波の尖兵の意趣返し   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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茶番な祝賀会

「いやあ! さすが勇者だ。前回の被害とは雲泥の差にワシも驚きを隠せんぞ!」

 

 クズの不快な声が会場に響く。

 陽も落ち、夜になってから城で開かれた大規模な宴にクズが高らかに宣言したからだ。

 ちなみに死傷者は前回が1万人(亜人を含めるともっといたかな?)ほどであり、セーアエット領が壊滅したことに比べれば、今回の死傷者は一桁に収まる程度だったので、喜ばれるのも納得ではある。

 むしろ、前回はセーアエット領で発生したために余計に兵士の到着が遅かった疑いまである。

 今回の波だって領の兵士や冒険者だけでは到底防ぎようがなかっただろう。

 尚文が波から守らなければ、リユート村含めた周囲の村は滅んでいただろう。

 

 そんな感じで、祝賀会が開催された。

 勇者様方は貴族の女性に囲まれてちやほやされている。

 尚文は窓枠のところで真剣な表情でタッチスクリーンを操作するような手つきでステータス魔法を操作している。

 錬は煩わしそうな雰囲気を出しつつ、まんざらでもない表情をしている。

 

「ソースケさん!」

 

 不意に聞き覚えのある声を聞いた。

 げ、ミナだ。

 そう言えば、ミナはアールシュタッド領領主の娘だったな……。

 

「や、やあ」

「すみません、父が勇者様との旅を認めなかったので道中抜けてしまって」

 

 俺は嫌な奴にあったなぁと思う。

 まあ、確かに貴族として着飾っているミナは美人だろう。

 だが、中身はヴィッチである。

 つまりはそう言うことだ。

 

「今は剣の勇者様の仲間をしていらっしゃるんでしたね」

「ああ、そうだな」

「今度埋め合わせをさせていただきますね」

「いや、大丈夫だ。気にしないでくれ」

 

 本当に大丈夫だから! 

 お前といるとなんか精神が蝕まれる感じがして嫌なんだよ! 

 とは口には出さないが思っていた。

 

「おい、冒険者! なんだその良い女は!」

 

 既に酒を飲んで顔が赤い燻製が絡んできた。

 ちょうどいい、押し付けてやるか。

 似た者同士気があうことだろう。

 

「おお、勇者ではない身であるにも関わらず、果敢にも攻撃を仕掛けた勇敢なマルド氏では無いか!」

 

 俺がキャラが変わったように褒め称えたが、それに乗る阿呆が目の前にいた。

 

「そうだろうそうだろう! 我輩の活躍に、ようやくお前も気づいたか!」

「ええ! まさに勇者と言っても過言では無い活躍でした!」

 

 誇大広告である。確かにアタッカーとして頑張ってはいたが、HPゲージ的には1mm程度の活躍だ。

 大部分は勇者達の成果である。

 そもそも、俺ら冒険者は基本的には勇者様の露払いが役目だ。

 俺は燻製の盾になったが、それでも魔法で雑魚殲滅の手伝いはしていた。

 

「そうだろうそうだろう! わぁっはっはっはっは!」

「ミナ、紹介する。この人は波で活躍されたマルド氏だ」

「え、あ、はい、そうなんですね。よろしくですわ」

 

 ニコニコと微笑むミナ。

 だが、名乗らなかった。

 

「わっはっは! よろしく頼むぞ、ミナ殿!」

 

 気分良さそうに酒を煽る燻製にヴィッチはお似合いだろう。

 やはり、俺は波の尖兵には向かないな。

 あんなに傲慢にはやはりなれない。

 と、威勢のいい声が聞こえて、会場がざわついた。

 

「おい! 尚文!」

 

 ああ、もうそんな時間なのか。

 俺は人を掻き分けて騒動の中心を鑑賞しに行く。

 いやだって、これが盾の勇者の成り上がりたるイベントだし、モブとしては見に行かないわけにはいかないよなぁ? 

 ちょうど元康が尚文に手袋を叩きつけているところだった。

 

「決闘だ!」

「いきなり何言ってんだ、お前?」

「聞いたぞ! お前と一緒に居るラフタリアちゃんは奴隷なんだってな!」

 

 当のラフタリア本人は騒動など気にせずご飯を美味しそうに食べていた。

 

「へっ?」

 

 そんなラフタリアは置き去りにイベントが進行していく。

 

「だからなんだ?」

「『だからなんだ?』……だと? お前、本気で言ってんのか!」

「ああ」

 

 うーん、人間不信が極まって超がつくほどの説明不足感を感じるな。

 今の元康に聞く耳などないだろうが。

 

「アイツは俺の奴隷だ。それがどうした?」

「人は……人を隷属させるもんじゃない! まして俺達異世界人である勇者はそんな真似は許されないんだ!」

「何を今更……俺達の世界でも奴隷は居るだろうが」

 

 ちゃんと元康に説明するならば、こうだろうか? 

『俺の盾は攻撃力がない。お前らのせいで仲間もできない。そんな状況に追い込んで置いて、奴隷すらも使うなだと? そもそも、この国は奴隷を認めている。仮にラフタリアが女じゃなかったらお前は声もあげなかっただろう?!』

 うーん、やはり今の俺では決闘する流れを変えることは不可能か。

 

「許されない? お前の中ではそうなんだろうよ。お前の中ではな!」

 

 相手が元康のせいか、完全に怒りに飲まれている尚文。

 側から見ればわかるが、完全に目が濁っている。

 それでも消えない優しさがあると言うことは、やはりやり直しの通り、元は優しい性格なんだろうな。

 

「生憎ここは異世界だ。奴隷だって存在する。俺が使って何が悪い」

「き……さま!」

 

 ギリッと元康は矛を構えて尚文に向ける。

 

「勝負だ! 俺が勝ったらラフタリアちゃんを解放させろ!」

「なんで勝負なんてしなきゃいけないんだ。俺が勝ったらどうするんだ?」

「そんときはラフタリアちゃんを好きにするがいい! 今までのように」

「話にならないな」

 

 交渉下手かな? 

 元あった状態から帰るなら、負けたらその代価を支払うべきだろう。

 今の元康に払える代価は金銭かな? 

 

「モトヤス殿の話は聞かせてもらった」

 

 尚文が去ろうとすると、クズの声が聞こえて、人垣が割れる。

 

「勇者ともあろう者が奴隷を使っているとは……噂でしか聞いていなかったが、モトヤス殿が不服と言うのならワシが命ずる。決闘せよ!」

「知るか。さっさと波の報酬を寄越せ。そうすればこんな場所、俺の方から出てってやるよ!」

 

 いやー、ほんとクズですわ。

 そんな事を言うならば、メルロマルクから亜人奴隷を一掃しろよと。

 クズはどうせ許可・推奨している側だろうに。

 

 クズは溜息をすると指を鳴らす。

 周囲で待機していた兵士達がやってきて尚文を取り囲んだ。

 見ればラフタリアが兵士達に保護されている。

 

「ナオフミ様!」

「……何の真似だ?」

 

 尚文は憎悪に濁った瞳でクズを睨みつける。

 

「この国でワシの言う事は絶対! 従わねば無理矢理にでも盾の勇者の奴隷を没収するまでだ」

「……チッ!」

 

 女王様に聞かせたい言葉だな。

 万が一メルロマルク女王様に謁見する機会があれば、聞かせたいものだ。

 

「勝負なんてする必要ありません! 私は──ふむぅ!」

 

 ラフタリアが騒がないように口に布を巻かれて黙らされる。

 

「本人が主の肩を持たないと苦しむよう呪いを掛けられている可能性がある。奴隷の言う事は黙らさせてもらおう」

「……決闘には参加させられるんだよな」

「決闘の賞品を何故参加させねばならない?」

「な! お前──」

「では城の庭で決闘を開催する!」

 

 ちなみに、城の庭と言っても、あそこは決闘場だ。

 訓練で立ち行って、あそこで訓練してたしな。




宗介くん野次馬根性丸出しの回


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