波の尖兵の意趣返し   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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知らなければならない現実

「何が勝ちだ、卑怯者!」

 

 尚文は憤怒の形相で立ち上がり、元康を問い詰める。

 

「何の事を言ってやがる。お前が俺の力を抑えきれずに立ち上がらせたのが敗因だろ!」

 

 うっわ、流石にそのポジティブ解釈は引くわ。

 外から見てもヴィッチが魔法を使ったことは明らかだし、手をかざしてたしね。

 錬の顔を観ると、訝しむ顔をしている。

 

「お前の仲間が決闘に水を差したんだよ! だから俺はよろめいたんだ!」

「ハッ! 嘘吐きが負け犬の遠吠えか?」

「ちげえよ! 卑怯者!」

 

 虚しい茶番劇が繰り広げられる。

 

「ソースケ」

「ん?」

 

 錬の方から話しかけてきた。

 

「お前は気づいたか?」

「あの女の使った魔法にか?」

「ああ、お前が気づいたのなら間違いないな」

 

 錬は納得したようにうなづくと、樹の隣に戻り話し始める。

 

「そうなのか?」

 

 観衆に元康は目を向ける。

 だけどそっちの観衆は教皇や貴族が座っている側だ。当然ながら沈黙が支配する。

 

「罪人の勇者の言葉など信じる必要は無い。槍の勇者よ! そなたの勝利だ!」

 

 クズがそう宣言する。俺がここで楯突いても問題ないだろうが……。どっちみち錬や樹が動きそうな雰囲気を出している。

 聞き耳をたてると、

 

「なるほど、それは懲らしめなければなりませんね」

 

 と言う気の抜けるような樹の言葉が聞こえてきた。

 

「さすがですわ、モトヤス様!」

 

 事の元凶であるヴィッチが白々しく元康に駆け寄る。そして城の魔法使いが元康だけに回復魔法を施し、怪我を治す。

 尚文の周囲には誰もいなかった。

 

「ふむ、さすがは我が娘、マルティの選んだ勇者だ」

 

 と、クズは赤豚ヴィッチの肩に手を乗せる。

 その事実に驚愕の表情を浮かべる尚文。

 

「いやぁ……俺もあの時は驚いたよ。マインが王女様だなんて、偽名を使って潜り込んでたんだな」

「はい……世界平和の為に立候補したんですよ♪」

 

 嘘くさい言葉を並べるなこのヴィッチは。

 あ、尚文の盾から黒いモヤが溢れ始めたぞ。

 

「さあ、モトヤス殿、盾の勇者が使役していた奴隷が待っていますぞ」

 

 クズがそう言うと、人垣が割れ、ラフタリアが国の魔法使いによって奴隷の呪いを、尚文に見せつけるように、今まさに解かれようとしていた。

 魔法使いが持ってきた杯から液体が零れ、ラフタリアの胸に刻まれている奴隷紋に染み込む。

 ふと、視線を移すと、錬達二人はすでに席を外していた。

 

「ラフタリアちゃん!」

 

 元康がラフタリアの方へ駆け寄る。

 口に巻かれた布を外されたラフタリアが近付いてくる元康に向けて言葉を、涙を流しながら元康の頬を叩いた。

 パンッと結構強い力でビンタしたのか音が鳴り響く。

 

「この……卑怯者!」

「……え?」

 

 叩かれた元康が呆気に取られたような顔をする。

 

「卑怯な手を使う事も許せませんが、私が何時、助けてくださいなんて頼みましたか!?」

「で、でもラフタリアちゃんはアイツに酷使されていたんだろ?」

「ナオフミ様は何時だって私に出来ない事はさせませんでした! 私自身が怯えて、嫌がった時だけ戦うように呪いを使っただけです!」

 

 ラフタリアの涙の訴えに、困惑の表情を浮かべる元康。

 おいおい、現実を見ろよ。

 冒険者側はすっかり白けてしまったのか、俺以外すでに席を外し始めていた。

 

「それがダメなんだろ!」

「ナオフミ様は魔物を倒すことができないんです。なら誰かが倒すしかないじゃないですか!」

「君がする必要が無い! アイツにボロボロになるまで使われるぞ!」

「ナオフミ様は今まで一度だって私を魔物の攻撃で怪我を負わせた事はありません! 疲れたら休ませてくれます!」

「い、いや……アイツはそんな思いやりのあるような奴じゃ……」

「……アナタは小汚い、病を患ったボロボロの奴隷に手を差し伸べたりしますか?」

「え?」

「ナオフミ様は私の為に様々な事をしてくださいました。食べたいと思った物を食べさしてくださいました。咳で苦しむ私に身を切る思いで貴重な薬を分け与えてくださいました。アナタにそれができますか?」

「で、できる!」

「なら、アナタの隣に私ではない奴隷がいるはずです!」

「!?」

 

 ラフタリアは黒いモヤを掻き分けて、尚文の元へと駆けつける。

 

「く、来るな!」

 

 うずくまる尚文の声は大きかった。

 

「噂を聞きました……ナオフミ様が仲間に無理やり関係を迫った、最低な勇者だという話を」

「あ、ああ。そいつは性犯罪者だ! 君だって性奴隷にされていたんだから分かるだろう」

「なんでそうなるんですか! ナオフミ様は一度だって私に迫った事なんて無いんですからね!」

 

 えー……、まだ言っているのか。

 そろそろ現実を直視した方がいいんじゃないの? 

 元康は頭がいいんだろう? 

 俺は呆れながら、肩肘をついてその様子を見ていた。

 気分は傍観者ちゃんだな! 

 

「は、放せ!」

「ナオフミ様……私はどうしたら、アナタに信頼して頂けるのですか?」

「手を放せ! 俺はやってない!」

 

 ラフタリアは尚文の言葉を無視して、ぎゅっと抱きしめる。

 

「どうか怒りを静めてくださいナオフミ様。どうか、アナタに信じていただく為に耳をお貸しください」

「……え?」

「逆らえない奴隷しか信じられませんか? ならこれから私達が出会ったあの場所に行って呪いを掛けてください」

「う、嘘だ。そう言ってまた騙すつもりなんだ!」

 

 やっぱり、自殺防止機構が働いているらしい。

 ここまでくると自殺したくなるよな。

 国中が自分をいじめているのだ。

 

「私は何があろうとも、ナオフミ様を信じております」

「黙れ! また、お前達は俺に罪を着せるつもりなんだ!」

「……私は、ナオフミ様が噂のように誰かに関係を強要したとは思っていません。アナタはそんな事をするような人ではありません」

 

 黒いモヤの流出が止まった。

 ドライアイスみたいな感じで広がっていたので、ちゃんと二人の様子は見える。

 

「世界中の全てがナオフミ様がやったと責め立てようとも、私は違うと……何度だって、ナオフミ様はそんな事をやっていないと言います」

 

 ラフタリアの必死の呼びかけに、顔を上げる尚文。

 ここからではよく見えないが、あの濁った目は幾分か軽減したことだろう。

 

「ナオフミ様、これから私に呪いを掛けてもらいに行きましょう」

「だ、だれ?」

「え? 何を言っているんですか。私ですよ、ラフタリアです」

「いやいやいや、ラフタリアは幼い子供だろ?」

 

 ああ、やっぱり認識障害だったんだな。

 尚文の言葉で実感する。

 申し訳ないと言う気持ちと、どうでもいいと言う気持ちが半々ではあるけれどな。

 

「まったく、ナオフミ様は相変わらず私を子供扱いするんですね」

 

 困った表情をするラフタリア。

 うーむ、やっぱり美人だなぁ。

 レイファは天使だが、ラフタリアは別の方向で美人である。

 

「ナオフミ様、この際だから言いますね」

「何?」

「亜人はですね。幼い時にLvをあげると比例して肉体が最も効率の良いように急成長するんです」

「へ?」

「亜人は人間じゃない。魔物と同じだと断罪される理由がここにあるんですよ。確かに私は……その、精神的にはまだ子供ですけれど、体は殆ど大人になってしまいました」

 

 そしてラフタリアは尚文をぎゅっと抱きしめて告げる。

 

「どうか、信じてください。私は、ナオフミ様が何も罪を犯していないと確信しています。貴重な薬を分け与え、私の命を救い、生きる術と戦い方を教えてくださった偉大なる盾の勇者様……私はアナタの剣、例えどんな苦行の道であろうとも付き従います」

 

 いや、うん。このシーンを直接見ると、感動するなぁ! 

 

「どうか、信じられないのなら私を奴隷にでも何でもしてください。しがみ付いてだって絶対に付いていきますから」

「くっ……う……うう……」

 

 尚文は我慢しようとしたのだろう。だが、溢れ出る感情はそれを許さなかったようだ。

 

「ううう……うううううううううう」

 

 と、ここでようやく我らが勇者様の登場だ。

 

「さっきの決闘……元康、お前の反則負けだ」

「はぁ!?」

 

 錬と樹が人混みの間から現れて告げる。

 

「上からはっきり見えていたぞ、お前の仲間が尚文に向けて風の魔法を撃つ所が」

「いや、だって……みんなが違うって」

「王様に黙らされているんですよ。目を見てわかりませんか?」

「……そうなのか?」

 

 元康が観衆(貴族側)に視線を向けるとみんな顔を逸らす。

 

「でもコイツは魔物を俺に」

「攻撃力が無いんだ。それくらいは認めてやれよ」

 

 今更、正義面で錬は元康を糾弾する。

 

「だけど……コイツ! 俺の顔と股間を集中狙いして──」

「勝てる見込みの無い戦いを要求したのですから、最大限の嫌がらせだったのでしょう。それくらいは許してあげましょうよ」

 

 樹の提案に元康は不愉快ながらも、諦めたかのように肩の力を解く。

 

「今回の戦いはどうやらお前に非があるみたいだからな、諦めろ」

「チッ……後味が悪いな。ラフタリアちゃんが洗脳されている疑惑もあるんだぞ」

「あれを見て、まだそれを言えるなんて凄いですよ」

「そうだな」

 

 まだ納得していない表情の元康を、錬と樹が連行していく。

 貴族達も釣られて城に戻っていく。

 

「……ちぇっ! おもしろくなーい」

「ふむ……非常に遺憾な結果だな」

 

 クズとヴィッチも立ち去ったので、俺も立ち去ることにしよう。

 

「つらかったんですね。私は全然知りませんでした。これからは私にもそのつらさを分けてください」

 

 ラフタリアの優しい声が、俺の良心を傷つける。

 波の尖兵としてこの世界に来ていなければ、俺はきっと助けただろう。その結果が無残に殺されるとしてもだ。

 だが、それはできない。

 勇者に信頼されるのは問題ないが、勇者を仲違いさせるのがきっと俺の役目なのだろう。

 俺は唇を噛みながら、決闘場となった庭を後にした。




ほとんど本編なぞっているだけと言うね。


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