控え室で特出すべき事は、燻製が煩かった事以外は特になかった。
腰に差している剣以外は置いてきているし、黒髪も兜を被って見せないようにしているため、国の兵士と間違われてもおかしくない状態だからだ。
気になったことと言えば、噂話である。
「聞いたか? 四聖勇者が全員召喚されたらしいぞ」
「マジかよ。それってマズくないか?」
「さあ、外交については何とも……」
「それよりも、盾まで召喚されたらしいぞ!」
「なんだって! なんで盾まで」
「これはマズいかもしれないな……」
はは、お前らこれから盾を虐めるんだろう?
知っているぞ。
とは思いつつも、俺はスルーすることにした。
今頃は謁見中かな。
俺は暇を持て余して、駐屯施設にある兵士の訓練場まで足を伸ばしていた。
そこで木剣と木槍を振り回す。
ここ最近城下町から出てなかったので、レベルは20でピタリと止まったままだ。
毎日こうやって練習をしているおかげか、筋力とかのステータスは伸びてはいるんだけどな。
「必殺! 大旋風!」
槍の必殺技を繰り出し、マネキンを攻撃すると、マネキンが吹っ飛ぶ。
いつのまにか技のキレは向上し、日本にいた頃とは比べ物にならないくらい筋肉がついていた。
細マッチョと言っても良いだろう。
「精が出るな冒険者」
俺に声をかけてきたのは、燻製だった。
燻製は確か、国の兵士である。
「何の用だ? 俺は訓練中な訳だが」
「ふん、やはり冒険者は粗暴だな。波を鎮めただかなんだか知らないが、出の不明な貴様に勇者様の護衛は務まらぬ! 即刻去るが良い!」
えらい傲慢だなこの燻製。
やっぱり、早めに燻製にした方がいいんじゃないかな?
「はっ、それが許されるなら、俺はサッサとアールシュタッド領に戻ってるっての」
サッサと戻って、レイファと一緒に暮らしたい。
なぜ俺が波の尖兵なんぞやらねばならないんだと言う話である。
「ぐぬぬ……」
なーにがぐぬぬだ。
やっぱり燻製は処すべきかな?
「貴様! 勝負だ!」
「断る。アンタも勇者様の仲間になる人だろう? こんな事で争っても仕方ないんじゃないか?」
俺がそう嗜めると、燻製はまた「ぐぬぬ……」と唸り顔を真っ赤にする。
そう言えば、燻製と対面をしても腹がたたないな。
性格悪いのは原来の性なのだろうけどな。
波の尖兵ではなくて、現地人だからだろうか。
「ふんっ! まあ良い。腰抜けには用は無いのだ!」
燻製はずんずんと不機嫌そうに城に戻っていった。
わからない奴だ。
サッサと燻製になれば良いんじゃないかな?
俺はそんなことを考えながら、訓練場でもう少しだけ体を動かしたのだった。
部屋に戻って、休憩をしていると、兵士に呼ばれて一つの部屋……会議室に集められた。
はじめに勇者の仲間になる12人が揃ったらしい。
部屋を見渡してみると、ヴィッチ……マインがすまし顔で座っている。
燻製は踏ん反り返っている。
「さて、今回の召喚で、剣、弓、槍の勇者様と、盾の悪魔、四聖勇者様全員が召喚された」
会議室はざわついた。
そりゃそうだ。
もともとは、剣、槍、弓の三勇者しか召喚するつもりがなかったんだからな。
「そこで、くれぐれも盾の悪魔に加担しないように、事前通告をすることになった。これは王命である」
しっかし、偉そうだな。
まあ、尚文は優しい奴だから、普通に配分すれば2人は確実に仲間になるだろう。
ヴィッチやクズの企みを考えれば、それは美味しくない。
「また、影からの報告によると、盾はこの世界に詳しくないとの事だ」
また、会議室が騒然とする。
確かに、四聖勇者はこの世界を熟知していると言う伝承があるのは事実だ。
少なくとも、伝承に残る程度には、長い年月をかけてこの世界がメガヴィッチに侵攻されているのだろう。
実際は、勇者達の遊んでいたゲームはメガヴィッチによってばら撒かれたのだがな。
もしかしたら、俺の世界にもそう言うゲームがあるのかもしれないが、該当のものは思いつかない。
強いて言うならば【盾の勇者の成り上がり】シリーズであるが、どう考えてもこれから起こる事の預言書だろう。
「あの、勇者様がたのお姿は拝謁できないのでしょうか?」
慎重な感じがする騎士っぽいやつが質問をすると、兵士が水晶玉を持ってきた。
「本日召喚されて、謁見の間で自己紹介をする勇者様方の映像だ。どの勇者様を支援するか、よく観察して選ぶように」
兵士がそう宣言すると、映像が流れ出す。
どうやら音声も記録されているらしく、それぞれ声が聞き取れる。
最初に聞こえてきたのは、クズの声だった。
『では勇者達よ。それぞれの名を聞こう』
それに答える形で、最初に剣の勇者である天木錬が名乗り出る。
『俺の名前はアマキ=レンだ。年齢は16歳、高校生だ』
メルロマルク語で聞こえる。
映像水晶にはメルロマルク語で記録されるらしい。
剣の勇者、天木錬。外見は、美少年と表現するのが一番しっくり来る。
顔のつくりは端正で、体格は小柄の165cmくらいだったはずだ。
女装をしたら女の子に間違う奴だって居そうな程、顔の作りが良い。髪はショートヘアーで若干茶色が混ざっている。映像越しでは若干分かりにくいが。
切れ長の瞳と白い肌、なんていうかいかにもクールという印象を受ける。
細身の剣士という感じだ。
実はコミュ障の中二病なだけであるがな。
プレイしていたゲームは、ブレイブスターオンラインと言う。
『じゃあ、次は俺だな。俺の名前はキタムラ=モトヤス、年齢は21歳、大学生だ』
槍の勇者、北村元康。外見は、なんと言うか軽い感じのお兄さんと言った印象の男性だ。
錬に負けず、割と整ったイケメンって感じ。彼女の一人や二人、居そうなくらい人付き合いを経験している。イメージ通りだな。
髪型は後ろに纏めたポニーテール。男がしているのに妙に似合っているな。
面倒見の良いお兄さんって感じだ。
後に悲劇で人格が破壊される。
プレイしていたゲームは、エメラルドオンラインと言う。
『次は僕ですね。僕の名前はカワスミ=イツキ。年齢は17歳、高校生です』
弓の勇者、川澄樹。外見は、ピアノとかをしていそうな大人しそうなイメージがある少年だ。実際上手い。
儚げそうな、それでありながらしっかりとした強さを持つ。あやふやな存在感があると言う印象を尚文は持ったはずだ。
髪型は若干パーマが掛かったウェーブヘアー。
大人しそうな弟分という感じ。
ただの正義大好きの独善的な奴で、独裁者にいそうな性格に変貌する。
プレイしていたゲームは、コンシューマゲームでディメンション・ウェーブ……直球どストレートだなおい。
『ふむ。レンにモトヤスにイツキか』
『王様、俺を忘れてる』
『おおすまんな』
クズは分かりやすく尚文を無視する。
ま、クズもクズで理由はあるにはあるが……ヴィッチのせいだとここでは断言しておこう。
そこですまし顔で座っている、クソ女だ。
『最後は俺だな、俺の名前はイワタニ=ナオフミ。年齢は20歳、大学生だ』
盾の勇者、岩谷尚文。外見はくしゃくしゃの黒髪に、少しお調子者そうな顔つきをしている。優しそうな雰囲気をまとった男性だ。
どの勇者もそうだが、尚文もイケメンであるが、童貞っぽい感じはする。
この世界の主人公的存在で、商魂たくましい。
この後裏切られて最初に悲惨な目にあう。
図書館で四聖武器書を読んでいる最中に召喚された。
それぞれ特徴がある連中だ。
どの連中も主人公属性の塊であり、正しく導く人がいれば、きっと世界を救ってくれるのは間違いようがない存在だ。
そうはさせないのが、俺たち波の尖兵とヴィッチなんだがな。
「盾以外で気に入った勇者を支援するがいい。事前に話し合いの場をここに設ける!」
と、そんな感じでモブ達の話し合いが始まったわけだ。
俺とヴィッチはサッサと宣言してしまったわけだがな。
そしてその夜、燻製のうるさい声が聞こえてきた。
「おい、ベッドが硬いではないか。もっと良いベッドは無いのか!」
そのセリフを聞いて、俺は周囲を見渡した。
もちろん、槍の勇者が居ないかの確認である。
ただ、クローキングランスに、ドライファ・ファイアミラージュを使用しているから探すだけ無駄か。
俺はサッサと戻ることにした。
そう、すでに勇者は召喚されたのである。
賽は投げられたのだ。
裏話やアニメの描写とか統合した結果がこれだよ!