メルロマルクから国外に出るまでは特に特出した出来事は起こらなかった。
そりゃそうである。
現状、メルロマルクでの大きな波乱はひと段落したのだ。
むしろ巻き込まれたらびっくりである。
という訳で俺たちは何事もなく隣の国に行くことができたのだった。
まだまだ先は長いが、俺たちは道中の宿屋で休む事にしたのだった。
「結構すんなり通してくれましたね」
「ああ、女王陛下からの許可証があるからな」
女王陛下から旅立つ前に貰ったいわゆるパスポートのような物をライシェルさんが持っており、俺たちはメルロマルクを何事もなく出国できていた。
今は、宿の食事スペースで5人で食卓を囲んでいるところだった。
「私、こうやってちゃんと海外に出たのは初めてかもです」
「ん? ああ、私の国に入国した時は弓と一緒だったもんね」
「アルマランデ小王国……今はどうなってるか知らないが、密入国みたいな形で侵入したからな」
「うんうん」
少し前の話なのに、ずいぶんと懐かしい話である。
金剛寺との出会いもあの時だった。
結局、マリティナは殺せてないんだよな。
下手に殺してもヴィッチみたいな状態になるだろうけれども。
「……君たちはなかなか濃い日々を送っているんだな。話には聞いていたが、他国のクーデターに密入国をしてまで参加したのか」
「そうなるな」
ライシェルさんと出会ったのはその後だが。
「弓の勇者がクエストがあるって言って、道端で倒れていたアルマランデ小王国のクーデター派の人を助けたのが始まりでしたね」
なんて、リノアとアーシャとの出会いを話していると、不意に俺の中の殺気メーターが反応する。
近くに
「よお、女囲って楽しそうだな?」
そう言って声を掛けてきたのは、日本人風の何処かで見たことがあるような男だった。
「……なんだ、テメェ?」
俺が睨む。
うーん? なんかすっごく見たことがある奴だった。
どこで見たのだろう?
髪が緑色だから余計にわからないが、すっごく見覚えがある。
「ソースケ! 口が悪いよ!」
レイファに注意されてしまう。
なので、俺はライシェルさんに任せることにした。
「わかった。では私が話すことにしよう」
「なんだこのおっさん?」
「……君は冒険者かな?」
その見覚えのある冒険者の男は、案の定ハーレムのようであった。
後ろに女性を3人も連れている。
装備は金がかかってそうな防具を身に纏っており、チンピラな態度を除けば貴族の坊ちゃんが冒険者に憧れた結果のように見える。
「ああ、そうだぜ? 見りゃわかるだろ?」
「そうですわ! ダイマ・エクレスト様を知らないなんて、ニワカですわね!」
ダイマ・エクレストねぇ。
後ろのダイマを自慢する女は、気配から行って分霊か。
殺してもいいが、ここで殺ると面倒だな。
そもそも、今はライシェルさんがいるので他の武器を使うというのは難しかった。
投擲具の勇者と言うことで活動しているからね。
投擲具で殺すと、魂を傷つけることができないので、面倒くさいことになる。
「すまないが、我々は今日、入国してきたばかりなんだ。情報収集はまだ行っていないので、知らなかった事は申しわけがなかった。で、ダイマくんは一体我々に何の用かな?」
ライシェルさんが理由を尋ねると、ダイマの代わりに分霊の女が答える。
「それはもちろん、ダイマ様にふさわしい武器をそこの不躾な冒険者が持っているからですわ!」
どうやら、狙いは投擲具だったらしい。
ライシェルさんは頭にはてなマークを浮かべながら対応する。
「ん? ソースケくんの武器? 投擲具は七星武器だから他人に譲渡できないはずだが……」
しかしながら、リノアとアーシャは警戒の目でダイマ達を見る。
「あんたら、もしかして七星武器の簒奪者?」
「ど、どういうことだ?」
ライシェルさんはアーシャに理由を聞く。
「違うね。俺様の武器をお前が勝手に使っているだけだ。返してもらおうって話だよ? ついでにお前の女共はいい女だから俺様のハーレムに加えてやってもいいぜ?」
俺はため息をついて、提案する。
「はぁ、相手してやるから表出ろ。アーシャ、ライシェルさんに説明をよろしく」
「わかりました、ソースケ様」
「リノア、手伝ってくれる?」
「任せて」
俺たちは武器を手にとり立ち上がる。
国を出て早速かよ。予想はしていたが。
「ソースケ……」
「安心しろ、レイファ。すぐに終わらせるからさ」
俺たちは自信満々なダイマを連れて、宿の外に出た。
宿の外はすっかり暗くなっており、月明かりと宿から漏れる光の中俺たちは対峙する。
「よほど自信満々みたいだな! 俺様に敵うと思っているのか?」
「黙れ転生者。さっさと殺されろよ」
俺は、投擲具のナイフを構える。
それに、ダイマは舌打ちをする。
「ルイーナ。あの武器はなんだ? なんか弱そうなんだが」
「投擲具のナイフですわ。勇者の武器に違いないですわ」
「ふーん。俺様、剣が良いんだけど」
この世界の常識からすれば頓珍漢なことを言うダイマは確実に転生者だった。
「……ねえ、ソースケ。アイツなんなの? 七星武器の争奪戦参加者よね?」
「ああ、間違い無いな」
「剣は四聖武器よ? それを欲しがるっておかしくない?」
「アイツらにとって、一番欲しい伝説の武器って剣なんだよ」
「……わからないわね。あれは勇者召喚に応じた勇者様だけが使える武器なんだけど……。まあ、レン様が相応しいとは思えないけれども」
俺たちがそんな会話をしているうちに、ダイマは説得されたらしい。
「まあ良いや。どっち道最強武器なんだろ? 寄越せや!」
ダイマはそう言うと、剣を構えて突進してくる。
直線的すぎるなぁ。
こりゃ、少し手を抜いても殺すのは難しくなさそうだった。
「うりゃああああああ!」
ダイマは剣を振りかぶってくる。
それを数歩足を動かして、斬撃の中心ラインから少しずれるだけで空振りが確定する。
そのまま、首にナイフを入刀すると、ダイマの首がスポーンととんでいってしまった。
「うっわ、雑魚じゃん」
どさっと、ダイマに身体はその場に倒れ伏してしまう。
うーん、それにしても、なんかすっごく見たことがある奴だった。
本当に誰だろう?
まあ、殺しちゃったしどうでも良いか。
「恐ろしく早い殺人を見た気がするわ」
リノアは呆れながらそう言った。
俺が睨むと女達は「ひいいいいいいいいいい!」と言いながら慌てて退散したので、分霊女を放っておくのはシャクだが、無視することにした。
「じゃあ、この死体ここに放置してると面倒だし、適当なところに捨ててくるわ。リノアはライシェルさんによろしく伝えておいてくれ」
「わかったわ。なんで一緒について行ったのかわからないわね」
「ああ、女どもが何かしたら手が足りないじゃん? その時リノアに手伝ってもらおうと思ったんだけど、コイツが突っ込んでくるからすぐ終わっちゃっただけなんだよね」
「そう、まあ、わかったわ。伝えておくわね」
俺は、リノアと別れるとダイマの死体を村の外れまで持っていき、草むらに捨てる。
完全に首は無くなっており、死亡確認するまでもないと俺は思ってそのまま宿に帰った訳だが、俺はこの時、ダイマの死体を粉砕しておけば良かったと後悔することになったのだった。
「クックック……」
近くにこの世界の人間じゃない奴が居たが、俺は気付かなかったのだった。
この章のライバル波の尖兵登場です!
とはならなかったので、少し追記しました。(アンケートの結果話の展開が変わったとも言う)
旅路は詳細に書く?
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全ての波の尖兵との戦いを描くべき
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ダイマ襲撃だけでええんやで
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サッサと波戦行こうぜ