波の尖兵の意趣返し   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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燻製が生意気だと言う話


我慢の限界

 あれから3週間ほど経った。

 基本的に俺たちはギルドの依頼を受けつつ、錬とは別行動でレベル上げをしていることが多かった。

 それこそ、錬でも手を焼きそうな魔物を相手にする時に、一緒に討伐する感じだ。

 今日受ける依頼も、強力なボスモンスターが出現する依頼らしく、俺たちは錬に同行することになっていた。

 俺と燻製以外のメンバーは、錬の知識量に感服してしまい、ウェルトは「レン様」と呼ぶようになった。いやまあ、俺の方が早く「錬様」と言っていた気がするけれどな。

 燻製は自分の思う通りに活動ができないためか、始終不機嫌で、錬の事は「剣の勇者」と言うようになっていた。

 

「今日の依頼は想定レベル37の強力なボスモンスターがいる依頼だ。最初に指示を出しておくから、その通りに動け」

「わかりました! レン様!」

 

 錬とはパーティは組んでいるが、一緒に戦うことはほとんどない。

 雑魚はウェルト達が率先して戦うし、ボスはウェルトや燻製がタゲを取りつつ錬がとどめ刺す形になるからだ。

 だからこそ、燻製の中にヘイトが溜まっていったのだろう。

 燻製が俺や他のメンバーに突っかかる回数も増えていき、俺も結構イライラが溜まっていた。

 

 錬は自分だけでゼルトブルに行き装備を整えてしまっており、アニメで見た装備を身にまとっている。

 一人で狩ってると思ったらいつのまにかと言う状態だ。

 

「今回のボスモンスターはラージファルガウルフと言う。ファルガウルフが大型化した魔物だ」

「ええ! ファルガウルフは滅多に出てこない魔物ですよ!」

「コイツはなかなか素早い。ウェルトとマルドは敵を引きつけてくれ」

「わかりました、レン様」

「……フン」

「テリシアは、主にウェルトとマルドを回復させつつ、適宜水魔法で攻撃しろ」

「わかりましたわ、レン様」

「ファーリーはいつものようにラストアタックは俺がとるから、それまでは全力で攻撃だ」

「承知しているわ、レン様」

「ソースケは、援護魔法をメインで切れないようにしてくれ。俺やウェルト、マルドがピンチの時は援護を、テリシアとファーリーが狙われた場合はタゲを取りに行ってくれ」

「あいよ」

「ファルガウルフの特徴は、その素早さだ。ラージファルガウルフともなると二足歩行で襲ってくる。今回の依頼もそのタイプだ」

 

 ファルガウルフ……俺は知らない魔物だ。

 というより、そもそも【盾の勇者の成り上がり】は現地の魔物については非常に描写の少ない作品だ。

 知らない魔物が居ても当然だろう。

 

 そして、俺達は依頼のあった洞窟に来ていた。

 ダンジョンとも言うべきこの手の洞窟は、結構あるらしい。

 メルロマルクだけでも有名なダンジョンは両手で数え切れないほどにはある。

 ダンジョンアタック自体は特に錬が一緒に潜ることの多い依頼だ。

 しかし、レイファは無事だろうか……。

 最近はレイファのことが気になって仕方なかった。

 

「ソースケさん」

「ん?」

「ボケっとしてる暇はないですよ。レン様を追いかけないと」

「あ、ああ」

 

 いかんいかん、レイファの事を考えててぼんやりしていた。

 どうやらこのダンジョンは巣になっているらしく、至る所からファルガウルフが飛び出してくる。

 そこまで苦戦しないけれどな。

 ウェルトと燻製が一匹潰す間に俺は3匹を槍で殺す。

 ここ最近ずっと槍ばかりを使っているせいで、槍の熟練度は上がる一方だ。

 ステータス魔法を見ても、槍の熟練度はかなり高い。

 剣と弓は使う機会が無く、せいぜい使う機会があるのは援護魔法と槍と小手ぐらいだろう。別の得物を使うと、ウェルトが錬に報告するので面倒なことになる。なので、最近はめっぽう槍ばかりだ。

 今度親父さんに『人間無骨』でも作ってもらおうかなと考えながら、俺は槍を振り回し、テリシアを襲うファルガウルフを薙ぎ払う。

 

「錬サマ、そろそろつかないのか?」

「もうすこし先だ」

 

 俺がそう言うと、錬はそう返してくる。

 レベルも34まで上昇し、ファルガウルフも片手間で排除できる状態になっていた。

 

「グルルルルル……!」

「出たな」

 

 錬は剣を構える。

 あれは確か、魔物のドロップで出た剣だったな。今はウェルトが装備している、ファングソード……だっけな。

 どうやら狼系の魔物を討伐すると稀にドロップするらしい。

 ちなみに、ファルガウルフのレアドロップの一つでもあるようだ。

 ラージファルガウルフは確定でファルガランページソードと言う狼特攻の装備を落とすらしい。

 

「行くぞ! はああああああ!」

 

 錬が突っ込む。

 

「レン様を援護するんだ!」

 

 ウェルトと燻製が後に続く。

 しかし、基本的に錬が突っ込んでいくのは仕様なのか? 

 俺はため息をつきながら、槍を構えて魔法を唱える。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者らを守れ』

「アル・ツヴァイト・ガード」

 

 俺は基本的に魔道書を読んで覚えているが、錬は国から支給された水晶で魔法を覚えている。

 俺が錬に魔道書で覚える事をオススメした時、錬は少し魔道書を読んで、すぐに返してきたっけ。

 

「悪いが、『異世界言語解読』スキルを得るまでは読めない。お前が覚えろ」

 

 そんなスキルは実際確認されたことはない。

 結果的に俺が少しアドバイスをした程度では変わらないと言うことだろう。

 

「おっと」

 

 回想にふけっている場合ではないな。

 テリシアやファーリーに飛んでくる攻撃を槍でいなす。

 基本、錬は目の前の敵に集中してしまうため、こうして俺が後衛を守る必要があるのだ。

 ファルガウルフを槍で切り殺し、二人を守る。

 

「ツヴァイト・アースクエイク!」

「ツヴァイト・アクアショット!」

 

 後衛の二人は攻撃魔法を唱えて、錬の援護をする。

 流石に3週間一緒に戦っただけはあり、息はピッタリである。

 自分勝手に動く勇者様を除いてはであるが。

 一番攻撃力の高い燻製が一番囮にされているので、俺は燻製のヘイト管理をせざるを得ないのだ。

 燻製がいようがいまいが歴史は変わらないが、今死なれても困るだけである。死体の処理的な意味で。

 得物が斧なせいか、がむしゃら攻撃が多い印象なのだ。お前兵士だろうに……。

 

「必殺! 大旋風!」

 

 なので、錬以上に無防備な燻製に変わり前線に出て燻製をかばう。

 

「貴様! 我輩の手柄を横取りする気か!」

「危ねぇから庇ってやったんだろが!」

「貴様……!」

 

 ちなみに、ウェルトが庇っても燻製は文句を言う。

 逐一偉そうだし、錬の指示は70%無視するしで、全員が全員、関わらない錬以外は燻製に対してヘイトを高めていた。

 互いの我慢の限界も、そろそろ近かった。

 そうそう、ラージファルガウルフはあっさりと討伐できたのは言うまでもなかった。


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