波の尖兵の意趣返し   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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噂の策略

 俺が短剣を押し付けると悲鳴は上げるが、訳を話そうとしないので、プスっと剣先を刺す。

 

「早く答えろ」

 

 俺が脅すようにねっとりと言うと、

 

「や、やめてくれええええ! 話す! 話すから!」

 

 と言ったので、俺は顎で促した。

 

「その、噂が流れてるんだ。剣の勇者様の仲間の一人、4つの武器を持った冒険者は、実は亜人で隙を突いて剣の勇者様を殺そうとしていると……」

「はぁ?」

「盾の悪魔に与するのを悟らせないために、わざと剣、弓、槍を使っていると言う噂だ」

 

 俺はため息をついて、兜を脱ぐ。

 それを見て当然ながら驚く。

 この世界の亜人はほぼ全てが耳に特徴が出る。ラフタリアなんかを見れば明らかだろう。

 

「あ、あんた、勇者の末裔だったのか……」

「そうだよ。知られると色々面倒だと思ったんでね。隠してたんだよ」

 

 俺は、短剣を引っ込めて鞘に収める。

 もう襲ってくることはないだろうとの判断だ。

 

「だけどあんたはすでに三勇教から目をつけられてる」

「メルロマルクの人間が何で盾教を信じるんだよ」

「噂だが、あんたは盾の悪魔に同情的な目線を送っていたらしいじゃないか!」

「そりゃまあ、盾を装備しているとは言え、似たような見た目だ。黒髪に黒い瞳。俺と似た特徴のやつが国を挙げて虐められていたら、同情ぐらいするだろう」

 

 さて、どうするかな? 

 このタイミングで錬と別れるのはあまり得策ではないだろう。

 まあ、今更行っても今回の錬の依頼には間に合わないだろう。

 村に入ることもできないだろうしな……。

 フィーロが育ちきるまで、およそあと3日。元康レースまで、4日と言ったところだ。

 そこから行商を得て信用を得るまで、およそ2週間か? 

 神鳥の成人様が出現するまでは、これでは俺はろくに活動できないだろう。

 

「も、戻っていいか……?」

「あんた、薄情だな。寝てるやつは放置か?」

「ひ、一人でこの人数は運べないだろ!」

「次襲ってきたら、この槍の餌食だ。それで良いなら戻って良いぞ」

「ひ、ひいい」

 

 村人はダッシュで村に戻る。

 うーん、他の気絶してるやつとかどうしようかな? 

 とりあえず、蹴り起こすか。

 勿体無いが回復薬を一本軽く撒き散らし、軽く蹴り起こす。

 俺の黒髪と人間の耳を見て、気絶から回復した村人達は許しをこう。

 

「いい! 人間?! す、すまなかった! てっきり亜人だと」

「さっき聞いた。はぁ、なんだってんだ……」

 

 こりゃもう、俺は被り物をして外を出歩けないな……。

 ただまあ、そう言う噂が立っているのなら、メルロマルク内の人里を歩く事は出来なさそうである。

 僅か3日だが、ここまで噂が広がるのだ。

 そして、今回は実力行使も伴ってきた。

 人の噂も75日というが、宗教が関わっている場合はどうなんだろうな? 

 名指しで異端審問を受けた訳じゃないから、【冒険者ソースケ】として活動するのは問題ないだろう。要するに、【剣の勇者様の仲間のふりをした武器を4つ持つ男】がNG設定された訳である。

 正直、上手い手だと思ったね。

 噂は所詮噂。それを元に誰が実力行使をしたところで、張本人には責任が及ばない。三勇教が広めたにしても、噂を元に注意喚起を促したと言えば、引かざるを得ない。

 

「冒険者さんはどうなさるのです?」

 

 俺が考えにふけっていると、村人の一人が俺に尋ねて来た。

 

「あんたはどうしたらいいと思う?」

「僭越ながら申し上げると、冒険者さんはもう、剣の勇者様に付きまとわない方がいいかと……」

「抜けるにしてもこのままってわけにもいかないだろう? なんで俺がパーティからハブられた系の主人公やらなくちゃいけない訳」

 

 俺が元の日本にいた頃に流行っていたジャンルとして、なろう系で勇者パーティからハブられて成り上がる系のやつがある。

 能力が雑魚とか、理由は様々だけれど、勇者パーティから追放された主人公が成り上がる的な物語である。

 今まさに、俺の状態と一致するだろう。

 ここで錬のパーティから抜けなくても、いずれ燻製から糾弾されてパーティを抜けることになるのは明白である。

 

「ま、とりあえずは錬サマ達が戻ってくるのを待つしかないか……。おいお前、俺は今日はあの辺りに居るから、錬サマが戻ってきたら俺に知らせに来い」

「ははは、はい! わかりました!」

 

 俺を襲ったのだ。少し強めに脅しておく。

 

 それから暫くは魔物を狩ってレベル上げをしておいた。

 人間無骨はなかなか優秀で、一瞬で敵を解体できるが、万が一のために俺は短剣での攻撃にも慣れておくことにする。

 軍のナイフの使い方は、ミリオタの友達から見せてもらった扱い方の動画を思い出して戦う。

 今装備している短剣は魔法鉄の短剣(カスタム)である。イメージはアサルトナイフなのだが、刃渡り自体は短剣と言うべき長さになっている。

 この辺りの少し強めの魔物を討伐するのだが、小型の魔物ならば魔法鉄の短剣で始末してしまえる。

 

「はっはっはっせいっ!」

 

 ヒュンヒュンと風を切る音を立てながら、ウサピルを始末する。

 通常のウサピルよりは強い個体だ。

 経験値も、120とそれなりに高めだ。

 しかしまあ、俺は対人ばかり強くなっている気がするな。

 そんな事を考えながら、俺は夜まで短剣の特訓をしつつ、レベル上げをしていた。




ヴィッチの腕の見せ所って感じですね。
ソースケくんは現在村レベルの中規模な集落までの入場が制限された状態になりました。

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