、是非ともイワタニ様をご支援していただきたく思います。投擲具の勇者様」
俺が話している間にも、ラフタリアとフィーロがラルクたちに攻撃を仕掛けていた。
俺は尚文にとって切れるジョーカー的な存在なのだろう。
後ろ手でまだ出るなと指示を出しているのが目に入る。
「まあ、想定外のことが起こらない限りは俺の役割は後詰ですよ」
そう答えつつも、俺は尚文達から目を離さない。
俺の実力ならばラルクを制圧するのは容易いだろうけれども、それが原因でハッピーエンドを逃すというのも釈然としないものがあるしな。
それにしても、さっさとこの投擲具をタクトに渡したいものである。
そうすればようやく、俺は安心してこの「盾の勇者の成り上がり」から退場できるというのにな。
「ラフタリア! フィーロ! 俺が隙を作るからラルクに攻撃を仕掛けろ!」
「はい」
「うん!」
そのタイミングで、尚文のサインが変わる。
タイミングを見てテリスを攻撃しろと、そう言うことみたいだった。
「ラヴァイト、この人達を守ってやってくれ」
「オイラに任せとけ!」
俺はため息をついて、短剣を取り出す。
別に眷属器以外を使ってもいいけれども、レベル差でステータスが足りないなんて場合もあるからね。
俺は後をラヴァイトに任せると、俺は気配を殺しながらテリスの方まで近づく。
と言っても、別に暗殺技能を持っているわけでもなく、戦いに集中しているところを狙うわけだから相手が意識すれば見通しの良い子の船の上ではバレバレであるけれどね。
「エアストシールド! セカンドシールド!」
尚文がラフタリアとフィーロの攻撃にのけぞった瞬間にスキルを発動させる。
ラルクや魔法を詠唱するのに集中しているテリスの意識の外にいる俺は、テリスの詠唱を中断させるように腹部を狙ってぶん殴る。
「っ?!」
テリスは直前で気づいたのか、間一髪で俺のは腹パンを回避した。
「テリス?!」
「大丈夫です!」
テリスはそう言いつつ、俺に敵意を向ける。
「どなたかは存じ上げませんが、私たちの戦いに乱入するのはどう言うつもりなのかしら? 死にたいのですか?」
どうやら顔は割れていないらしい。
「……」
俺はそれに返答せずに、投擲具をチャクラムに変える。
「……ラルク、申し訳ありませんが、こちらはこちらで対応が必要そうです」
「伏兵か?!」
「奥の手ってのは切れる時に切るものさ」
「なるほどな、ナオフミ、お前の奇策の2つ目って事かよ! 案外頼れる仲間が居るじゃねぇか!」
「お褒めにあずかり光栄だな。宗介、魔法使いの女は任せたぞ」
俺はうなずいて返す。
あまり、敵に情報を与えたくないので俺は喋らないことにした。
「エアストスロー」
チャクラムを複製、テリスが魔法に集中できないようにチャクラムを投擲する。
そもそも、投擲具は中距離〜遠距離のレンジで戦う武器だ。
当然遠距離で戦う魔法使い職との相性はこっちの方が上で、前衛を無視してダイレクトアタックができる。
とまれ、戦術レベルの相性と、個人の相性は違ってくるけれどね。
「輝石・業火!」
「セカンドスロー」
煌めくような炎が俺を襲うが、俺は構わず投擲具のナイフを複製して投げる。
目標は、テリスのブレスレットだ。
宝石を砕けばそれで、魔法の威力が落ちる。予備に複数持ち歩いているだろうけれども、俺が装備を入れ替えさせるような暇を与えるわけがない。
投擲したナイフに回転力を加えて投げると、炎を突き破りテリスに向かって飛ぶ。
「くっ!」
紙一重で回避されてしまった。
まあいい、戻ってきたチャクラムを移動するテリスに投擲する。
絶対に移動させるつもりなので、簡単に回避できるけれど、当たれば大ダメージの位置にピンポイントに投げる。
ラルクと尚文達は、それでも互角の戦いをしていた。
俺は、テリスの魔法の援護ができないように牽制しつつテリスの様子を窺っていた。
「あなた、どう言うつもりですか?」
流石に、俺に攻撃を何度か回避してテリスは勘付いたようだった。
「私を倒すつもりがあるのですか?」
「……」
答える義理は無い。
大人しく踊って貰うのがいいだろう。
実際、俺が参戦した時点で、詰みである。
「あなた、もしかして眷属器の勇者ですか? その強さは尋常じゃありません!」
やはり、異世界の人間は勘がいいな。
「ラルク! 彼はこの世界の眷属器のようです!」
「なんだと?! そりゃ、テリスが遊ばれてるのも納得がいくなっと!」
「よそ見をしている暇はあるのか?」
「とおー!」
向こうでは、本編通りの戦いを、繰り広げているようだった。
フィーロの攻撃を鎌で受け流し、スキルを放つ。
既に防御比例攻撃を看過していたらしく、攻撃を回避していた。
「テリス、すまねぇがこっちはこっちで手一杯だ! そっちの眷属器の方は何とかしてくれ!」
「分かってます!」
テリスはそう言いつつ、詠唱の短い炎の魔法で俺に攻撃してくる。
意思を持った魔法なので、回避が非常に難しいようだが、そこは投擲具を投げて撃ち落としていた。
何度かブレスレットにも命中していたし、武器破壊できそうなんだけれどなぁ……。
テリスも俺の狙いに気づいているらしく、なかなか命中しないというのもあるのだろう。
戦局は、ラフタリアがテリスの妨害に入らなくて済んでいる分、尚文側が優勢のようであった。
こっちもこっちで、膠着状態なんだけれどね。
戦いが大きく動いたのは、ラルクがフィーロのスパイラルストライクを受け切った後だった。
「勝てると思ったんだがなー……どうやら俺じゃナオフミには勝てそうにないぜ」
「ここまで追い詰められて、まだ余裕を見せられるお前を素直に称賛する」
「はは、ナオフミらしいな。だけど俺だって負けられないんだよ」
原作小説を22巻まで読んでいるから知っているが、この二人は……いや、あの和装の女勇者が間違っているんだよな。
その辺の追求は、主人公ではない俺の役目じゃないけれどな。
と、近場で水しぶきが上がる。どうやら、この章のボスがお出ましになったようだ。
「いつまで時間をかけているのですか?」
「お前は?!」
整った顔立ち、長い黒髪に透明感のある肌……いや、実際見てみると生気のないと言ったほうが相応しいか?
喪服のように黒い、柄が艶やかな着物を見に纏い、眷属器の扇を持つ女性が現れたのだった。
そう、彼女こそがグラス……尚文たちにトラウマを植え付けた人物であった。
遅くなってすみません。
次回は6/13に更新します