「ソースケ、ソースケは魔法使えないの?」
「いや、使えないぞ」
「ふーん、それじゃあ次は文字を覚えようか」
メルロマルク語の読み書きか。確かに習得した方が良いのだろう。
実際、盾の勇者も魔法を覚える際に苦労していたしな。
「と言っても、言葉を話せるようになったソースケなら、簡単に覚えられると思うけどね」
確かに、簡単な文字程度ならば既に読めている現状である。
後は単語を覚えていけば良いだろう。
しかし、改めてレイファを見ると、ブロンズの髪に金色の瞳をした美少女である。年齢は16歳だったかな。俺の年齢が20歳だから、ちょうど良い年齢ではある。まあ、レイファとの関係は兄妹みたいな関係になっていると思う。
レイファについて説明すると、レイファはドラルさんの娘である。母親は流行病で亡くなっており、父親とこの小屋で二人で生活をしているらしい。
ドラルさんは木こりをしており、道中で魔物を刈ったりしてそれを売って生計を立てているのだそうだ。
近くにはセーアエット領があり、領主のいる町で素材の売却をしているとか。
セーアエット……。いや、わかっている。メルロマルクの過激派にとって目の上のタンコブみたいな場所だ。
まだこの周辺ぐらいしか行動範囲はないから行ったことはないが。
さて、話を戻そう。
レイファは一冊の本を持ってきた。
表紙を見れば、それが児童文学書であることがわかる。
パラパラとめくると、剣の勇者様の物語が非常にわかりやすい単語で書かれているのがわかる。
「へぇー、確かにこれは読みやすいな」
「でしょ? 私もこの剣の勇者様の本で文字を覚えたのよ」
内容としては、かつて召喚された剣の勇者が青龍と言う守護獣を倒した物語のようである。
当代の剣の勇者である天木錬もドラゴンを倒しているので、改めて剣の勇者というのはドラゴンに因縁があるのだなと思った。
そして、守護獣を倒した剣の勇者様はお姫様と末長く暮らしましたと続いている。
何というか、ドラクエを思い起こさせる王道展開だ。
イラストも児童向けのイラストだし、読みやすい。文章も綺麗に文法が整っているので、ハッキリとわかる。
「……あれ、全部読めちゃったぞ」
「これは結構簡単だもんね。この部屋の本棚に入っている本は読めるようになった方が良いよ」
「そうしたら魔道書も読めるかな?」
「うん、もちろん!」
レイファの笑みに癒される。
まさに妹といった感じだ。
異世界に来て妹が出来るとは思っても見なかったが。
「あ、あとね、ソースケは勇者様と同じ世界から来たんでしょ?」
「あ、ああ」
誰にまで言いそうになると死ぬから気をつけなければならない。
「なら、召喚される勇者様は魔力と言うのがわかんないらしいから、水晶玉で一個魔法を覚えた方が良いってお父さんが言ってた」
「そうなんだ。本当に助かるよ、ありがとう!」
「うん、魔法が使えるようになったら、もっと効率のいい仕事を任せられるってお父さん言ってた!」
「と言っても、俺は勇者の世界から来たとは言っても、勇者じゃないからなぁ……」
「流石にそこはお父さんもわかってるよ」
その日はレイファと家事をしながら本を一日中読んでいた。
翌日、ドラルさんは俺にこう切り出した。
「坊主、メルロマルク語は十分学習したようだな」
「ああ、まだちょっとわからない単語もあるけれど、会話をするのには十分だと思うぜ」
「そうか、ならばセーアエット領城下町に向かうとしよう」
この小屋は別にセーアエット領内には無く、隣のアールシュタッド領内に存在するらしい。いや、聞いたことないんだけど。
アールシュタッド領城下町よりもセーアエット領城下町の方が近いため、ドラルさんはよく素材や木材を売りに行くらしい。
「フィロリアルで3時間ほどだ」
フィロリアルは知っている。
基本的にドラルさんが世話をしているため、あまり見ることはないが、ライトグレー色のフィロリアルをドラルさんは飼っているのだ。
名前はラヴァイトと言うらしい。
確かにダチョウみたいな見た目をしており、健脚な感じがする。
「へぇー、コイツがフィロリアルなんだ」
「グアー!」
俺は思わず撫でる。
羽毛がフワフワしており、人懐っこいことがわかる。
「ほう、坊主はフィロリアルを知っているんだな」
「実際に見るのは初めてだけれどな。実際見てみると、結構可愛いんだな」
「グアー」
うーん、フィロリアルの真実がわかる22巻は全て読み終えてないんだよなぁ。
元になったのは先代の盾の勇者の婚約者だ。
名前は……最新巻だし伏せておくとしよう。
今更な気もしないでもないけれどな。
「おい、坊主。そろそろ出るぞ」
どうやらドラルさんは荷物を積み終えたらしく、俺に声をかけてきた。
「ああ!」
馬車に乗り込むと、ドラルさんが端綱をバンっと鳴らす。
「グアー♪」
すると、馬車が進み出した。
「ソースケはフィロリアル好きなんだね!」
「うーん、まあね」
どちらでもないけれど、俺はモフモフは好きだった。
触り心地が良いからね。
「それじゃ、到着まで3時間だ。それまでゆっくりしてろ。レイファも坊主が酔わないように話し相手をしてやれ」
「はーい」
と、そんな感じで俺たちはセーアエット領城下町まで向かったのだった。
受験勉強で書きながら読みながら英単語を覚えますからね。
剣の勇者のおとぎ話はオリジナル要素です。
23巻の内容によっては変えると思います。