それから、三馬鹿は尚文を延々と罵り、尚文の話を受け入れることはなかった。
俺としては特にいうこともないので、何も言わずに静観して居たが、見るに見かねた女王陛下が呆れ顔で諫める。
パンっと大きな音を立てて、テーブルの真ん中に氷の塊を落としたのだ。
「落ち着いてください! 今は争っている場合なのですか?」
「ふん。チート野郎と手を組む奴の話を聞いても何の意味もない」
俺は、錬の物言いに呆れるしかなかった。
俺は情けなくって、両手で顔を覆ってしまう。
「勇者様方が強くなるために我が国は最大限協力いたします。どうか冷静になってください」
若干疲れた様な声音で女王陛下がそう告げると、話題を変えようと提案をする。
「今は勇者様方が強くなる話は後に致しましょう。それよりも今回戦った相手に関して話し合いを致しましょう。詳しく知っておられる投擲具の勇者様からお話を伺いたいのですがよろしいでしょうか?」
不意に俺に振られても困る。
「そうだな。ラルク……ラルクベルクやグラスの正体をお前は知っているのか?」
全員の目線が俺に集まる。
「ん? ああ、彼らは異世界の七星勇者だ。尚文なら気付いているだろうけど、俺たちの勇者武器と同じ宝石がハマっているからね」
「異世界の七星勇者……?」
「そうそう。まあ、似た様なルールの世界が複数存在するってのは、俺らの存在が証明しているからね。彼らの目的は、彼らに聞けばいいと思う。俺からいうべきことは以上かな」
俺の話に、尚文はぶつぶつと何か考え込む様に眉を潜める。
これでも十分すぎるほど情報を提供したと思うので、これ以上は話さなくていいだろう。
さて、尚文が思考の海に落ちてしまう前に、原作通りの話の内容に持っていた方がいいので、俺は三馬鹿に話を振る。
「錬達はあの強すぎる冒険者について、何か知っているか? ゲームに出てきたNPCとか、持っていた武器の特徴とかさ」
俺が話題を振ると、錬が首を横に振る。
「……いや、思い返してみてもあんなキャラはいなかったな」
「そうですね。あの方は鎌を使っていましたが、その様なキャラクターはいなかったかと」
「ああ、武器としてはあるがマイナーだったな」
「むしろ尚文さんはあの方々と知り合いっだった様ですが……どの様な関係だったので?」
「ん? ああ……お前等がカルミラ島へ来る船の部屋を独占した時、そのツケを支払った俺と相部屋だった連中だよ。その縁で、島で一度一緒に魔物を退治して回った」
「顔見知りですか?」
「ああ」
「一緒に戦っておかしな点はありましたか?」
「そうだな……ラルクベルク……ラルクの鎌は勇者の武器と同じく魔物を吸い込むことができた」
「宗介の言うとおり、異世界の勇者ということか」
あれ、言いすぎてしまったのかな?
なんか若干記憶と違う感じに会話が進んでいる。
まあ、ここに俺がいる時点でおかしいと言う話ではあるが。
「俺はこの世界に詳しくないし、変わった武器だと尋ねたら当たり前の様に『よくあるだろ?』と答えられたぞ」
「この世界ではそれが一般的なのですか?」
樹の質問に女王陛下は首を横に振る。
「そのような武器は勇者の武器以外に存在しません」
「近い性質の武器とかも無い?」
「はい。魔物を吸いドロップ品を出す武器など再現されたとは聞いていません」
樹は考えているような仕草をしながら、呟いた。
「おかしな武器ですよね」
「ああ、勇者は四聖しか存在しないはずなのに、宗介もそうだがそれ以外の武器が……」
「勇者様は気付いて無かったのでございますね。投擲具の勇者様が何度もおっしゃられているように、四聖の他に7つ、投擲具も含めた伝説の武器が存在するのですよ」
「「は?」」
尚文と錬以外がびっくりした表情を浮かべる。
「なるほどな。女王が宗介の事を『投擲具の
「その様子だと、イワタニ様は投擲具以外にも伝説の武器が存在する事をご存知の様子でございますね」
「心当たりなら1人あるな。宗介が倒した戦斧を持った奴だ」
「そうなのですか……。斧の勇者様がメルロマルクに来訪していたと言う記録はないのですが」
記録に残っていないと言うのは、恐らくミナの野郎が密かに呼び寄せたからなのだろう。
忘れられない、死ぬかと思った酷い戦いだった。
「あの時は、不思議な戦斧を使う奴だと思ったが、なるほど。ラルクの鎌と同じように不思議な宝石みたいなのが装飾されていたな」
結構前の事だけれども、よく覚えてるなぁと感心する。
「なるほど、こちらでも斧の勇者様について調べてみましょう。ともあれ、他の勇者様はご存知ないようですので説明させていただきます」
そう言った女王陛下の目が輝く。
やはり、原作通りに伝承が好きな人物らしい。
「最も有名なのは四聖勇者の伝説ですが、次に有名なのは七星勇者の伝説ですね」
「七星勇者?」
「ええ、四聖勇者と同じく七つの武器に選ばれた勇者の伝説です」
まあ、俺の場合は選ばれたわけでは無いが。
投擲具の精霊からは不正所持者だと罵られてるわけだしね。
だが、あのアクセサリーは破壊したにも関わらず俺の手元から離れないのは何故だろうか?
どちらにしても、俺に取っては便利だから利用しているにすぎないわけなのだけれどね。
俺の戦闘スタイルにはあってないわけだが。
「クズや三勇教のせいで問題が起こった我が国ですが、七星勇者に関する全権を放棄したおかげで目を瞑って貰ったところもあるのですよ」
「へー……」
「七星勇者は四聖勇者と深い関わりがあるとも、外伝の勇者とも言われていますが──」
女王陛下は七星勇者についての大まかな伝承というか、どういうものかについてのあらましを語り始めた。
原作でも確かそこまで触れられてなかったけれども、言ってしまえはどの国でどう言う風に活躍した伝承だとか、アーサー王伝説みたいに選ばれた勇者が国を起こし蛮族と戦った伝承だとか、このファンタジー世界でファンタジーな内容のお話を長々と語っているだけだった。
なるほどね、そりゃ割愛されるわけである。
「じゃあ俺たちの様に召喚された勇者が七人もいるのか?」
「俺は召喚されてないけど……」
「そんなに沢山の異世界人がこの世界に来ている?」
「勇者のバーゲンセールだな」
「これだけ広い世界を五人で救うよりは遥かにマシだろ」
尚文の指摘に、他の勇者は視線を逸らす。
何気に俺も勘定に入っているのか……。
「いえ」
「違うのか?」
「七星勇者に関してはむしろ冒険者が憧れる職種として有名でもあります。七星勇者は召喚に応じて勇者になるものもいますが、投擲具の勇者様の様に冒険者として名を挙げた末になるものや、この世界の者が成ることができる場合もあります」
俺の場合は異世界転移者にも関わらずこの世界の連中と同様に選ばれたと言うことになるらしい。
厳密には少々違うんだけれども、まあ、そこは沈黙は金というやつだろう。
「一応、その伝説の武器を使って召喚は行いますが、勇者召喚が失敗した場合は選ばれたものが出現するまで、武器は一般人が触れることができるように解放されます」
「……地面に刺さった伝説の剣みたいな感じか?」
「剣は四聖の勇者の武器なので違いますが、地面に刺さっていると言うのは間違いではありませんね。投擲具の勇者様もご覧になったことはあるでしょう?」
「あ、ああ……」
思わず、言い澱んでしまった。
樹は不思議そうな顔でこっちを見るが、むしろここは堂々としておくべきだろう。ハッタリというやつだ。
ふと考えると、俺はなかなか危険な橋を渡っているかもしれなかった。
俺は不正入手者だ。調べれば、簡単に足がつくだろう。
「四聖の勇者よりも武勇伝の数自体は多いですよ。少しでも戦乱が起こると七星勇者は出現する可能性があるので」
「ほー……」
「波が出現した後は、七星勇者も大半が選定されました」
「それだけ危機ということか」
「はい」
と、女王陛下と尚文が俺の方を見やる。
「となると、宗介がどうやって投擲具を入手したのか疑問が湧いてくるわけだが……」
「そうですね。ただ、投擲具の勇者としてのお力は確かなものの様ですので、不問としてきましたが……」
嫌な流れだ。
ここは話を逸らすとしよう。
「それよりも先に、鎌の勇者について話した方がいいんじゃないのか?」
「……それもそうだな。宗介についてはまあ、勇者として真っ当な部類になるしな」
尚文の物言いに、「なんだと?」と元康が言うが、「宗介の方が活躍しているからな。していないお前等と比べるまでもない」と尚文は鼻で笑う。
それに言い返せなかった元康は不満げな表情で着席した。
「で? その七星勇者の中に鎌の勇者はいるのか?」
「生憎と存在いたしません」
「そうか」
「なのであのもの達の謎はさらに増したことになります」
尚文は眉を潜めて考えると、何かを思い出した様に告げた。
「そういえばラルク達は『俺たちの世界のために死んでくれ』と言っていた。つまりは宗介の言う『異世界の七星勇者』って言うのはラルクやグラスの事を指すのだろうな」
「なるほど、それならば確かにあり得るかもしれません」
「だとしたら、波の先は奴らの世界で、何かしら理由があって俺たちの世界を侵略しようとしている……か?」
まるで正解を確認するかの様に俺を見る尚文。
俺は大筋は知っているので、グラス達の行いが根本的解決にならない事を知っているので、なんとも言いようがないが……。
と言うわけで、俺は肩を竦めることにした。
「説明する気はないか。まあいい、で、女王。グラスの武器はこっちの世界にも存在するのか?」
「いえ、こちらも私共の世界には存在しませんね」
「全部でどの様な武器があるのですか?」
「では説明いたしましょう」
女王陛下は立ち上がると、七星武器の詳細を語り出した。
「まずは杖」
杖と聞いて、尚文がぼんやりする。
「イワタニ様?」
「あ、ああ。続けてくれ」
「次に投擲具、槌、小手、爪、斧、鞭です」
「えっと……」
「投擲具とは大雑把ですね」
「そうですか?」
樹の疑問点はわかる。だが、女王陛下は逆にこっちが疑問に思った点に首を傾げる。
「宗介さんの戦い方を見る限りでは、『投げる武器』に変化する様に見えますけれど、合ってますか?」
樹が俺に質問をしてきたので、素直に答えるとする。
「ああ、俺は主に使いやすさの観点で投げナイフ、投げ斧、チャクラムを使っているが、他にも手裏剣だったりクナイ、円月輪、投槍と言った投げる武器全般に変化する武器だな。エアストスロー、セカンドスローで分裂させることができる」
投げる前提故にリーチが短いため、近接戦闘ではなかなか苦しい状況になることが多い。
投槍ですら、ロングソードサイズのリーチにしかならないので、正直非常に使いがってが悪いのだ。
限定的に時を止めるスキルなんかも俺は使えるが、カースシリーズが発言した際に解放された別の投げナイフに付属していた謎スキルのため、解放手段は不明である。
「小手と爪の違いはなんだ? 同じ武器じゃないのか?」
「そうだな。俺もそう思うぜ」
「そこまでは……わかりかねます」
基本的に眷属器は特定の属性を持っていればOKと言った節がある。
四聖武器が概念そのものならば、眷属器はそこから派生したものだ。
こういう、常識の違いというのはまさに異世界ものと言った感じがする。
「鞭ねー」
「伝承では鎖にも変化できる武器だそうです。フレイルにもなれると聞いたことがあります」
「それって槌と変わらないんじゃ……」
「槍と矛が同じ武器なんだから被るものはあるのかもしれないな」
「……そうだな。投げナイフは俺も出たことがある」
出るとは言っても、錬が投げナイフを使った事を見たことはないけれどね。
コンバットナイフ見たいな大型のナイフはどうやら投げナイフジャンルには入らないので使えないのが投擲具の大きな欠点だろう。
後、スキルも投げることで使えるものしかない。
そういうわけで、俺はそこまでスキルを使わないのにはそう言った理由があった。
俺、得意な距離が中近接距離だからね。
「鞭は大きな違いとして、魔物の力を引き出すことができるそうです」
「尚文の言っていた魔物の盾見たいな感じか?」
「特化系なんじゃないのか? 俺の持つ成長補正よりも上の力を秘めてるとか」
尚文がそんな事を言いながら、とても不躾な事を考えている表情をしている。ラフタリアがいなくてよかったな。
「槌と斧も似た様な武器だよな」
「そうですか?」
尚文の言葉に、不思議な表情をする女王陛下。
「で? その七星勇者に宗介以外にあったことがないな」
「他の七星勇者は四聖勇者の皆様とは別のところで戦っております。それにまだ所持者が見つかっていない武器もあるので」
「そうなのか?」
「はい」
「そいつらに波を任せればいいんじゃないか?」
「世界は広いので、七星勇者達では守りきれません」
まあ、当然の話だ。
というか、召喚されたのに波を他人任せとか、そもそも、一つの波に対して四人がかりでようやくとか、本来は話にならないだろう。
「で? 話は戻るがラルクやグラスの持つ武器は存在しないと?」
「はい」
「問題はラルク達は当たり前の様に答えていたところだ」
「というと?
「仮にアレが伝説の武器に似ているだけで、奴らの世界じゃ当たり前の技術だったら……どうなる?」
これは、この後の展開にもつながる話だけれど、そういう異世界がこの世界に攻めてくる話は出てくるだろう。
グラスの世界……と借りに言っておくが、そこでも聖武器の解析が結構進んでいたはずである。
なので、尚文の指摘はグラスの世界に関しては杞憂である。まあ、備えておくぶんには問題ないだろう。
「なるほど……これは可及的速やかに事態への対処を考えていかねばなりませんね」
「そういうことだ」
「では付け焼き刃的なモノになりますが、勇者様方に戦闘訓練を経験していただいた方が……いいかもしれませんね」
俺としては、これに参加するつもりはなかった。
俺自身、人を殺すのに一切の躊躇いがなくなってしまったし、そのための技術もこれまでの戦いで研ぎ澄まされてきた。
他のバカ三人組は嫌な顔をしている。
「今は次の波に備えてできる限りのことをしていきましょう。イワタニ様、どうか他の勇者様方とのすり合わせをお願いします」
「……」
尚文は嫌そうな表情をする。
まあ、正直言って尚文には同情するよ。
全員が全員……俺を含めても問題児しかいないからな。それを統率しろというのはむつかしい話だろう。
事実、訓練が嫌すぎて逃げ出すしな。
「私共も騎士団や冒険者の猛者を募ります」
「そうだな。グラスとの戦い、女王の援護のおかげで有利に動くことができた」
「カワスミ様の仲間であるリーシアさんのおかげで閃いた案でございます。彼女がいなければ今頃どうなっていたことやら、影の功労者は彼女でしょう」
「……そうですか」
樹が面白くなさそうな表情を一瞬だけ浮かべた。
嫌な目をしながらうなづく。
「リーシアさんが……なるほど」
「カワスミ様もリーシアさんをお褒めください。此度の波を乗り越える案が出たのですから」
「ええ……そうしましょう」
この後の展開を知っているから、安堵している尚文が滑稽に見える。
仕方ないといえば仕方ないのだけれどね。
「それでは、メルロマルクに帰還するまで勇者様方は自由行動と致します。ありがとうございました」
こうして、俺たちは会議室から解散することになった。
尚文が女王陛下に呼び止められていたけれど、俺たちは呼び止められなかったので続々とそれぞれの部屋に戻ることになったのだった。
これで原作再現部分の大半が終了ですね!
と言っても、ここの部分はわりかし勇者たちが宗介の存在に疑問を持つ展開になったわけですが……。
リーシアの話には宗介が関わらないのでダイジェストになるかと思います。