波の尖兵の意趣返し   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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神鳥の馬車

 俺は、移動を開始した。

 何処に降ろされたのかが依然不明だったからだ。

 聞いておけばよかったかな。

 まあ、鳥にそこまで期待するのは酷だろう。

 

 なんとか森の中から街道まで出ると、遠くから馬車を引く音が聞こえてきた。

 行商かな。

 路銀はそれなりにあるし、ポーチの中の回復薬も心許なかった。

 

「すみませーん!」

 

 と言ったところで、俺ははたと気づいた。

 あのまんまるとしたフォルム、白い羽の中に混じったピンクの羽。そして、青い目。とてもではないがフィロリアルとは思えない姿。

 あれはフィーロたんじゃねーか! 

 

「はい、どうされました?」

 

 俺の目の前で、馬車が止まる。

 

「あー……。行商の方ですよね?」

 

 サッと、この馬車の持ち主が俺をチラッと見たことがわかる。

 

「チッ」

 

 舌打ちが聞こえたと言うことは、見覚えがあると言うことだろう。

 そして、馬車から尚文が姿を現した。

 

「お前は、錬の仲間だな」

「あー、まあ、元な」

「……? どう言うことだ? それに、驚かないんだな。盾の勇者が現れたと言うのに」

 

 ジロリと俺を見る。そして、俺の顔に目が止まった。

 

「お前……日本人か?」

 

 やっぱり聞いてくるか。

 ん? 今度は頭にピリッとくるものは無かったぞ。

 まあ良い、とりあえず誤魔化すか。

 

「俺はそうだな……勇者様の末裔と言うやつらしい」

「ごしゅじんさまーその人嘘を言ってるよー」

 

 ギロリと俺を睨む尚文。さすがフィーロたんである。

 

「あー、事情があるんだ。そう言うことにしておいてほしい」

「……ふん、良いだろう。次に聞きたいことがある……が!」

 

 尚文がブックシールドをキメラヴァイパーシールドに切り替えて、俺の後ろに駆け出す。

 ガンっと音がして、振り向くと兵士がいた。巡回の兵士だろうか? 

 恐らく、尚文を追っていた三勇教の影が俺を発見、近くで見回りをしていた兵士が来たのだろう。

 

「厄介ごとを抱えているみたいだな!」

「貴様、盾の勇者! 犯罪者を庇うか!」

 

 カシャカシャと音を立てて増援の兵士がやってくる。

 

「犯罪者……? どう言うことだ?」

「いや、わからんが心当たりはあるな」

 

 俺は槍を構え、短剣を抜く。ラフタリアも剣を手に馬車から飛び出す。

 

「ナオフミ様!」

 

 ラフタリアが攻撃しようとしたので、俺は手で制した。

 

「盾の勇者様、すまないがこれは俺の問題だ。俺一人で解決するさ」

「そうか、やってみろ」

 

 尚文はそう言うと、盾で剣をはじき返して後ろに下がる。

 

「と言うわけで、こいよスカタン! 八つ裂きにしてやる!」

「殺せ! 殺せー!」

 

 実際殺したら面倒だからな。

 すでにこの手で5人は殺したが、無駄な殺生はしない。

 優先度は俺が高いためか、尚文達は後ろで観戦する様子だ。

 

「ナオフミ様……」

「あいつの言い出したことだ。やばかったら助けるから心配するな」

 

 そんなやりとりを横目で見つつ、俺と兵士の乱戦が始まる。

 剣を受け止めるわけではないので、ガンと言う音ではなく、ギャリっと音がなる。

 兵士数人の剣を槍で受け流す。

 体勢が崩れた連中の尻を石突きで思いっきりぶっ叩く。

 

「あいたぁ!」

 

 剣も槍も、俺にとっては手の延長に過ぎない。

 兵士程度ならば、よほど熟練じゃない限り、受け流し、武器を奪うことすら容易かった。

 剣で受け止めて、俺は力を流して小手返しを決め、武器を奪い取り、地面に突き刺す。

 

「す、すごい……!」

「何かの武術か? 剣と槍を使う気にくわないやつだが、元康の奴とも戦い方が違うな」

 

 まあ、俺は対人能力が高いしな! 

 気づけば俺の周囲は剣の塚ができたいた。

 武器を全て奪い取り、地面に突き刺していただけである。

 

「まだやるか?」

「覚えてろよ!」

 

 俺がそう聞くと、悔しげな表情をして兵士達は逃亡した。

 

「息すら切らしてないか」

「まあな」

 

 尚文は俺が戦っていた場所をマジマジと見ている。

 そして、剣を回収しながら戻ってきた。

 ラフタリアと少し話をして、俺に話しかけた。

 

「おい、話を聞かせろ。代わりに希望する場所に送ってやる」

「運賃は?」

「情報料と等価だ。足りないなら請求するし、多過ぎたら払おう」

「それじゃあ、アールシュタッド領城下町まで頼む」

「……近いし良いだろう。それじゃあ乗れ。ラフタリア、剣は売っぱらうから回収しろ」

「はい、わかりました」

 

 と、なぜか俺は尚文一行に同行することになってしまった。

 

「で、なぜお前はここに居るんだ?」

「その前に、ナオフミ様に自己紹介をしてください。変なあだ名をつけられますよ!」

 

 ラフタリアがそう指摘する。とは言っても、俺は尚文に覚えてもらうつもりは無いので構わない。

 

「……じゃあ、錬の仲間その4で」

「長く無いか? まあ、そう命名してはいたが」

 

 あ、やっぱり? 

 

「あとはそうだな、弁慶だな。いろんな武器使うみたいだし」

「弁慶よりも長尾景虎の方がいいかなー」

「なんであだ名談義になっているんです!」

「てか、この歴史の話題が通じると言うことは、やはりお前は日本人なんだな」

 

 尚文は納得したようにそう言う。

 

「で、景虎。なぜ『元仲間』と言った? さっきの兵士もお前を犯罪者だと言っていたが、理由を話せ」

 

 結局、俺が言い出した景虎に落ち着いたらしい。自己紹介をする気がないからね、仕方ないね。

 

「そうだな……。錬と俺たちは東の村を目指していた」

「東? 西ではなく?」

「ああ、そうだ」

「ここはメルロマルクから西側だぞ? とてもでは無いが徒歩でたどり着ける距離じゃ無いな」

「まあ、俺はの事は置いておいて、錬達が東の村にいるのは事実だ」

「……色々と突っ込みたいところはあるが、後ほど聞くとしよう」

 

 話が通じるようで助かる。若干胡散臭いものを見るような目つきになったがな。

 

「で、その道中の村で、俺は罠にはめられて錬の仲間を強制離脱する事になったんだ。だから、元仲間な訳だな」

 

 途端に尚文の表情が陰る。

 

「……チッ、またか。この国の連中は……!」

 

 と呟いた。

 

「まあ、俺が邪魔だったんだろうな。錬の所で一番動いていた自覚はある。お陰で罠にはめられて、逃亡の最中に5人ぐらい殺してしまって、犯罪者と言うわけだな!」

 

 明るく言うと、尚文とラフタリアはドン引きする。

 正直、あの状況では殺さなければこっちが摩耗して殺されるだけだったからな。

 クソ野郎共を殺した所で、魔物を殺すのと大差はない。世間的ダメージが大きいだけである。

 

「……確かに、景虎ほどの実力者ならば可能だろうな。さっきの戦いも、お前なら殺そうと思えば出来ただろう?」

「ああ、出来なくはないかな。殺したらタイミング的に盾の勇者様に迷惑をかけるから、殺さなかったまでだしな」

 

 サイコパスを見るような目で俺を見る尚文達。

 まあ、できるかと問われたのだから答えたまでである。

 

「まあいい、とりあえず錬の状況を教えろ」

「構わないぞ」

 

 という感じで、俺は運送料がわりに錬の情報を尚文に伝えるのだった。




干渉しそうで干渉しない話。
顔見知りにはなるけれど、後になって思い出すかは謎。

いよいよアールシュタッド領、どうやって攻略する?

  • 宗介単身で乗り込む
  • 宗介単身で忍び込む
  • 尚文と協力する
  • 尚文から協力を申し入れられる
  • 皆殺しする

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