翌日、午前10時頃に俺たちは謁見の間に通された。
打ち合わせは完璧なので、特に言うこともない。
どっちにしても、尚文はモブの顔なんて覚えないだろうし、そもそも【盾の勇者の成り上がり】に俺の名前が出てきたことは一度もないため、認識すらされないだろう。
波の尖兵の存在に気づかれる前なら、まだ安全だろう。
明確に気づくのは、タクト編だったっけな?
「冒険者達はこちらへ並べ。王の到着までしばし待たれよ」
と言うわけで、俺たちが待っていると、しばらくしてクズが入ってきた。
うーん、何という舞台の裏側。
「その方達が、勇者殿を支援する冒険者達か」
クズはそう言いながら、一人一人を観察する。
「ふむ、皆やる気に満ちているようだな。良いことだ」
ヴィッチとはアイコンタクトを取っている。
クズは俺の存在には気づかなかったようだ。
まあ、今は特徴的な黒髪は兜の下に隠しているし、一度しか会ったことがない俺を覚えているはずもないか。
「四聖勇者様、入場!」
クズが左側の王座に座った頃にちょうど、兵士の声が響く。
扉が開き、昨日映像水晶で見たとおりの勇者4人がタラタラと歩いてきていた。
顔はなんか期待に満ち溢れた顔をしているのがわかる。
特に尚文が一番期待に胸を膨らませているように見える。
「勇者様のご来場」
4勇者が並んだところで、兵士がそう宣言した。
尚文は目で俺たちを数えている。元康は女に目がいっているな。錬は興味なさげにしながらも、こちらに様子を伺っている。樹は……よくわからない。
すると、クズが早速話題を切り出した。
「前日の件で勇者の同行者として共に進もうという者を募った。どうやら皆の者も、同行したい勇者が居るようじゃ」
それに、4勇者は驚きの表情をする。
自分たちが選ぶ側じゃないの? という顔だ。
まあ、この状況なら誰だってそう思うよな。俺も、自分が勇者ならそう思う。
「さあ、未来の英雄達よ。仕えたい勇者と共に旅立つのだ」
クズが指し示すように腕を勇者達に向ける。
それが合図で、俺たちはそれぞれの勇者のもとに向かう。
俺は、錬を選択した。
まー、多分尚文と一緒に戦った方が楽なのはわかっているんだがね。
やり直しでも無いのに、シナリオを変えるのはダメだろう。
しかしまあ、実際に勇者達を見ると、イライラする。
こう、前に波の尖兵と会った時ほどでは無いが、イライラする。ムカつく事を言われたら、つい喧嘩を売ってしまいそうだ。
で、結果どうなったかと言うと。
錬、5人
元康、4人
樹、3人
尚文、0人
知ってはいるが、胸糞の悪くなる結末だ。
「ちょっと王様!」
尚文のクレームに、少し慌てたふりをするクズ。
お前が仕組んだんだろう。
と言うか、尚文の言葉は日本語として聞こえるんだな……。
「う、うぬ。さすがにワシもこのような事態が起こるとは思いもせんかった」
「人望がありませんな」
クズに呆れ顔で大臣が同意して切り捨てる。
そこへローブを着た男……影がクズに内緒話をする。
「ふむ、そんな噂が広まっておるのか……」
「何かあったのですか?」
元康が微妙な顔をして尋ねる。
尚文が苦虫を噛み潰したような表情をする。
いや、申し訳ない。申し訳ないが、何故か同情の感情は湧いてこなかった。おかしいな。何故だ?
と思ったら、そう言えばこの部屋にはヴィッチがいたな。
あいつの悪影響なのかもしれない。
俺はどうやらヴィッチに何らかの影響を受けている可能性が高い。
「ふむ、実はの……勇者殿の中で盾の勇者はこの世界の理に疎いという噂が城内で囁かれているのだそうだ」
「はぁ!?」
「伝承で、勇者とはこの世界の理を理解していると記されている。その条件を満たしていないのではないかとな」
元康が尚文の脇を肘で小突きながら、何かを告げた。
作品を思い出すと、こう囁いたのだろう。
「昨日の雑談、盗み聞きされていたんじゃないか?」
尚文がだんだん機嫌が悪くなっているのは明らかだった。
ま、異世界召喚早々にこののび太みたいな扱いだもんな。
誰だって嫌だろう。
「つーか錬! お前5人も居るなら分けてくれよ」
尚文が錬を指差して威嚇するので、燻製を含めた俺たちは錬の後ろにわざと隠れる。
うっわ、燻製のやつ醜い顔してるな……。
肩が笑いで揺れているぞ。
錬もなんだかなぁとボリボリと頭を掻きながら見て。
「俺はつるむのが嫌いなんだ。付いてこれない奴は置いていくぞ」
と言うが、中二病でコミュ障を隠しているだけに過ぎない。
俺から矯正することはないけれどね。
「元康、どう思うよ! これって酷くないか」
「まあ……」
元康のメンバーはヴィッチに知らない女性2人、男性といった感じだ。
「偏るとは……なんとも」
樹も困った顔をしつつ、慕ってくれる仲間を拒絶できないと態度で表している。
「均等に3人ずつ分けたほうが良いのでしょうけど……無理矢理では士気に関わりそうですね」
樹の尤もな言葉にその場に居る者が頷く。
「だからって、俺は一人で旅立てってか!?」
尚文の尤もな悲痛に、燻製以外の他の3人も居た堪れない顔をする。
てか、なんで燻製は俺がいるのに剣の勇者を選んだんだろうか?
場がシンと静まり返り、少し間を置いたところで、事態が動いた。
「あ、勇者様、私は盾の勇者様の下へ行っても良いですよ」
ヴィッチが片手を上げて立候補する。
「お? 良いのか?」
「はい」
まるでミナを思い起こさせる。
俺はあいつの事を戦闘面以外では信用していないので、綺麗なヴィッチモードのままだけどな。
この状況で立候補したら、そりゃ誰だって信用してしまうだろう。
ヴィッチはミナと比べても、そう言う陰謀が得意なのかもしれない。
と、俺はヴィッチを見ながら評価していた。
ヴィッチは一見すると、セミロングの赤毛の可愛らしい女の子だ。
ミナと似たような顔だが、顔は結構可愛い方じゃないか? やや幼い顔立ちだけど身長は尚文と比較すると少し低いくらいだ。
「他にナオフミ殿の下に行っても良い者はおらんのか?」
シーン……誰も手を上げる気配が無い。
クズは嘆くように溜息を吐いた。
「しょうがあるまい。ナオフミ殿はこれから自身で気に入った仲間をスカウトして人員を補充せよ、月々の援助金を配布するが代価として他の勇者よりも今回の援助金を増やすとしよう」
「は、はい!」
妥当な判断だ。
まあ、残念なことにこの国で尚文の仲間をしたいなんて稀有な存在は、それこそ奴隷ぐらいしかいないだろう。
後は現在投獄されているエクレールとかかな?
「それでは支度金である。勇者達よしっかりと受け取るのだ」
勇者達の前に四つの金袋が配られる。
ジャラジャラと重そうな音が聞こえた。
その中で少しだけ大き目の金袋が尚文に渡される。
「ナオフミ殿には銀貨800枚、他の勇者殿には600枚用意した。これで装備を整え、旅立つが良い」
「「「「は!」」」」
俺達はそれぞれ敬礼し、謁見を終えた。
謁見の間を勇者達について出て行くと、それぞれが自己紹介を始める。
「俺は剣の勇者の天木錬だ。さっきも言ったが、ついてこれないやつは置いていく。後は俺の指示に従ってもらう」
「わかりました、アマキ様。私はウェルトと言います。これから、剣の勇者様のお役に立てるよう誠心誠意お仕え致しますのでよろしくお願いします」
ウェルトは礼儀正しい感じがする。
装備も、この国から支給される鎧に武器なので、国の兵士なのかなと思う。
「我輩はマルドだ。よろしくな、剣の勇者殿」
燻製がそう言って自己紹介をした。
「私はテリシアと言います。主に魔法で皆さんを支援するのが役目です。適性は水と回復です。よろしくお願いしますね」
テリシアはにこやかに微笑む。
魔法使いみたいな出で立ちだが、僧侶系の魔法も使えるのか。
「あたしはファーリーよ。攻撃魔法が得意よ。よろしくね、勇者様」
ファーリーはテリシアと違い、色気のあるお姉さんといった感じだ。確実に元康がナンパしそうである。
俺は流そうとしたが、錬の目が俺を見つめる。
若干イラッとするな……。
「俺は、えーっと、ソースケだ。これでも一応近距離、中距離、遠距離、魔法での支援色々できる。よろしく頼む」
「ソースケ……? お前は日本人なのか?」
一応発音もメルロマルク語風に言ったはずなのに、錬の奴が突っ込んできた。
一応設定ではあるが、言っておいた方が良いかな。
「あー……、勇者様は細かいところは知らないかもしれないが、この世界では過去にも勇者様が召喚されたことがあってな。勇者様と似た名前を付けることがあるんだ」
「そうなのか……? そう言う設定はブレイブスターオンラインにはなかったと思うが……」
「お前、その、物語のサブキャラの細かい設定なんて知ろうとするのか?」
「……ふん、確かにそうかもな」
なんとか上手く誤魔化せたかな?
一応、納得した表情をしているので、上手く誤魔化だろう。
思わず、余計な単語を挟んでしまうところだったが、まあ良い。
そんな感じで俺は、錬のパーティに潜り込んだのだった。
サブタイトルは原作準拠です。
剣の勇者の他の仲間はあまり性格や他の描写が無いので、好き勝手に描写させてもらいますね。
どのタイミングで剣の勇者のパーティを抜けようか
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燻製と同じタイミングで
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最初の波の後で
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ドラゴン退治の後で
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第二の波の後で