波の尖兵の意趣返し   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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船旅

 他の勇者はもう少しレベル上げをするつもりらしく、俺と尚文は先にカルミラ島を後にすることになった。

 案の定ペックルの着ぐるみを着たリーシアがいたが、原作同様の流れなので俺は気にもしなかったが、レイファやリノアはそうではなかったらしい。

 樹に捨てられて悲しむリーシアを船の中で慰めていた。

 

「リーシアと知り合いだったのか」

「まあ、近くの国のクーデターを手伝った関係で樹に協力する羽目になった事があってな」

「なるほど、()が好きそうなお題目だな」

 

 普段なら『あいつ』と言うはずだが、尚文は樹を指す二人称を『奴』と言った。

 それだけ腹立たしかったのだろう。

 俺はことの顛末を尚文から聞いたが、原作通りすぎてやっぱりなと言った感じの感想を抱いたのは言うまでもなかった。

 俺の反応を見て、尚文が

 

「この事も()()()通りの展開か?」

 

 と聞いてきたので、「さあな」と答えておく事にする。

 それに対して尚文は

 

「だったら先回りして助けてくれるように動いてくれてもいいんじゃないか?」

 

 と言うので、俺は

 

「まあ、できたらな」

 

 と答える。俺は話の大筋を変えるつもりはないのだ。

 この後起こる事も教えろと言われても、教えるつもりはなかった。

 霊亀の対策、倒し方、黒幕やグラス達の動向……。

 話せばどれも尚文の易になる話ばかりだが、対策をされては俺の望む展開にならない。

 尚文も諦め気味にため息をつくと、話を変える。

 

「で、お前に国外の波を任せる事になったが、大丈夫か?」

「ああ、俺も女王陛下やフィトリアから手伝うように依頼されたからな。尚文と違って攻撃力はあるから問題ないさ」

「そうか。どおりでお前のフィロリアルもフィロリアルクイーン……? になって頭に王冠みたいな羽が付いているわけだ」

 

 ラヴァイトは正確に言えば俺が所有しているわけではない。

 レイファとの共同所有者と言う設定にしてある。

 なので、ラヴァイトが中継地点となってフィトリアとの更新ができるのだ。

 

「ラヴァイトは雄だから、フィロリアルキングだな」

「なるほど。うちのフィーロと交換して欲しいほどに大人しい奴だな」

 

 尚文がそう言うと、フィーロが人間姿でこっちにやってきて文句を言い始めた。

 

「ごしゅじんさま酷いこと言ったー! ぶー!」

「……ラヴァイトはレイファのフィロリアルだから無理だろ」

「そうか、それは残念だ」

 

 尚文は苦笑しながらフィーロの頭を撫でる。

 天真爛漫な性格は尚文が原因なのだが、気付いていないのだろう。

 俺自身が育てるとどう言う性格になるんだろうな? 

 ラヴァイトはどちらかというとドラルさんを思い起こさせるので、育ての親に似るのだろう。

 確か、厨二に目覚めやすい性質だっけか? 

 

 すでにだいぶ22巻までの記憶があやふやだ。

 はっきり覚えているのが、霊亀編のあたりであり、それ以降が大筋しか覚えていない。

 そのため、それ以降はどう動くとまずいのかが見えていなかったりする。

 生き急いできたせいか、思い返すことが直前のことばかりで、その先の内容が漏れている気がするのだ。

 ただのモブならば、俺がいるせいで話が大きく変わることはないだろうが、どうやら俺の動き如何によって話の内容が変わってしまうのは確かな事実だった。

 例えるならば、転生したら悪役令嬢だった的なレベルで、動きに気を付けなければ簡単に話が変わってしまう気がしていた。

 

「しかし、宗介の話を聞いていると物語の世界に入ってしまった様に聞こえるな」

「ああ、まさにそんな気分だよ」

「ま、俺に関してもたいして変わりないがな。四聖武器書って書物を図書館で見つけたらこの異世界に転移していたんだ」

「ん」

「知ってるって顔だな。一度お前が読んでいた小説を俺も読んでみたいモノだな。どんなことが書かれているか多少気になる」

 

 実質、尚文の自伝な小説を読みたいとか……ってそれは知らなかったな。

 

「で、俺たちは他の勇者どもを鍛えるために準備をするが、お前はすぐに発つのか?」

「ああ、そのつもりだ」

「そうか」

 

 俺たちの会話なんてこんなものだ。

 俺も尚文も憎悪によって人格が狂ってしまった。

 そんな二人が会話したところで、話が弾むわけでもない。

 尚文は必要なことしか話さないし、俺は情報をあまり出したくないからね。

 

 そんな感じで俺たちは船旅を終え、メルロマルクまで戻ってきた。

 預けていた馬車を回収して、俺たちはメルロマルクより東の国、ウォーランへと旅を開始したのだった。


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