俺が会議室に入ると既に
非常に不満そうな表情を隠していないのは、やはり昨日冒険者に一蹴された事を気にしているのだろうか?
カルミラ島沖での海戦はweb版には無いルートなので、ブレイブスターオンラインでも無かったイベントだったりしたのだろうか?
まあ、カナヅチの錬が気に食わなかったのは仕方が無いだろう。
「……ソースケか」
それだけポツリと呟くと、フイッとそっぽを向いてしまう。
嫌われたかな?
俺はライシェルさんに案内された席に座る。下座なのは、俺が七星勇者……眷属器の勇者扱いだからだろう。
続いて入ってきたのは、
「錬さん、宗介さん、早いですね」
樹の方は表情が読めなかった。
昨日負けたことについては気にしていなかったように見える。
ディメンションウェーブにはカルミラ島沖の波はあったのだろうか?
どちらにしても彼のゲームはコンシューマーソフトだ。条件を満たしたら発生する特殊イベント程度の認識なのかもしれない。
ただ、俺を見る目は何か値踏みをするような嫌な感じであった。
「お、揃ってるじゃん。後は尚文と女王様が不在なんだな」
元康の事なのでナンパでもしてたのだろうか? 服装は他の勇者に比べてラフな格好だった。
「どこをほっつき歩いてるんですかね」
「フン……。呼び出しておいて遅れるとはどう言うつもりなんだろうな」
俺としては、5分前行動ができたぐらいでいばり散らしている方が問題だとは思うが、面倒くさいので黙っておく。
尚文は部屋に入ると周りを見渡す。
「やっと来たか」
「どこをほっつき歩いてるんですか?」
「ナンパでもしてたんだろ? 一番活躍したもんな」
全員が尚文に対して悪い心象を持っているのが明らかだった。
正直、この辺りはいわゆる『主人公以外の知能指数が著しく落ちている状態』に見えてて、残念な部分というか、気になる部分ではある。
客観的にみても自分たちが弱いのは明白だし、弱いならば強くなる様にゲームであっても努力するのは当然である。
この世界をゲームだと思うならば、アクションRPGに分類されるわけだしプレイヤースキルを磨いておくのは当然と言えるだろう。
なぜそう言うことに思い至らないのか全くもって謎な点であったが……実際に現場を見ると、強さに貪欲だとかそういうことではなさそうである。
『お前だけ俺TUEEEEEできてずるい!』
と言う嫉妬に狂っている様に見えた。だからこそ、ここまで目が曇ってしまったのだろうか?
どちらにしても、人間としても正常な精神状態であるとは言い難いだろう。
正直、解決できるならば手を伸ばしても良いのではないかと俺の中の良心が囁くが、話の流れを曲げてしまうことになるので、どうしようか悩んでしまっていた。
「ふん……お前が言うな」
「元康さん、貴方が言わないでください」
「そうだ、お前が言うな」
勇者たちからそうツッコミを受ける元康。まあ、ギャルゲーの主人公が成長して大学生になったのが元康なので、女の子好きなのは仕方ないだろう。
槍の勇者ではなくて、ヤリチンの勇者……何て小説やアニメを見ている時は思ったものだった。
「まあ、尚文が遅れてきた理由を聞こう」
俺が促す必要もないだろうが、尚文に発言を促すと、あっさりと答えてくれた。
「海岸で海を見てたんだよ」
実際は、詐欺商人に説教をかました後で女王陛下に発見されて連行されたと言うのが正しいかなと思うが、この尚文も最初の出来事のせいで性格がねじ曲がっており、他人に対しての警戒心が凄まじいことになっている。
まあ、この中で一番勇者らしい勇者であることには変わりないだろうが。
「ああ……まだ荒れてて島から出られないもんな」
「LV上げやドロップ稼ぎでもして時間潰しでもするしかないだろ」
「そうですね」
尚文はふんっと鼻を鳴らすと残っていた席に着席する。
これで、メルロマルクにいる勇者が全員揃った形になる。
「で? 今回は何の会議をするんだ?」
「わかっているだろ?」
尚文の悪い癖だ。
いや、この世界で他人に貶められたが故の防衛反応と言ってもいいだろうが、尚文はこの性格になってから敵に対しては特に説明を省く癖がある。
頭の中ではいろいろな事を考えているのだろうけれどね。
なので、俺が捕捉しておくことにした。
「強くなり続ける波の魔物、異世界からの勇者を狙った侵略者。そして、現状対抗できる勇者が盾の勇者……尚文だけと言う現実と、負けイベントだと思って現実から目を逸らす他の勇者達……。ドラクエみたいなRPGじゃなくて、アクションRPG何だから、プレイヤースキルを磨くべき時がきた、と言うことだと思うんだけれど? と言うわけで、勇者単体の能力をあげるための方法の共有ということかな? 知らないけれど」
俺の言い回しに女王陛下は少し眉を潜めるが、概ね同意ということなのだろう。
頷いてから後を引き継いでくれた。
「ではこれから二度目の四聖勇者と投擲具の勇者による情報交換を始めます。司会と親交はまた私、ミレリア=Q=メルロマルクが務めます」
女王陛下の宣言に対して、尚文以外の勇者はやる気なさそうに椅子にもたれかかる。
露骨にやる気がなさそうな態度である。
「情報交換か」
「十分話したと思うがな」
「ええ……尚文さん以外は」
三人の言葉に尚文はため息をついた。
「だから何度も言っているだろ。お前等それぞれの強化方法は正しかった。その強化方法を実践したから俺はカルミラ島で起こった波で戦えたんだよ」
正直、この点に関して言えば俺としては盾の勇者であるからこそステータスが大事なのだろうという認識だ。
攻撃する俺からすれば、弱点を的確に突きさえすれば相手を殺すのにはそう苦労はしない。
あの勇魚の様な大型の魔物であったとしても、勇者の力なしに倒すことなど俺には出来たという確信がある。
はっきり言って、尚文以外は戦闘中の戦い方に問題があると言わざるを得ないと思っていた。
しかしながら、彼らにとっては低レベル攻略など眼中にないようで、高レベルかつ高火力で楽チンプレイをしたい方だったらしい。
だから、駄々っ子の様に文句ばかり言うのだろう。
「また嘘を言って、どこかでチート能力を得たに決まっているじゃないですか! 早く白状してください」
「そうだ不正者め! こんなこと許されないぞ!」
「自分の強化方法を話し切ってないんだろ! 卑怯者が! アバズレを貶めて何が楽しいんだ!」
そもそも、尚文が不正チートを使っていたとして、再現性がなければ知ったところでどうするつもりなんだろうか?
彼らの言葉を聞いて不意にそう思った。
そんな彼らの様子に、尚文は呆れてため息をついた。
「俺の話を全く信じず……その癖、チート……不正な力で出し抜いたと思っているのか?」
俺以外の全員が同意した。
もはや、誰もが冷静さを失っている様に見える。
「ライシェルさん」
「……どうしたソースケくん?」
「俺、帰ってもいいかな?」
「ダメに決まってるだろう?」
「ですよねー」
俺は言い合う勇者達を背に、ライシェルさんとそんな事を話していた。
「あのさー……お前等、俺ばかりを詰問しているが、宗介の方は疑問に思わないのかよ?」
「宗介さんはチートを手に入れた過程が明白ですからね。それに、もともと冒険者としても強い方ですし、僕たちにとって参考になるとは思えません」
「そうだな。ソースケは俺の仲間だった頃から強かった印象がある。それに、俺たちとは規格が違うだろうし参考にならないだろう」
「そうなのか?」
樹と錬が俺を詰問しない理由を教えてくれる。まあ、元康だけはわかっていないみたいだったが。
「……ッチ。なら、逆に聞くが、攻撃ができない、防御力しかない勇者が他者を出し抜いて何の得があるんだ?」
「それは……」
尚文の逆質問に、三人が顔を見合わせる。
そして、追求ポイントを思い出したのか、逆転裁判で追及するなるほどくんの様に樹が指摘をする。
「あるじゃないですか! 攻撃手段が!」
「それはアイアンメイデンとブラッドサクリファイスのことを指しているのか?」
「そうです! あんな強力な攻撃があるのですから、出し抜くことに意味があります!」
尚文はそんな樹の姿に不機嫌そうな表情を浮かべながら、ため息をついて解説をする。
「アイアンメイデンはシールドプリズンで相手を囲み、チェンジシールドってスキルで攻撃してからSPを全て支払ってから放つスキルだ。問題があるのは一度破壊したことのあるお前等ならわかるんじゃないか?」
「何がですか!」
樹は頭に血が上っていて、考える事を放棄している。
答えたのは、錬だった。
「前提が面倒だな」
「そうだ。シールドプリズンが破壊されたらチェンジシールドを放てない。もちろん素早く放てばいいかもしれないが、前提が面倒なんだよ。しかもお前等は一回、アイアンメイデンを破壊しているだろ」
まあ、アイアンメイデンと言いギロチンと言い、代償が少ないカーススキルは基本的に前提条件が面倒くさいのだ。
「じゃあブラッドサクリファイスはどうなんですか!」
「もう忘れたのか? アレは一回使ったら俺の方が致命傷を受けるのはもとより、呪いでステータスが三割までダウンするんだぞ。そんな代償ばかり支払う面倒くさいスキルしか俺には攻撃手段がないんだよ。ラースシールドだっていつまでも変えていられるほど便利な盾じゃない」
「他に……ほら、黒い炎を撒き散らす攻撃があるじゃないですか!」
「アレは反撃でしか出せないぞ? しかもラースシールドだから常時使えない」
とは言っても、尚文は十二分に使いこなしている様に見えるのだけれどね。
尚文のプレイヤースキル……戦い方は盾使いとしては洗練されていると言って問題ないだろう。
受け流し、受け止め方、フェイント、俺と同様に実戦で身につけてきたが故の強さに違いはなかった。
我流であるがゆえに未熟なところもあるだろうけれども、おおよそスタイルとしてしっかりと確立しているのだ。
それに対して、錬の戦い方は俺がパーティメンバーだった頃と何一つ変わっていない。非常に直線的な戦い方なのだ。
他の二人は一緒に戦ったことがないから遠巻きに見ているだけだったが、樹は自分の能力である『命中』に頼り切っている節がある。そして、元康は単純に棒を振り回しているだけだ。
槍の使い方はそうじゃないのだ。斬ってよし、突いてよし、叩いてよしの万能武器が槍という武器なのだ。スキル任せに振り回す様な武器ではない。
「わかるか? あくまで最低限の攻撃手段しか俺にはないんだよ」
「嘘つけ!」
元康の声に、尚文が拳で元康の顔面を殴りつける。ペチンと、その尚文の拳の勢いからは想像もできないほどの軽い音が鳴った。
尚文が拳を引いて座ると、元康は愕然とした表情で自分の顔に手を当てている。
「おま……」
「わかるか? 俺が果てしない強さを得たとお前等は思っているみたいだが、どんなに防御力が上がったからと言って攻撃力まで伸びたわけじゃないんだよ。お前等が自分から突撃してきたらダメージを負わせられるかもしれないな。突撃してみるか?」
尚文の説得にようやく三馬鹿は黙る。
こりゃリノアもそう判断するなと呆れるしかなかった。
特に元康は、結構頭の良い大学に通っているはずだ。なのにこんなにもおバカなのは、学力と頭のバカさ加減というものは関係ないのだなという証明になっており、それはそれで面白くはあった。
「俺がお前等を出し抜いても得なんてない。前回の戦いで……一人でも俺と同じ強さを持っていたら結果はどうなっていたと思う?」
俺はまあ、若干手加減してたからなぁ。まあ、ラルクとの戦いは手加減のしようがなかったが。アレは本当に相性が悪かったとしか言いようがなかった。
「お前等流でいうなら……負けイベントがこんなにも続くか?」
「く……」
忌々しそうに錬がうめいた。
俺はこんな武器、力はさっさと捨ててしまいたいんだけれどね。
そんな事を思いながら他の二人を見ると、悔しそうに拳を握りしめている。
てか、そんなに悔しいならちゃんと戦い方を教わって、ライバルが強くなる方法を教えてくれているんだから素直に受け取って強くなればいいのにな。……正直、ここまで頭が硬いと俺には理解できる範疇から外れてしまうなと感じたのだった。