翌日、俺たちはアールシュタッド領の城下町にたどり着いた。
俺は荷台に隠れて、領内に侵入する形になった。
「……それなりに警備が厳重だな。だが、盾の勇者である俺は警戒されていないようだ。やはり景虎……いや、
「いや、普通に考えれば、この馬車も警戒されるんじゃ……」
「守衛さんに聞いた感じだと、別行動をしている可能性が高いと言っていましたよ」
ラフタリアの回答に、少しガックリする。
抜けているのか、深読みのしすぎか……。
とにかく、盾の勇者はこの時点では警戒対象では無いらしい。
「とりあえず、岩谷は俺の事を景虎と呼んでくれ」
「ああ、そのつもりだ」
偽名にはちょうど良いだろう。
「ラフタリア、街の偵察を頼む。俺とフィーロは景虎と待機だ」
「わかりました」
「はーい」
ラフタリアはローブを羽織ると、馬車から飛び出した。
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私はナオフミ様に命じられて、アールシュタッド領の城下町を偵察に出ました。
それにしても、カゲトラさんは普段は剣の勇者様と似たような雰囲気の方ですが、戦いになると人が変わったかのように荒々しくなります。
持っている槍も、禍々しい形になりつつあり、何というか、槍の勇者を見るナオフミ様に似た雰囲気になってしまいます。
話を聞く限りだと、ナオフミ様と同様にハメられて、この世界を憎んでいらっしゃるのでしょう。
普段は出しませんが、対人戦の時にその憎悪を発露させているように見えます。
おっと、いけない。
私はギルドに向かい、情報収集をします。
亜人の冒険者さん達もいるので、そこで情報収集をします。
「あの、すみません」
「あ? なんだ? ってこれはこれは盾の勇者様の……」
「聞きたいことがあるのですが、大丈夫でしょうか?」
私は情報料として預かった銀貨を5枚渡します。
「ああ、
銀貨を貰った冒険者の方は、ニッコリと微笑んでくれました。
これで情報が聞きやすくなりました。
いくら亜人の冒険者でも、盾の勇者の仲間であるだけでは肝心な情報を話してくださらない時があります。
その時は、ケチらないでお金を渡すと良いと、ナオフミ様はおっしゃっていました。
なので、私は情報を集める際は必ず、ナオフミ様から情報料を受け取っていました。
「この街ですが、少々物々しくありませんか?」
「なんでも、指名手配の犯罪者が、この領内に現れたんだそうだ。噂によると、その犯罪者はアールシュタッド領の領主を狙っているらしいぜ」
「それで、警戒されているのですね」
「ああ、なんでもそいつは剣の勇者様のパーティにいたらしく、剣の勇者様に取り入るために無謀な敵のいる住処におびき出し、仲間を消そうとしたんだそうだ。それが看破されて、剣の勇者様の怒りを買って追放されたそうだぜ」
「……そうなんですね。それは恐ろしいですね」
カゲトラさんの話からすると、真逆の噂です。
カゲトラさんは何故か犯人をぼかすような言い回しをしていましたが、確信がある話し方をされていました。
おそらく、ナオフミ様に余計な気使いをさせまいとしてだったのでしょうけれどね。
ナオフミ様はお優しいですから、こうしてカゲトラさんの復讐を手伝っています。
……本来は、私が諌めるべきなのでしょうが、私にも恨むべき方がいるので、あまり強くは言えません。
「そういえば、女性連れの冒険者を多く見かけますが、理由はわかります?」
私はふと気付いたことを聞いてみました。
ギルドに屯している冒険者の多くが女性連れ……いや、パーティメンバーが女性のみの方々ばかりです。
遠くから見ても、深夜に襲ってきた方々と似たような雰囲気を出している方々が多く見えます。
「ああ、なんでも、この街の領主様の娘であるミリティナ様が、直々に集めた腕の立つ冒険者らしいぜ。詳しいことは知らないが、何故か女性メンバーばかりなんだそうだ。英雄色を好むってヤツかねぇ?」
「は、はぁ……なるほど」
「その中でも、選りすぐりのメンバーは領主の家で警備をしているそうだぜ。中には、クラスアップをした連中もいるそうだ」
クラスアップをした……。
なるほど、確かにそれは厳しい状況でしょう。
「盾の勇者様に関して、何か知っていたりしますか?」
「あー、それについてはあまり噂は聞かないなぁ。第二の波を乗り切ってからはからっきしだ。だが、何か商売を始めたらしいと言うのは風の噂で聞いたことがあるな」
「そうですか」
悪評があまり流れていないようでホッとする。
「ま、槍の勇者様と特に仲が悪いってのは専らの噂だな。こないだはレースをして盾の勇者様が勝利を収められたとか!」
人間の方に聞くと、「盾の勇者は卑怯な手を使って槍の勇者様から勝利を奪い取った」などと言う話を聞きますが、そこが亜人の方に聞くのと大きな違いですね。
「ま、この街に滞在するならナンパには気をつけることだな。メルロマルクじゃ信じられないが、婦女暴行をやらかす連中もいるそうだ。相手が亜人なら、誰も文句は言いやしねぇからな」
「はい、ご忠告ありがとうございます」
私はお礼を言って、ギルドを後にします。
後は、物陰に身を潜めつつ、街の様子を見て回り、私はナオフミ様の元へと帰還しました。
上手くラフタリア感が出せているかな…?