俺たちは宿泊するホテルに案内される。
勇者であるからか、最高級のホテルであり、男女それぞれでスィートルームに無料で宿泊することができるそうな。
ホテルに向かう道中で、一般人の声が耳に入る。
「投擲具の勇者様が来てくれたそうよ」
「マジか! それは良かった。今まで自然と閉じるのを待つほかなかったからなぁ……」
「まだ選ばれていない小手の勇者様や、フォーブレイで活躍されている鞭の勇者様はともかく、四聖勇者様や他の勇者様は一体何をしているんだろうねぇ……?」
「四聖勇者様はメルロマルクで修行中だそうだけれど、もう既に四聖勇者が召喚されて一年近く経つじゃ無いか! それでメルロマルクで修行中とか何を考えておられるんだか……」
「他の勇者様もとんと噂も聞かないからねぇ……。世界がこんな状況なのに、メルロマルクも早く勇者を出してもらわないと困るんだけど」
そんな市民の声を拾いつつ、ホテルに入ったのだった。
「ふむ、なかなかいい感じのホテルじゃ無いか」
ライシェルさんは旅の荷物を整理しながらそう言った。
俺としてはこの中華風のホテルはケバケバしく感じるのだが……。
ライシェルさんも観光気分かな?
「ライシェルさんはこれからどうする予定なんだ?」
「私はこの国の武器の確認と、兵力の確認をしようと思っているよ」
「なるほどな」
俺は納得する。
まったくもって彼は勤勉な人間なようだ。
「ソースケくんはどうするのかな?」
「俺は、レイファと観光でもしようと思うよ。情報収集も兼ねるがね」
「……リノアくんも連れて行ったらどうだね?」
「……まあ、考えておくとしよう」
正直、レイファはまだしもリノアが俺に好意を寄せている理由がわからなかった。
俺は彼女の前で虐殺や惨めな敗北を繰り返していると言うのに、なぜ慕うのだろう?
まあ、他人の心の中なんて俺にはわからないけれど、推測はできるはずだった。
アーシャはまあ、理由はわかるが理屈はわからない。
「アーシャくんはどう動かす?」
「もちろん、俺とは別のベクトルでの情報収集だな。どうにも俺はこの国が胡散臭い。面倒ごとに巻き込まれる前に波を抑えたらさっさと脱出したいからな」
「なるほど。ここはメルロマルクとは違った文化圏の国だしな。そのほうがいいだろう」
ライシェルさんは同意する。
「それじゃあ、行動開始しますか」
俺はそう言うと、部屋を後にして、レイファとリノアを誘うために女子用の部屋に訪れる。
ノックをすると、リノアが出てきた。
「うん? ソースケ、どうしたの?」
「情報収集に行くぞ。レイファやアーシャはいるか?」
「お呼びでございますか、ソースケ様」
アーシャは素早く駆けつける。
なので、アーシャに指令を与えておく。
「アーシャ、これから情報収集をする。この国の勇者の取り扱いについて裏の情報を集めておいてくれないか?」
「わかりました。では、部屋の整理が終わりましたら早速取り掛かりますね」
「ああ、頼む」
これでおおよそ欲しい情報は手に入るだろう。
ならば俺も、動く必要がある。
「レイファやリノアも部屋の整理が終わったらでいいぞ。観光ついでに情報収集だ」
「色気ないわね……。まあ、わかったわ。レイファにも伝えておくわ」
「ああ、頼む」
それからしばらく待っていると、3人が出てくる。
「ウォーランの観光だっけ。楽しみ!」
レイファは無邪気に喜んでいるが、俺とリノアは真剣である。
ともあれ、レイファの楽しい気分を害するつもりはないので、雰囲気は観光って感じにするがな。
「アーシャ、頼む」
「かしこまりました」
アーシャはそう言うと、俺たちと別れてホテルの外に出た。
さて、ウォーランは観光できる範囲が決まっている国だ。
首都でも、観光客が立ち入れる範囲とそうでない範囲が決まっている。
吉原みたいな風俗街も観光として立ち入ることができるみたいだが、女の子連れで立ち入るところではないので今回はパスだ。
ウォーランと言う国の完全な表舞台について俺たちは観光することができた。
「なんて言うか、すごい国だね」
レイファがそう漏らす程度にはカッチリとした国だ。
村になったら話は違うかもしれないが、首都としては計画都市と言うのがしっくりくるほどきれいに区画整備がされていた。
「そうね、雑多な私の国やメルロマルクとは趣が完全に違うわね」
「食べ物も、メルロマルクじゃ絶対に食べないような食材が置かれてますしね」
国が違えば特産物が違う程度には、売っているものがメルロマルクとは異なる。だが、完全に異世界というほどメルロマルクとは離れていない。
メルロマルクで売っているような食品も売っているからだ。
俺たちは買い物をしつつ、情報を集めていく。
やはり、四聖勇者を独占しているメルロマルクには明確に不満が溜まっているようである。
だが、他にも七星勇者についても不満が溜まっているようである。
波のせいで故郷の村を無くした人もいれば、国を追われた人もいるからだ。
国外に出て改めて、裏側を知ることができた感じだ。
俺たちは喫茶店で席を取り、集めた情報を確認する。
「七星勇者は杖の勇者であるオル……クズ王様がメルロマルクで君臨しているはずなので、それ以外の勇者について不満があるみたいね」
「そうだな。特に行方不明の爪、槌、斧の勇者に関しては、なぜ派遣されないのかと言う意見が多いな」
「今回の波に投擲具の勇者様……ソースケが対応するから安心だとも聞きましたね」
勇者に関してはおおよそ、俺が道中で耳に挟んだ情報に相違はなかった。
「レイファ、ウォーランについてはどう思った?」
俺が聞くと、レイファは少し考えた後に答える。
「ちょっと堅苦しい感じがするかなぁって。なんて言ったら良いんだろう……? 枠に嵌められてるみたいな印象を受けたかな?」
レイファの言葉に、リノアも同意する。
本当に古代中国と言う印象の強い国だなと改めて感じる。
「ただ、メルロマルクにはない感じですごく楽しかったよ。本当に外国に来たんだなって感じでワクワクしてる」
「そうか、それは良かった」
俺はレイファの頭を撫でる。
「リノアはどう感じた?」
「私? そうね、なんて言ったら良いかわからないけど、
「ん、やはりか」
常に目線が俺たちに向いていたように感じたのはやはり気のせいではなかったようだ。
どうやら、俺たちの動向は見張られていると思って間違いないようだった。
こりゃ、何かに巻き込まれる前に波を諫めたらすぐさまこの国を去ったほうがいいだろう。
俺はそう判断したのだった。