波の尖兵の意趣返し   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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夢はまだ覚めず、現実は遠く

 俺は兵士に部屋に案内された。

 もちろん、剣の勇者の仲間用にあてがわれた部屋だ。

 

「ふん、忌々しい盾め!」

 

 扉をあけて早々、憤慨している阿呆がいる。

 

「あ、ソースケさん」

「遅かったですね、何をしていたんですか?」

「ま、茶番を見終わった後だったしな。ちょっとトイレに行ってきた」

 

 ちょっとした映画を鑑賞した後の気分である。

 トイレで思いっきり泣いてきただけであるが。

 

「茶番って……」

 

 ファーリーさんが苦笑いする。

 

「茶番だろう。錬サマだって、こんなくだらないことに時間を使わせやがってって思ってるさ」

「まあ、確かにレン様ならそうかもだけどね……」

「ソースケさん、ここはメルロマルク城内ですよ!」

 

 ファーリーさんとテルシアさんが注意してくるが知ったことではない。

 俺はこれでも結構強い。傲慢かもしれないが、対人戦だと補正が効くので滅法強くなる。今のステータスと合気道と槍術を組み合わせた技なら対人相手ならでも余裕だという自信がある。

 まあ、しないがな。

 

「知らんな。だが、この城の阿呆共は現実をそろそろ知るべきだ。勇者がいてくれるおかげで、波を楽勝で超えられただけだという現実をな」

 

 今でも、俺はあの次元ノケルベロスが恐ろしくてたまらないのだ。

 あの、死と隣り合わせの感覚は、二度と味わいたくない。

 

「「……」」

 

 俺の実感のこもった言葉に、二人は言葉がなかったようだ。

 

「フン、波を勇者なしで乗り越えたからと言って偉そうにしおって!」

 

 燻製はそのままでいいよー。

 ミナは押し付けてやるから。

 

「ソースケくんの言っていることもわかる。だけど、これは世界の危機なんだ。私たちがしっかりして、レン様を……勇者様を支えればいい」

「そうですね」

「そうね」

 

 まあ、一番まともなこいつらに言っても仕方ないだろう。

 本当にしっかりして欲しいのは錬の方である。

 なんだかんだでちゃんと客観視出来ている錬が、一番の有望株なんだよ。まだゲーム世界だと思っているようだけどな。

 

 ……本当は、ウェルト、テルシア、ファーリーには死んでほしくはない。

 だが、俺はそれに関しては何も出来ないし、霊亀復活時点では俺は剣の勇者様のパーティメンバーではないのだ。

 未来の事を告げたとしても、それがきっかけで破裂して死ぬわけにもいかないし、そもそも信じてもらえる確証がない。やり直しでも元康が尚文に信じてもらえるように色々試行錯誤しているしな。

 俺がすべきことは何だろうか? 

 あのメガヴィッチに与えられた使命ではなく、俺が召喚された意味だ。

 この世界の歴史を改変することは許されない。それはおそらく、尚文に明確に認識されるのもアウトだろう。波の尖兵として殺されるからな。

 じゃあ、波の尖兵として動けばいいのか? 

 それをすると、おそらくタクトに殺されるだろう。

 

 死にたくない! 生きて、元の世界に戻るんだ! 

 

 俺の思いは、現状それだけだ。

 この一度きりしかない、どうあがいてもソルな状況から、どうにか脱出するのだ! 

 

 俺がそんな事を考えていると、部屋に錬が入ってきた。

 

「レン様。どうなさいましたか?」

「ああ、明日からの方針を話す」

 

 錬の中では次の行動は決まっていたらしい。

 

「この時期から、ドラゴン討伐のクエストが発生する。場所はミルソ村だ」

「おお! 我輩の出身の村ではないか!」

 

 燻製は確か、ミルソ村出身だったはずである。

 

「そうか。だが、すぐには討伐はしない。各地で発生するクエストを順にこなしていき、レベル60を目指す」

「ドラゴンの適正レベルは?」

「レベル63だ。だがまあ、今のお前たちならば、俺とともに戦えば苦戦することはないだろう。レベルさえ伴っていればな」

 

 錬は錬なりに仲間を信頼しはじめているらしかった。

 

「明日、報奨金を貰ったら、すぐに出発するぞ。ソースケは明日、武器屋から槍を購入するんだったな。それを待って出発することにしよう」

「わかりました、レン様」

 

 錬の提案に、ウェルトは応える。

 おそらく錬に対する忠誠度が一番高いのがウェルトだ。

 先の波での闘いぶりを見て、もう一段階忠誠度が上がった気がする。

 

「では、くだらない茶番があったが、ゆっくり休め。勇者は個室が与えられているから、俺はそちらに行く」

「わかりました!」

 

 そう言い残し、錬は部屋を出て行った。

 まだ、錬の目を見ると、ゲームの世界だと思っていることは伝わってくる。さながら俺たちはNPCなのだろう。

 あの、次元のキメラの周囲に転がっていた冒険者たちの無残な死体は、錬の目に留まることは無かったらしい。

 

 勇者たちが、夢から覚めるには、絶望を乗り越えるしかないようだ。

 全員思い込みが激しい性格をしているから、余計にそうなのだろう。

 

 錬の保身

 樹の独善

 元康の妄信

 

 勇者の認識をゲームの世界だと認識させるステータスの存在や、ゲーム通りのイベントの発生、そしてモンスターの配置。

 それらが全て、三人の勇者として未熟な点を補強しているような気がしていた。




一巻のエピローグに該当する話です。
二巻冒頭までは本編の流れをなぞりますが、道中は錬の描写は無いので、自由に書かせてもらいますね!
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