「おお、グラスの嬢ちゃんじゃねえか。そっちはどうなんだ?」
「すでに撃破したから乗り込んできたのでしょう?」
ラルクはグラスと親しげに会話している。そりゃ旧知の仲であるし同じ勇者のパーティメンバーであるのだから当然であるけれどもね。
尚文を見ると、戦々恐々と言った表情をしている。
グラスは鋭い目つきを尚文に向ける。
「さて、ナオフミでしたか、また会いましたね」
グラスは初めて見るが一見すると黒髪に赤い瞳の和装美人であった。
精霊具独特の赤い宝石が飾られた黒い戦扇を持っている、扇の勇者と言うやつだった。
全体的に剣のように鋭い印象を受ける女性だった。
アニメで見る以上に鋭い殺気を持った印象である。
「できれば会いたくなかったがな」
「ラルクをここまで追い詰めるとは……しかも、その盾を見る限り本気ではないようですね」
「何?! ナオフミは本気じゃないだと?」
グラスの言葉にラルクは驚く。
カースシリーズのことを指しているというのは、原作を読んでいれば推測をする必要すらないけれどね。
「ええ、あれが本気で戦うときに使っている盾は、現在の盾とは大きく異なります」
「そうか……じゃあさすがにこの劣勢を逆転するのは難しいかもな」
俺がいるせいか、ラルクのセリフが若干違う気もしなくもないが状況はさほど変わっていないようだった。
「ふん。防御比例攻撃なんて厄介な攻撃をしてくる相手に、一番硬い盾で相手できるかっての!」
「……なるほど」
グラスが戦扇を広げて、尚文に向ける。俺は眼中にないといった感じかな?
「では、私も此度の戦いに参加させていただきましょうか」
「できれば戦いたくないが……やるしかないみたいだな」
尚文は盾をしっかり構えてグラスを見据える。
「波のボスから数えて……第三ラウンドの始まりだな」
さて、うんざりした顔をしながらグラスとラルクを相手に尚文は戦い始めた。
俺はどうしようか?
「あなたは戦わないのですか?」
「んー……。テリスはどうしたらいいと思う?」
「はぁ?」
テリスはいぶかしげな顔をする。
「俺の目的としては、タイムアップなんだけれど、どうやったらいい感じに介入出来ていい感じにタイムアップまで持っていけるかって悩んでてね。どうしたらいいと思う?」
「……よくわかりませんが、私たちの目的とは相いれませんね。だから、あなたの介入を阻止させていただきます!」
「……そうかい」
俺は武器をナイフとトマホークに変更する。
タイムアップまでの時間は自分のステータス画面右上に赤い砂時計とともに表示されている。
はっきり言って、俺とテリスの実力の差は圧倒的と言わざるを得ない。
少なくとも勇者の武器をメインに据えている場合は対等ですらないのだ。
……そろそろ、タクトにこの武器を渡す必要があるんだけれども、勇者としては武器縛りをやめるわけにもいかないからね。
俺はけん制するようにナイフを投げる。
テリスは素早くナイフを回避して魔法を唱える。
「輝石・業火!」
詠唱短縮なのか、腕の宝石がきらめいたと思ったら炎が噴き出してくる。
俺はトマホークで炎を切り払う。
「なっ?!」
別にここからトマホークを投擲すればダメージを与えることができるだろうけれども、目的は時間稼ぎなので一直線にテリスに向かって走る。
「あまり使いたくありませんが、仕方ありません」
テリスはそう言うと、宝石を周囲にまき散らした。
これは、あの宝石群を爆発させる攻撃だな。
そう判断した俺は、ナイフを複製して投擲する。
「仲間たちよ。最後の輝きを……願う。貴方の礎によって私達の未来を開け。輝石・収縮爆!」
宝石が輝きだし、虹色の光を放つと爆発する。
轟音が響くが、宝石をいくつかナイフで弾いていたおかげで、テリスまでの道はある程度空いている。
爆風が肌を焦がすが、たいしてダメージになった感じはしない。
一気に走り抜けてテリスに接近する。
「さすがは眷属器の勇者と言ったところですか……!」
そのまま接近戦となり、格闘戦が始まる。
俺としては組手のノリだ。
テリスは無手でも俺の攻撃を受け流せるだけの技量はあるらしく、トマホークで切りかかってもうまく往なされる。
「やるじゃん」
「それはどうも!」
テリスはそう言うと、俺の腕を取り投げる体制に入る。
だけれども、合気道家の腕を取るというのは相手に対して攻撃チャンスを与えるということと同義だ。
俺は体制を転換で反転させて、つかまれた腕ごと自分の重心の近くにテリスの手を誘導する。
「なっ?!」
だが、そのまま投げようとするとばちっと電流が走って俺はテリスから弾き飛ばされてしまう。
『伝説武器の規則事項、専用武器以外の所持に触れました』
そういえば、そんな設定あったななんて思いながら、俺は素早く体勢を整える。
まったくもって不便な縛りだな。
「異世界人特有の、特殊な武術ですか……」
「残念ながら使えないみたいだけれどね」
俺は内心肩をすくめながら、武器を構える。
それにしても、こっちも手加減をしているとは言えテリスはなかなか善戦するな。
あっちの世界とこっちの世界が統合してレベルが統合している影響だろうか?
どちらにしても、支援系の魔法使いに足りないことが多い近接攻撃に対する対処方法も彼女は身に着けているようであった。
「テリス!」
「!」
不意に男の……ラルクの声が聞こえて、俺はその場を飛びのく。
俺のいた場所に鎌が突き刺さる。
「大丈夫か? テリス!」
「ええ、私は大丈夫です。それよりも、グラスさんのほうは大丈夫なのですか?」
「ああ、テリスはグラスの嬢ちゃんの支援に回ってくれ。こっちの厄介なのは俺が引き受ける」
ラルクはそう言うと、俺をにらみつける。
ああ、そういえばラルクはテリスのことが好きなんだっけ?
ちらりと尚文のほうを見ると、グラスは尚文相手に善戦しているように見える。
とまれ、ソウルイーターシールドを装備した状態なので、距離を取ってカウンターを受けないようにしているが。
「グラスさんは?」
「嬢ちゃんからの指示だ。眷属器ならば同じ眷属器相手じゃないと分が悪いからな。だから、テリスはグラスの嬢ちゃんのほうに行ってくれ」
「わかりました」
テリスはうなづくと、魔法を唱える。
「遍く宝石の力よ。私の求めに応じ、顕現せよ。私の名前はテリス=アレキサンドライト。 仲間たちよ。彼の者の強固たる守りを衰えさせよ。輝石・粉守!」
テリスは守備力を上げる魔法をラルクにかけると、グラスの方向に走っていった。
「さて、話が終わるまで待っててくれるなんて余裕そうだがこれからはそうはいかねえぜ……」
ラルクはそういって俺をにらみつけるが、不意に疑問を顔に浮かべる。
「あれ、お前さん、どっかで会ったことないか?」
「気の所為じゃないか?」
「そうかい。まあいい、ナオフミとの戦いに水を差したんだ。手加減なんてしないぜ。お前さんも勇者ならば、覚悟を決めろよ」
こうして、俺とラルクは戦うことになってしまうのだった。
またまたお久しぶりです。
今日の16時に次の内容を投稿しますので、お待ちください。