「飛天大車輪!」
いきなり鎌を大きく振り回して投げ飛ばしてくる。
さすがに中近接で戦いなれているだけあり、スキルを放った後にラルクは移動を行って接近している。
俺は鎌を回避して次に来るラルクに備える。
「おらあ!」
一気に接近してきたラルクは戻ってきた鎌をつかむと、そのまま切り殺そうとしてくる。
「はっ」
トマホークで受け止めると、手がびりっとする。
「そらそら! これならどうだ!」
ラルクの連撃を俺はトマホークとナイフですべて受け流す。
合気道が武器によって封じられているので、受け流しだけに用いる。
「円月陣!」
ぐっとラルクが構えてスキルを放つ。
範囲攻撃らしく、俺は距離を取って攻撃範囲外に出る。
「やるじゃねぇか。ナオフミにも負けないぐらい実力があるみてえだな!」
受け流して回避しただけで実力がわかるのか。
まあ、一番戦い方が出るのが自分が攻撃した内容に対してどう対処するかというのだけれどね。
俺は投擲具を投げる。
「影縫い」
ラルクの影に向かってナイフを投げると、ラルクは影に当たらないように回避する。
スキル名が効果を表しているからね。さすがに感づいたらしい。
「ふう、危ない危ない。拘束スキルか。距離を取るのはお前さん相手には不利のようだな」
さすがに簡単には捕まらないか。
それじゃあ、こっちのほうを試してみるかな。
「セカンドスロー、ドリットスロー、コンボ、サウザンドスロー」
手元のナイフとトマホークが一気に分裂していく。
そして、時間を停止させるスキルを発動させた。
チートそのもののスキルであるが、直接切ることはできないという制限があるスキルだ。
俺は止めた時間の中で分裂させたナイフやトマホークをラルクに向かって投げるように設置していく。
投擲具の勇者としての俺の必殺技と言ったところだろうな。
そして、時間が解除されてラルクに向かって武器の雨が降り注ぐ。
「なっ?!」
案の定というか、ラルクはすぐさま状況を理解して、スキルを放つ。
「一ノ型・風薙ぎ!」
鎌のスキルによって発生した風が投擲具の軌道を変更してほとんどが地面に突き刺さり消えていく。
だが、一部はラルクに命中したらしく、ダメージを受けたようだった。
「卑怯な技を使いやがって!」
「投擲具だからな。それらしく中距離で戦うのが戦法ってやつだよ」
ただ、少し戦ってみて思ったのは、俺とラルクの相性は悪いということだった。
鎌の攻撃範囲と投擲具の攻撃方法の相性が悪すぎる。それはもちろん、近接戦闘においても同じことが言えた。
考えて投げなければ、鎌で切り払いされてしまうのは明らかだった。
ラルクもそれに気づいたらしく、すぐに接近戦を仕掛けてくる。
「へへっ、どうやら俺のほうが有利なようだな!」
大ぶりの攻撃は攻撃の軌道が読みやすく、回避したりするのはそこまで難しくない。
しかしながら、武器のレンジが鎌のほうが長いため、投擲具では防戦一方になってしまう。
ナイフで防御すれば火花が飛び散り、防御貫通攻撃のためかダメージを受けてしまう。
「ぐっ」
やはり攻撃力が高いため、防御力の低い俺ではそこそこいいダメージをもらってしまう。
俺はラルクの鎌を回避しつつ、分裂させたナイフを投げる。
「おっと!」
カウンターで入るナイフをよける際に隙ができるが、安易には攻撃することができない。
さすがはラルクと言ったところだろうか。
これは、手加減なんてしていたら逆に追い詰められかねないな。
「っあ!」
俺は懐に潜り込もうとナイフを投げる。
しかし、そのたびにラルクが攻撃をして妨害が入る。
一進一退の戦いになっていた。
「エアストスロー! セカンドスロー!」
「円月陣! 飛天大車輪!」
激しい金属音と、戦いの余波で破損する甲板。
レベル差ではなく、実力の差では完全に五分五分と言った感じであった。
「ぐああああああああああああああああ!」
俺とラルクの戦闘が中断したのは、激しい閃光と同時に聞こえたグラスの悲鳴だった。
「グラスの嬢ちゃん!」
俺とつばぜり合いをしていたラルクが目だけを声のほうに向けて声を上げた。
つられて俺も、そっちのほうに目を向けると、ちょうどその方向には煙が巻き起こっていた。
煙が晴れると同時に、満身創痍のグラスの姿があった。
「はぁ……はぁ……問題……ありませんよ」
魔法剣で貫かれた腹の部分を手で押さえ、グラスは肩で息をしていた。
「グラスさん、ここは一時撤退を」
「いえ……まだです。私はここで引き下がるわけにはいきません!」
「グラスのお嬢! クソ! どけ!」
俺はラルクに蹴り飛ばされる。
道中フィーロが邪魔に入るが、ラルクに往なされてしまう。
なんというか、歴史の修正力だろうか? フィーロの代わりを俺が担う状況だったらしい。
ただ、フィーロの手が空いていたせいか若干尚文側のほうが有利だったように見える。
「グラスのお嬢、ジッとしてろよ」
ラルクが鎌からアイテムを取り出して、グラスに振りかけた。
確か、あれは魂癒薬だったはずだ。
スピリットにとっての回復薬である魂癒薬をかけられたグラスは不思議な表情を浮かべて立ち上がった。
「エネルギーが……急速に回復した?!」
「ナオフミ、そこの投擲具の眷属器の兄ちゃん。お前たちはすげえよ。もはや手段を選んでいる暇はねえ。できれば節約しておきたかったが、俺も切り札を切らせてもらうぜ」
ラルクは俺たちをにらみながら、グラスに魂癒薬をどんどん振りかける。
「ラルク……これはどういうものなのですか?」
「俺にとっては技に使う力を回復させるもんだけどよ。グラスのお嬢には驚異的な強化道具だろ?」
「……ええ、そう、ですね」
スタッと立ち上がったグラスは尚文を睨みつける。
「行きます」
グラスがそう言うと、目にもとまらぬ速さで尚文の目の前まで移動すると鈍い音がした。
「はあああああ!」
「うわ!」
尚文は何とか耐えられたようだった。
俺が食らったら確実にノックアウトされるだろう威力の攻撃だった。
場所が悪ければ即死だろう。
タゲが尚文に向いていてよかったと、思わず安堵してしまう。
「ナオフミ様!」
「ごしゅじんさま!?」
尚文の後ろに控えていた二人が悲鳴のような声を上げる。
完全に観戦モードに入ってしまった俺は、右上の砂時計を意識する。
そろそろタイムアップだな。
俺は回復薬を取り出すと、口に含む。
「輪舞破ノ型・亀甲割!」
あんな超高威力の攻撃が飛び交う戦闘に割って入れるほど、俺の防御力は高くなかった。
フィーロはともかく、ラフタリアはタイミングを見計らいつつ尚文の盾に守られている状態だからだ。
……あとは、俺が出張ることなく本編通りに状況が進んでいった。
尚文とグラスの一進一退の攻防、女王の放った奇策と言い、まさにアニメを直接目の前でやっている状態が繰り広げられていた。
そして、ラースシールド。
あれを見るのは2度目だった。
そうこうしているうちに、視界に大きく数字が表示された。
00:59
状況は尚文が優勢だったが、グラスたちの表情には焦りが見えた。
「どうやら……本当に後先なんて考える余裕はないようですよ。ラルク」
グラスが戦扇に手を翳す。
「まさか、グラスさん!?」
「お嬢!」
渾身の一撃を放とうとしたグラスをラルクが羽交い絞めにする。
「何をしているのです! 邪魔をしないでください!」
「それだけはしちゃいけねぇ。そんなことをしたら、その先はどうするつもりなんだ!」
「ですが、あれだけの力を持っている相手。倒すには相応の代償を支払う覚悟が必要です」
「お嬢、そのことだが──」
いつでも参戦できる位置で見ていた俺では、完全にラルクの顔が隠れていて読唇術があってもセリフは聞き取れなかった。
「……わかりました。今回は一旦撤退するとしましょう」
「逃がすと思うか?」
「逃げ切って見せましょう。ナオフミ、次こそは私達が勝利します」
グラスはそう言うと、周囲を攻撃して尚文たちを近寄らせないようにする。
「というわけで今回はお前等の勝ちだ。じゃあな、ナオフミ、投擲具の勇者。……やっぱ呼びづれぇから坊主でいいか」
「なんでだ!」
ラルクは爽やかな顔で別れの挨拶みたいに手を軽く振って、波の亀裂に飛び込んでいった。
俺も軽く手を振る。
「それでは今回はお暇させていただきます。さようなら」
テリスは魔法で吹き飛ばされた兵士たちを助けたのちに宝石をばらまいて閃光弾のように光らせて逃げて行った。
アニメのように上空に飛んでいくので、追いかけようにも追いかけられそうになかった。
「待て!」
尚文は彼らに向かってそう叫ぶが、すでに並の向こう側に行ってしまった後だった。
「くそ! あと少しだったのに!」
尚文の主人公らしい慟哭は、波の亀裂にむなしく響くだけだった。
満身創痍の俺たちは、時間が来て波の亀裂が閉じる様子をじっと見ていることしかできなかったのだった。
マッスルが関係なさ過ぎて草生えます
あとは、エピローグで5巻分の内容が終了ですね。
遅くなって申し分けありません。
なんというか、原作部分が強く出すぎるとどう演出したらいいかをすごい悩んじゃうんですよね。
次章からはオリジナル色がかなり強めになると思います。
霊亀と戦うかは、アンケートにしようと思いますが、ラスボスはタクトにすることだけは決めてます。