しかし、フィロリアルの馬車に乗るのは久しぶりである。
ラヴァイトよりも若干、馬車の揺れが激しい気がするな。
そんな事を考えながら、俺は錬の情報を売った。
さすがに、燻製やミナ、三勇教の名前は出さなかったがな。
その情報を売るには、アールシュタッド領までの道のりは安すぎる。
「……なるほどな、ウェソン村か。俺たちもその村には絶対に近づかないようにしよう」
「そうですね……。決して近づかないようにします」
小声で尚文が「滅んでしまえ」と呟く。
俺は別に恨んではいない。まあ、好き好んで近付くことはないがな。
「しかし、その話を聞くと、錬が受けた依頼自体が罠だったとしか思えないな。錬の仲間はお前が活躍するのを妬んだんだろう? その中にあのビッチ王女のような奴が居て、錬に取り入る邪魔になるから、権力を使ってレッサーオロチって魔物の討伐を依頼したのだろう。お前なしでこのレッサーオロチを討伐できれば、景虎は不要だと言えるからな。錬をある程度信用させつつ追い出すことができる」
尚文が推測を話す。
「だが、愉快なことにレッサーオロチは強すぎた。だから、計画第2弾を発動させて、村の連中と協力して景虎を消そうとしたんだ!」
「ナオフミ様……」
尚文は語気を荒げる。
かなりの怒りが籠っているのがわかる。
「景虎、復讐するなら俺はお前に手を貸すぞ!」
「それは嬉しい提案だ」
普通に嬉しい。だけれども、どっちみち燻製は燻製される定めなのだ。
それに、三勇教も尚文の活躍で壊滅する。
残ったミナにお仕置きするのは俺の役目だ。
だから、俺はこう言うしかない。
「だけれど、これは俺の復讐だ。俺自身で決着をつけるさ。そのためにアールシュタッド領に向かっているわけだしな」
「……? 恨む奴は東の村に居るんだろう?」
「アールシュタッド領には、俺がこの世界に居る意味と、片棒を担いだ奴がいる」
「!」
「まずはそいつから片付けようと考えている」
「なるほどな」
尚文は少し考えて、こう言った。
「……景虎、お前は確かに強い。だが、勇者である俺が協力した方が確実だろう。だから、お前の戦いに協力させてくれ」
「……」
ここまで言われて、拒む理由は無いだろう。
原作で描写されなかった期間だし、その時のサブストーリーの一つだと思えばいいか。
「わかった。お願いする」
ただまあ、もしかしたら波の尖兵もいるかも知れない。
その時は、俺はそいつをこの人間無骨で殺害するだろう。その為の人間無骨である。
ラフタリアには見せられない光景が展開するので、その場合は俺一人で対峙することになるだろう。
「ああ、お前が恨みを果たせるように援護する」
「……わかりました。ナオフミ様がそうおっしゃるなら、私も付き従います。カゲトラさん、よろしくお願いしますね」
「フィーロも行くー♪ よろしくねー、うーんと、いろんな武器の人ー」
と言うわけで、尚文からパーティメンバー申請が来たので、承諾する。
個人的にはまさか協力すると言われるとは思わなかった。
俺だって、尚文が罠にハマるのを見過ごしてたのにな。
と言うわけで、俺たちは夕方ごろにアールシュタッド領に入る。
「今日はここで野営だな」
尚文はそう言うと、テキパキと野営の準備を始める。
俺も手伝うが、こう言う馬車を伴った旅の野営の準備は楽でいいな。
俺は焚き火で火を起こす。
「ファスト・サンダー」
バチッと音を立てて、焚き火に火がつく。
「やっぱり、攻撃魔法は便利だな。俺は盾のせいで残念ながら使えないから、羨ましいな」
おそらく、盾のせいではなく、尚文の資質自体が回復と援護なのだろう。
俺は雷と援護なので、尚文からしてみれば確かに羨ましいのもわかる。
「その点は同情するよ」
「ま、ただ俺は魔力ってのがわからないから魔法はまだ使えないんだがな」
そう言えばそうであった。まだ、アクセサリーの作成をしている様子はなかったのでアクセサリー商とはまだ出会っていない時期なのだろう。
「その内出来るようになるさ」
俺はそう言いつつ、火を起こした。
火種は燃え上がり、焚き火になった。
「コツとか無いのか?」
「そうだな、非常に感覚的で説明しにくいし、説明したところで人それぞれなところがあるから、俺では力になれないだろう。すまないな」
「……ラフタリアと似たようなことを言うんだな」
「似たようなアドバイスしか出来なくて申し訳ないな」
「いや、それなら自分で探すさ」
尚文はそう言うと、焚き火に串を刺していく。
その手つきは明らかに熟練の料理人のそれだ。
「わーい」
ボフンと音がして、金髪幼女が出現する。
改めて見ると驚くな。
「ごしゅじんさまのごはんー」
「フィーロ!」
「えー、どうせいろんな武器の人はわかってそうだから良いでしょー」
「……確かに、あまり驚いてない様子だな。武器屋の親父でも唖然としていたのに」
フィーロの変身自体は知っている。
そんなに驚いてなかっただろうか?
「ま、召喚される時にある程度知識を得たんだよ」
「お前、聖杯戦争で召喚されるサーヴァントじゃ無いんだから……」
呆れる尚文。
「セイハイセンソウ……ですか?」
「ああ、俺の世界にはそう言う題材の話があるんだよ。……景虎はもしかして、俺のいた世界の住人じゃ無いかと疑いたくなるな」
「は、はあ、ですが、ナオフミ様が楽しそうでなによりです」
ラフタリアはそう言って微笑む。
「顔に出てたか? まあ、確かに景虎と話していると、昔のオタク心をくすぶられるのは確かだな」
尚文は少し考えると、串の様子を見つつ、俺に聞いてきた。
「景虎、お前の知っている有名なオンラインゲームは?」
「あー、俺は一応メルロマルク人って設定なんだが?」
「嘘こけ。今更通じるか。早く言え」
仕方ない。なんかあの薬を塗り受けられてから、制約が軽くなったみたいだし大丈夫だろう。少し話してみるか。
「……有名なFPSならバトルフィールド、MORPGならファンタシースターオンライン2だな」
「……知らないな。いや、バトルフィールドは知っているが。ファンタシースターオンラインは1がある事しか知らない。それに、お前の世界にはこの世界に似たゲームはないのか?」
「俺が知る中では無いな。似たweb小説ならあるがな」
「web小説か。……景虎も勇者として召喚されたのか?」
「さあな。ただ、俺は勇者では無いぞ」
「その禍々しい見た目の槍は、そう言う系統かと思ったんだがな」
あー、やはり、人間無骨は禍々しいか。
「と言うか、まるで人間を殺すための槍だな。防御無視なんて恐ろしいスキルまで内包してやがる……」
「これを盾の勇者様に向けることはないさ。俺が殺すと決めた奴以外にこの槍は向けるはずかない」
「そうか。まあ、お前は俺とほとんど近い世界の住人だしな。そうならないことを祈るよ」
尚文はそう言いつつ、串をひっくり返す。
「これは焼けたみたいだ。ほらよ」
尚文が俺に串を渡してくれた。
「ありがとうな」
俺は受け取り、一口食べる。
「うますぎる!!」
「スネークかよ」
と、そんな感じで今日の夜は過ぎていったのだった。