波の尖兵の意趣返し   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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完全に主人公が空気の回


龍刻の砂時計

 同じ事をしていると、描写する必要もなく、俺達は各地を巡ってレベルアップに勤めていた。

 俺はレイファやドラルさんが無事か情報を集めていたけれど、その情報が俺の手元に届くことはなかった。

 不安が募る。

 そんな中、俺のレベルは40に到達していた。

 もちろん、俺のステータス魔法にもレベルの横に★マークが付いている。

 

「そろそろ波も近い。お前らのクラスアップに行くぞ」

 

 錬がそう提案したのは、当然のことであった。

 刻限からいえば、確かにそろそろそんな時期である。

 

「あの、私はまだ35なのですが……」

「ふむ、だが波の刻限も近いからな。次の波の適正レベルは43なんだ。悪いが全員クラスアップをしてもらう」

「わ、わかりました!」

 

 適正レベルが43なのか。なるほどな、だから最初の波の時点で尚文以外の勇者全員がクラスアップをしたわけである。

 クラスアップをしなかった場合、経験値が無駄になってしまうわけだしな。ゲーマーとしては、自分の育てた仲間の経験値が無駄になるのは見過ごせないだろう。

 それに、波は通常よりも経験値が多めに手に入る。

 

「さすが錬サマだな。波での経験値を考えればここでレベルキャップを外しておかないとテルシアの経験値が無駄になるからな」

 

 なので、納得できない顔をするテルシアに対して、解説気味にそう言う。

 

「そうだ。そう言えばソースケは波の経験者だったな」

「まあな」

「自惚れるなよ、冒険者が。貴様の解説を聞かぬとも、剣の勇者が説明するはずだったのだ」

 

 なんでこう、この燻製は突っかかってくるのだろうか? 

 と言うか初めからではあるが俺に対する圧が強い。

 まるでさっさとこのパーティを辞めろと言っているかのようである。

 別にリーダーぶっているつもりはないんだがな……。

 

「と言うわけで、一度メルロマルク城下町に戻る。移動をするからお前ら付いて来い」

 

 と言うわけで、俺達はメルロマルク城下町に戻ったのだった。

 

 三勇教教会に入ると、教皇……ビスカ=T=バルマスだったけな、が迎えに出てきた。

 

「おお、剣の勇者様、弓の勇者様、よくぞお出でになられました。本日はどのようなご用ですかな?」

「樹も居たのか」

「錬さんもですか。奇遇ですね」

「樹もクラスアップか?」

「ええ、そろそろ波の刻限も近いと思いまして、その確認も含めてですね」

「なるほど、では剣の勇者様と弓の勇者様のお仲間のクラスアップが目的ですな」

「はい、そうです」

 

 バルマス教皇は偉そうな信者……司祭? と少し話すと、微笑みをたたえたまま奥に促す。

 

「もちろん構いませんよ。ちょうど、槍の勇者様と盾の勇者様もお出でになられております。少し会話をすると良いでしょう」

 

 シスターに龍刻の砂時計の間に案内してもらうと、早速ステータス魔法に波までの時間が表示される。

 

 19:59

 

 と、傲慢そうな女の声が聞こえてきた。

 

「何よ、モトヤス様が話しかけているのよ! 聞きなさいよ」

 

 これだけでヴィッチだとはっきりわかんだね。

 俺は兜から髪の毛が出てないか再度チェックし、問題ない事を確認する。

 しかしまあ、このタイミングな訳だね。

 

「ナオフミ様? こちらの方は……?」

「……」

 

 ラフタリアの声が聞こえる。

 ラフタリアは、何度か名前が出てきているが、尚文の仲間だ。

 タヌキが源流だとわかる尻尾にタヌキの耳を持つ、亜麻色の髪をした美少女がラフタリアだ。

 イメージはアニメそのままだろう。すでに17歳ぐらいに見える容姿をしており、改めて尚文が憎悪による認識障害を起こしている事を実感する。

 尚文は、蛮族の鎧に緑色のマントを羽織っており、顔がやさぐれている。目の下にクマができており、世界に対する憎悪が満ちているのが見ているだけでわかる。

 ぐっ……良心が痛む! 

 と言うか、ここまで憎悪に歪んだ顔をしているのに、なぜ元康も錬も樹もおかしいと気づかないのだろうか? 

 そうそう、当然ながら元康がいると言うことはヴィッチがいると言う事だ。つまり、俺の正常だった認識に若干曇りが入る、と言う事だ。

 

 尚文は不機嫌そうにラフタリアの手を握り、こちらに向かってくる。

 

「チッ」

「あ、元康さんと……尚文さん」

 

 樹は舌打ちをした尚文を見るなり不快な者を見る目をし、やがて平静を装って声を掛ける。

 

「……」

 

 錬はクールを気取っているため当然ながら無言だ。

 しかしまあ、この狭い空間に17人も居たら、鬱陶しい感じがするのはわかる気がする。

 

「あの……」

「誰だその子。すっごく可愛いな」

 

 戸惑いながら付いていくラフタリアに対して、元康がそう感想をつぶやき、キザったらしく近づいて自己紹介を始める。

 

「始めましてお嬢さん。俺は異世界から召喚されし四人の勇者の一人、北村元康と言います。以後お見知りおきを」

「は、はぁ……勇者様だったのですか」

 

 最初を知ってるだけに、笑える光景である。

 報酬よこせとか、色々要求してたのになー。

 おずおずとラフタリアは目が踊りながら頷く。

 

「あなたの名前はなんでしょう?」

「えっと……」

 

 困ったようにラフタリアは尚文に視線を向け、そして元康の方に視線を移す。困惑してるぞ、元康。

 

「ら、ラフタリアです。よろしくお願いします」

 

 ラフタリアは冷や汗を掻いて尚文の様子を見ている。

 

「アナタは本日、どのようなご用件でここに? アナタのような人が物騒な鎧と剣を持っているなんてどうしたというのです?」

「それは私がナオフミ様と一緒に戦うからです」

「え? 尚文の?」

 

 元康は本気で驚いているのか、ラフタリアと尚文を見比べる。

 

「……なんだよ」

「お前、こんな可愛い子を何処で勧誘したんだよ」

 

 元康は尚文を睨みつけながら、尚文を問いただした。

 ますます尚文の表情が歪む。

 

「貴様に話す必要は無い」

「てっきり一人で参戦すると思っていたのに……ラフタリアお嬢さんの優しさに甘えているんだな」

「勝手に妄想してろ」

 

 そもそも、盾でどうやって戦えと言うのかと。

 仲間もしくは奴隷を雇う以外無いだろう事は想像に難く無い。

 元康はこの中で一番頭がいいはずだけど……なんで思い浮かばないのかね? 

 

 尚文はこちらの方にある出入り口の方へ歩き出す。

 俺たちは道を開ける。

 

「波で会いましょう」

「足手まといになるなよ」

 

 ヴィッチがいるせいか、普段は気にすることの無い錬の言葉すらイラついてしまう。

 事務的でありきたりな返答をする樹と、勇者様態度の錬。

 目立たないように俺はしているが、内心心がザラついていた。

 

「行くぞ」

「あ、はい! ナオフミ様!」

 

 どうしたらいいのか迷っていたラフタリアは、尚文の声で正気に返ると慌てて尚文を追いかけていった。

 

「……くだらない茶番だな」

 

 俺がぼそりと呟いたのを錬が拾った。

 

「全くだ」

 

 うぐっ、同意されると俺まで中二病じみてる感じがして嫌だな。

 いや、高二病は治っていない自覚はあるけれども。

 チラリと周りを見ると、燻製以外の剣チームは苦笑いをしている。

 燻製は清々しい顔をしている。

 

「ふふん、正義がなされたのだ。盾の扱いなどこれで正しい」

 

 燻製の言うことなどをいちいち気にしていてもしょうがないだろう。

 俺は視線を戻して、元康達の方を見た。


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