ほんの3週間、ほんの3週間でここまで変わるのかと驚いた。
投擲具の武器を失う前は、ここまでで無かったはずだった。
目の光は消え失せ、生気を感じさせない濁った目をしている。
壮絶な戦いをしたのか、服装はボロボロで、皮膚も少しだが焼け爛れている。
だが、彼の目には漆黒に染まった殺意が秘められており、それに敏感なリーシアはすっかり怯えてしまっていた。
……これで、彼に何があったのか、聞く必要があると、尚文は思ったのだった。
作戦会議のためにフィーロが引く馬車に俺は乗っていた。
なんか、フィーロの着ぐるみを着たリーシアはなんだか俺を遠巻きにしているが、気にしてもしょうがないだろう。
作戦会議の最中も、被害状況は定期的に報告される。
暴走霊亀は今まで以上の猛威を奮っており、とてもではないがどうしようも無いと言う話だった。
「さて、作戦会議もひと段落したわけだが……。宗介の事情を聞こう。確か、宗介達は俺たち四聖勇者とは別行動を取っていたはずだな。そこからこれまでの事情を話せ」
まあ、正直タクトに関しては今更感がある。
ここで喋ったところで、大きく変化はないだろう。
そう判断して、今回は嘘偽りなく話すことにした。
「七星武器を奪い合う冒険者達……。女王、聞いたことはあるか?」
「ええ、イワタニ様。噂程度には聞いたことがございました。ソースケ様の話を聞くまでは確証はございませんでしたが」
「どう言うことだ?」
「……発端は、斧の勇者様が行方不明になったと言う話でございますね。斧の勇者様の屋敷が燃え落ち、斧の勇者様が行方不明になった。ですが、神殿では斧の勇者様は今も生きていて行方不明とされております。他にも、七星武器を持った冒険者の噂は各地で点在しておりました。翌日には別の人物が似たような武器を持っていたと言う話も、噂程度には」
「……なるほど。宗介はそれに巻き込まれたと言うわけか。災難だったな」
俺は肩をすくめる。
「でだ、お前はまだまだ秘密を抱えているだろう? いい加減一人で抱え込むのはやめろ」
尚文はそんな事を言い出した。
「少なくとも、お前は俺にとっては数少ない味方だ。秘密主義は気に食わないが、な。ただ、もうその秘密を一人で抱え込むのはやめろ。お前のためにも話したほうがいい」
「……」
「そうですよ、ソースケさん。私たちで良ければ力になります」
尚文もラフタリアも何を言っているのだろう?
ちょっと理解できなかった。
「いや、今回は結構正直に話したと思うぞ?」
「いや、そうじゃない。お前の抱えている闇、それを共有しろと言っているんだ」
「私たちで解決できる事でしたら、協力させてください!」
「……そう言われてもなぁ」
心当たりは無い。
一体どうしたと言うのだろう?
「急にどうしたんだ?」
「お前……。その死んだような目をしていて、自分でも気づいていないのか?」
「?」
死んだような目と言われてもね。
確かに、この世界に来てから【殺意】以外の感情の大部分は死んだ気がするけれども、ちゃんと取り繕えているはずだ。
レイファを撫でているときに優しい気持ちになれるから、まだ大丈夫だと思っている。
なので、なんで尚文やラフタリアに心配されるかは意味がわからなかった。
「ヒィッ?!」
一瞬、リーシアが俺の顔を見て悲鳴をあげる。
なんだと言うのだろうか?
「まあ、今は霊亀との戦いの前だ。きっと熾烈な戦いになるし、早く寝たほうがいいんじゃないかな?」
俺は話題を切り替えるために、そう話を切り出した。
そろそろ日も暮れてきた頃だった。
「……そうですね、そろそろ3度目の休憩を行いましょうか。霊亀はまもなくメルロマルクまで突入するはずです。イワタニ様、ソースケ様も今夜はゆっくりお休みになられて、英気を養ってくださいませ」
女王陛下がそう言って合図をすると、同乗していた兵士が笛を鳴らす。
こうして、3度目の休憩を行うことになったのだった。
……菊池宗介の精神は、破綻の一歩前の状態だと、岩谷尚文はそう感じた。
宗介が見せた、一瞬の虚無の表情がそれを雄弁に物語っていた。
本人は全く気が付いていないが、そもそも戦いの世界に身を置いていなかった日本人が、あれだけの大量殺人をおこなっておいて、まともな状態のはずがないのだ。
宗介の破綻はレイファも、リノアも気が付いていた。
いつも通りに接するようにしていたのは、宗介本人が気が付いていないから、そして、それをケアするには十分な時間がないからだった。
レイファ達も追われる身となり、その後すぐに霊亀との戦いになったのだ。
とは言っても、宗介は貴重な戦力である事に変わりはなかった。
単身で一騎当千の活躍ができるからこそ、この崩壊に瀕した世界では、必要とされるのだ。
メルロマルク城を出発して1日。
宗介の精神状態は置き去りに、事態は着々と動いていくのであった。
オリジナルです。
まあ、ここで挟んでおいたほうが良いかなと思いました。