その後、波が治った後に、騎士団がやってきた。
随分と遅い到着である。
こんなに遅いと、セーアエット領は壊滅しているのではないか?
まあ、壊滅して喜ぶ連中が多い国だし、救援が遅れるのは仕方ないことか。
「おい」
俺がルロロナ村跡地で瓦礫の上に座っていると、声をかけられた。
誰だ?
俺が顔を上げると、立っていたのはどこかで見たことのある騎士であった。
「お前が、今回の波の魔物を討伐した冒険者か?」
「そうですわ」
ミナが代わりに答えてくれた。
「ふむ、あの化け物をよくもまあ……。おい、お前、今回の波を治めた件について国より報奨金が出ることになった。ついてくるが良い」
なんだか偉そうでムカつく奴だな……。
こう、すっごい見たことあるけれど、思い出せない。
何かあれば思い出しそうなんだけどなぁ。
「わかりましたわ。さ、ソースケさん、行きましょう」
個人的にはレイファ達が無事であることを確認したいが、今は難しそうだ。
それに、ミナがいる場所でレイファの話題を出すのはNGだろう。
「……わかった」
俺は、メルロマルクの王城に向かうことになった。
亜人の冒険者も一緒にである。
馬車に乗せられて向かう最中に、今回の波の被害状況を聞くことができた。
ちなみに、引っ張っているのは馬である。
セーアエット領は壊滅だそうだ。
城下町はもちろん、他の街も被害甚大で、波の残りの魔物も兵士が片付けているそうだ。
俺や、俺の近くにいた冒険者は、波のボスを倒したとして事情が聞きたいということであった。
フィロリアルほどは揺れが少なく、酔ったりはしなかった。
2時間ほど馬車で待機していると、ようやく見えてきた。
あれが、メルロマルク城である。
そう、【盾の勇者の成り上がり】世界の象徴とも言うべき城であり、尚文がマイン……ミナと同じメガヴィッチ的存在に騙され、貶められる国である。
「メルロマルク城下町は初めてなのですか?」
ミナにそう聞かれて、俺はうなづいた。
「ああ、初めてだよ。俺はセーアエット領しかいたことはないさ」
「そうなんですね。私はメルロマルク城下町は何度か足を運んだことがありますわ」
育ちよさそうだもんねー。
鎧もそこそこ豪華だし、良いところのご令嬢さんって感じ。
メガヴィッチの分霊は基本的にそう言うお嬢様として生まれることが多いから、当たり前か。
「ふーん、どう言うところなんだ?」
一応、アニメで見た範囲では雰囲気は知っているけれどね。
「そうですね……。この国の首都ですから、色々なものがありますよ。店も、他の城下町や領主の街と比べて良いものが置いてありますわ」
「……なるほどねぇ」
俺としては、剣が折れたせいでステータスが下がって若干怠くなっている。
やはり俺は4つ武器が無いといけないらしい。
まあ、こう気だるそうにしていれば流石のミナでも気づいたようだった。
「メルロマルク城下町には良い武器屋がありますから、そこで剣を新調しましょう!」
「……ま、そうだな」
メルロマルク城下町には、あの武器屋の親父さんがいるからな。
腕も確かな武器屋なら、新調するのも良いだろう。
どうせミナは報奨金でエステにでも行くだろうし、ミナの分を多めで渡して、必要な分は俺がもらうと言う形でいいだろう。
「ん? 私の顔に何か付いてます?」
「いや、メルロマルク城下町に着いたらエステ行きたそうな顔をしてたからな」
「あ、わかります?」
「ミナは好きそうだしな。報奨金があるなら多めに渡しておくから行ったら良いさ」
「良いんですか?」
「ああ、もちろん、俺の取り分はちゃんともらうがな」
しかし、ミナと居るとだんだん心が荒んでくる気がする。
傲慢ではなく、荒んでくる。
言葉遣いもそれに引きづられて居る気がする。
しばらくすると、街の城門をくぐる。
おお、確かにアニメまんまだな!
街の配置とかは若干違う様子だが、細かいところはほとんど同じである。
馬車が止まると、俺は城に案内してくれる。
しかし、兵士の目は嫌な目をしている。
後ろの亜人の冒険者に対してだろうけれども、俺にまで向けられているように見える。
やだねー、こんなところにいたら嫌な気分になる。
「では、波のボスを撃った、冒険者ソースケ殿とミナ殿はこちらに。他の冒険者の方は別室で報奨金の受け渡しがありますので、こちらにどうぞ」
俺は兵士の指示に従う。
眼前には、謁見の間があることがわかる。
アニメで見たまんまだしね。
「冒険者ソースケ殿、ミナ殿、入場!」
ギギギと音を立てて、謁見の間の扉が開く。
周囲は王族とか貴族が並んでいる。
カーペットの周りには、兵士が等間隔で並んでおり、奥に2つの椅子があり王座だろう、向かって右側に王様……オルトクレイ=メルロマルク32世が座っていた。
俺は、ミナに習って前に進み、ミナに習って王の眼前で膝をついて首を垂れる。
「ほう、そなたらが今回のメルロマルクの波を治めた冒険者か」
アニメの声……とは若干違うし、そもそもメルロマルク語であって日本語では無いため、違って聞こえるが、オルトクレイそのものであった。
「はっ!」
「ワシがこの国の王、オルトクレイ=メルロマルク32世だ。冒険者共よ、顔を上げい」
尚文に習ってクズと呼称するとしよう。
クズがそう指示をしたので、俺とミナは従って顔を上げる。
「ほう、片方は美しい娘、もう片方は勇者の血を色濃く継いだ冒険者と見える。この者らがかの波を治めたと」
「はい、聴取した報告によりますと、冒険者ソースケ殿の活躍により、波のボスを討伐。冒険者ミナ殿はソースケ殿の援護をしていたと報告がございます」
「ふむ、なるほど。しかし、此度の波の被害も甚大だったと聞く」
「はい、死者は推定で1万人に上り、セーアエット領は壊滅状態でございます。また、帰省しておりましたウェルンハード=セーアエット卿は波の際に亡くなられたと報告が入っております」
「……痛ましいことだ。優秀なもの程早死にする。セーアエット領は波による復興を急がせるとしよう」
ため息をつきつつも、サラッと流された感じで話が変わった。
俺の記憶では、エクレールの父親はこの時期に強制的に領地に戻らせたはずである。
どこで起きるかわからない以上は意図的ではないと言い逃れできるかもしれないが、ヴィッチが恐らく、何らかの方法でセーアエット領で波が起こることを事前に伝えていたはずである。
だからこそ、大して感慨もない感じなのだろう。
「して、今回活躍をした冒険者諸君には報奨金が用意されておる。亜人の冒険者は一律銀貨300枚、冒険者ソースケ殿とミナ殿にはそれぞれ銀貨600枚を報奨金として授けよう」
「これが報奨金になります」
大臣っぽい人がそう言うと、兵士が皮袋を目の前に出してくれる。
何気に赤と黒の卒業証書を乗せるようなプレートの上に乗っている。
俺はそれを受け取り、中を確認する。
確かにこれは、結構な量が入っている。
俺は無言で、腰のポーチに収める。
あとで銀貨100枚をミナに渡せば良いかな。
「ありがとうございます、陛下」
「うむ、では、その方らの今後の活躍を祈ろう。下がって良いぞ」
「はっ!」
そんな感じで、俺の初めての謁見は終わったのだった。
なんか大臣が話しているだけで、俺は一体何のために呼ばれたのやらわからない感じだった。
「じゃあ、約束通り」
俺はそう言って、銀貨が100枚入った袋をミナに渡した。
「ありがとうございます。さすがは波を治めた冒険者ソースケ様ですね」
「言ってろ。それじゃ、俺は武器屋に行くとしますか」
「それじゃあ、案内しますね」
「わかった」
と言うわけで、俺はミナに連れられて武器屋に向かうのだった。
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お父ちゃんに勝手に名前をつけました。