波の尖兵の意趣返し   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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エピローグ

 俺たちは、尚文たちとは離れたところで合流していた。

 

「お疲れ、ソースケ。大丈夫だった?」

「ああ、なんとかね」

 

 レイファに心配されて、俺は自分の体をよく見ると、結構傷だらけであることに気づく。

 回復薬を飲んだにもかかわらず、傷が残っているということはそれだけラルクが強敵だったということだった。

 

「だいぶ強敵だったみたいじゃない、あの冒険者。ソースケがここまで怪我をするなんて、相当な実力者ね……」

「勇者の戦いと言うものは、メルロマルク女王のような奇策を用いることのできる戦略家でなければ介入できないのだなと思い知らされましたわ」

 

 リノアとアーシャはそれぞれあの戦いを見ての感想を述べていた。

 ラフタリアやフィーロのように四聖勇者の仲間ならともかく、不正な眷属器の仲間だとどうなのだろうか? 

 俺の仲間は奴隷ではないため、どのようなステータスなのかは確認できないためどうしようもないが、そもそもこの世界の標準があまりわからないので、参考にもならないか。

 

「なんにしても、波は乗り越えられたんだ。それで良しとしよう」

「あの偉そうにしていた勇者様方があっけなくやられちゃったのは、やばいと思うんだけどね」

 

 リノアは「勇者様方」をからかうような感じのイントネーションでそう告げた。

 

「盾の勇者様以外役立たずって、どうしようもないと思うわ。……本当にあいつらって勇者なのかしら?」

「……正直、疑いたくなる気持ちはわかります」

 

 と言うか、周囲の兵士や冒険者たちの言葉に耳を貸せば、三勇者(馬鹿)に対する不信感は出ているようである。

 波に対抗するためにわざわざ異世界召喚したにもかかわらずあの弱さはなんだ。

 真の勇者様は盾の勇者様だけじゃないか。

 そんな感じの声が嫌でも耳に入ってくる。

 あいつら、ラルクたちにも勇者として認定されていなかったしな。

 

「ソースケ、どうにかできないのかな?」

「正直、俺じゃあ無理かな。錬ですら俺の話を聞かない状態だし……。ここまでくると正直お手上げかな」

「そうなんだ……」

 

 残念ながら、ここまで時間が経過してしまうと、彼ら自身が本当に痛い目に遭って価値観を変えざるを得ない状態になるまでどうしようもないと思う。

 いや、実際あいつらの意識や価値観を変えずに強化させる方法なんていくらでもあるけれど、この世界のストーリーの大筋を変えたくない俺としては、このままの状態が非常に都合がよかった。

 あいつらの内面を変えずに強化してしまうと、きっとひどい目に遭うのが先延ばしになるだけだと思うので、あいつら自身のためにも失敗をちゃんとさせたほうが良いだろうというのが俺の判断でもある。

 

 俺の目的は変わらないのだ。

 

 今回だって、大筋が変わっていないことに安堵しているところだしね。

 

「投擲具の勇者様」

 

 不意に話しかけられて、俺はそっちのほうを見る。

 そこには青い髪のツインテールの女の子……確か、メルティ王女が兵士達を連れてきていた。

 

「あっ!」

 

 レイファ達は深々と頭を下げる。

 

「こちらにいらしたのですね。女王陛下がお呼びです。よろしければお仲間の皆様とともにこちらにいらしてください」

 

 要するに、ついて来いということらしい。

 

「わかりました、メルティ姫様。それじゃあ行こうか」

「うん」

「わかったわ」

「わかりました」

 

 ライシェルさんはきっと女王様のそばにいるのだろうな。

 そう判断して俺たちは女王様のところまで案内される。

 

「召喚に参上していただきありがとうございます、投擲具の勇者様」

 

 女王陛下のところに来るなり、そう歓迎される。

 そばでは尚文が難しい顔をしながら、ラフタリアたちと何か話しているのが見えた。

 

「投擲具の勇者様、此度のご活躍、真に称賛に価します。ぜひとも世界のため、共に波を、様々な困難を乗り越えていきましょう」

「女王陛下のお言葉、真にありがたく拝聴させていただきます」

 

 俺は恭しく、メルロマルク式の最敬礼をする。

 

「それで、投擲具の勇者様の今後の予定はどうなっていますでしょうか? 我々の見解としたしましては、他の四聖勇者様方と異なり修行の必要はないかと存じます」

「そうですね。現状、彼らの強さは盾の勇者様に大きく後れを取っているというのが現状だと愚考いたします」

 

 俺の言葉に、女王陛下はため息をついて同意した。

 

「やはり、投擲具の勇者様から見てもそのように見えますか……」

 

 悩ましげな表情は、やはり美人だなと改めて思う。本当に経産婦か? 

 

「我々の予定では、今後世界を巡りながら各地の波を抑えていきたいと考えております」

「わかりました。我々メルロマルクは七星勇者様に関する権利をすべて放棄しておりますので、勇者様のご意志のままになさってください」

「わかりました」

「お時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。此度のご活躍、誠にありがとうございました。報奨金については後ほどご連絡させていただきます」

 

 俺は再び礼をして下がる。

 やはり、現状危機感を持っているのは勇者以外といった印象だった。

 

 ……まあ、自分たちのやっていたゲームが実は黒幕の罠だなんて、気づくほうが無理と言うものだろう。

 ただ、実際のところは多くの差異があるだろうに、そのあたりはどう考えているのか気になるっちゃ気になる。

 なろう系俺TUEEEEでも、敵のほうが強いなんてことになったら、多くの主人公は努力をするだろうにな。

 いやまあ、そもそも自分よりも強い敵を出さない話もあるだろうけれど。

 

「あー、ドキドキした」

「どうせ対応するのはソースケだけなんだから、そこまで緊張する必要ないわよ、レイファ」

 

 そんなことを後から続いてくるレイファとリノアの会話を聞きながら、久しぶりにライトノベルをゆっくり読みたいななんて思う俺であった。

 残念ながら、オモシロドラゴンでないので、俺の世界の小説を俺自身が読むことはできないのだが。

 まあいい、次だ。

 霊亀にどう対応するのか、対応しないのか。

 そして、どのタイミングでこの投擲具をタクトに譲渡するのか。

 考えることはそれほどあるわけではないが、どちらの問題も難しい問題であるため選択は慎重にする必要があった。

 

「ソースケ、難しい顔をしてどうしたの?」

「ああ、世界を救うって大変だなって思ってな」

「そりゃ、世界を救うって大変に決まっているじゃない。そんなことより疲れたわ。帰って休憩しましょ」

「そうですね。ソースケ様も一緒にお風呂に入りましょう」

「却下だ。……まあ、疲れたしカルミラ島から出れるようになるまで時間がかかるし、それまではゆっくり休むとしようか」

「うん!」

 

 女王陛下との面会を終えて、俺たちは宿に戻りゆっくりと休むことにした。

 さすがに、ラルクとの戦いは非常に疲れたのだ。

 勇者たちの問題を解決させるのは、尚文に任せればいいので、俺は俺のすべきことをしよう。

 もはや波の尖兵だとか、そこら辺からずいぶんと離れてしまった気がするが、考えることは明日、ゆっくり考えることにしよう。

 

 こうして、俺は第5巻までのストーリーの大筋を変えずに済んだのだった。




これで、5巻の内容はコンプリートです。
え、温泉騒動の話?
需要があったら書きますけれど、宗介は覗かない派になるので、たぶん書かないと思います。

アンケート設置しましたので、回答をお願いしますね。

上から
参加度100
参加度80
参加度50
参加度20
参加度0
です。

第8章霊亀・タクト編で、霊亀との戦いはどうしようか?

  • 霊亀をぶっつぶす!
  • 俺は戦う!俺のルールで!
  • 人を救うのに立場なんて関係あるか!
  • 顔を背けたらそこで終わりだ
  • 俺は女神の道具なんかじゃない!

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