館の正門前には、冒険者が数名配置されていた。
アイツらが波の尖兵だということはビンビンに感じていた。
波の尖兵は2名おり、取り巻きの女性が何名か侍っている。
「岩谷」
「ああ、誰が正面から入るんだよと言いたくなるな。こっちだ!」
偵察していた尚文のお陰で、裏門から無事に潜入することができた。
しかもこの門は、南京錠で鍵がかかっていたらしく、ラフタリアが切って解除できる程度には脆くなっていたらしい。
地面には錆び付いた南京錠が落ちていた。
「普段は使われない入り口か……」
「ああ、見張りもいなかったからな。現に今も見当たらない」
「ま、余計な殺し合いをしなくて済むなら良いことだろう」
どうやら、この館には強敵しか居ないようだからな。
俺達は尚文の案内で、敵に会わずに館の内部へと侵入できた。
「さあ、ここからだ。前回は内部に侵入できなかったからな。あの女のいた部屋の位置はわかるが、場所はわかっている。内部を少し歩けばたどり着けるだろう」
尚文がそう言った時だった。
俺は殺気を感じて槍を取り出し、尚文への攻撃を防いだ。
「今ので死んでおけばいいものを」
そいつは、尚文の言っていた奴だった。
金髪の長髪をしており、なんかアニメやゲームのキャラを彷彿とさせる容姿をしている。
鎧は白を基調とした青いラインや装飾が入ったもので、それがますます主人公アピールをしている。
張り付いたニヤニヤ顔が、ウザい。
槍で弾き落としたものは、矢であった。
あの威力は尚文が食らえば確実にダメージを受けたほどであった。
「テメェ……」
「お前が盾と、ミリティナが言っていた犯罪者か。よくもまあノコノコとこんなところまで殺されに来たものだ」
その白い奴の言葉と同時に、複数人の強そうな冒険者が出てくる。
そして、ミナ……ミリティナ=アールシュタッドが出てきた。
「ミナ! テメェよくもハメてくれやがったな!」
「あら、私の好意を無下にして、自分勝手に剣の勇者様に取り入ろうとしたアナタが何を言っているのかしら?」
「あれはそもそも、国が強引に勇者の仲間になれって命令されたようなものだろうが!」
「私はアナタが勇者になるならと思って送り出しました。まさか、それが剣の勇者様に取り入り、国を自分の思うがままにするためだったなんて……。マルド様に聞かなければ、私は間違えてしまうところでしたわ」
あー、やっぱ話は通じそうにない。
「おまけに、盾に協力してもらっているなんて、所詮は犯罪者。犯罪者は犯罪者同士消えて仕舞えばいいのですわ!」
「チッ!」
尚文は舌打ちを打つ。
ミナのその姿はまさに化けの皮が剥がれたヴィッチそのものだからね、仕方ないね。
実際に言われると、もはや呆れを通り越して笑うしかないが。
「マルドの野郎に言っておけよ。脳筋のように突っ込むと、勇者様の邪魔になるだけだってな!」
しかし、コイツら阿呆だな。
確信はしていたが、ミナが協力していたのは推定でしかなかったのに、この証言で確定だ。
心置きなくぶっ殺すことができる。
俺は剣を抜き、槍と共に構える。
「しかし、あの亜人可愛くね?」
「盾殺してGETだな!」
「じゃあ、誰が最初に殺せるか勝負だな!」
などとほかの冒険者どもがざわついている。
それぞれ、豪華な装備を身につけており、目つきも怪しい。
ここにいる全員、俺の殺戮対象のようだ。
「景虎!」
「俺はあの一番強そうなやつを殺す! 岩谷達はそれ以外の連中を無力化してくれ!」
「わかっているが……」
「いや、アイツは俺よりも強い。無力化は無理だ!」
「……わかった。無理はするなよ」
相手は決まった。
白い奴はニヤケながらこう宣言した。
「ミナを貶めた犯罪者は俺が殺すから、お前らは盾を消せ」
「良いだろう」
「命令されるのは癪だが、従おう」
「最初に盾を殺した奴があの亜人の女をGETだな!」
白、緑、黄色、赤色の連中は戦う相手を決めたようだった。
俺は槍に魔力を通す。
グパァと槍が変形して、十卦形態になる。
「うっ、景虎、それはもはや呪いの装備だろ……」
尚文のツッコミに、俺は何も返さなかった。
白い奴を相手にして、そんな余裕はなかった。
俺が走り出すとともに戦いが始まった。
俺は走りながら魔法を唱える。
『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、我らに戦う力を与えよ』
「アル・ツヴァイト・ブースト!」
唱え切ったところで怖気がして、態勢を変える。
ビュンと音がして、目の前を剣が通り過ぎた。
俺はすかさず合気道で対応する。
剣の流れた力を小手で加速させ、反対側の手で当身を入れる。
「おっと」
が、首を傾けて回避される。
態勢が崩れれば問題ないため、そのまま小手返しに移行する。
クルッと技をかけるが、するっと回避されてしまう。
「変な技を使いやがる」
剣を振るので、槍でそれに合わせて力を流す。
だが、それすらも対応されてしまう。
なので今度はこっちから攻撃を仕掛ける。
槍は無敵貫通・防御無視なので、それを振るう。
ギインっと音がして、白い奴は俺の槍を剣で受け止めた。
「流石に、柄の所は厄介なスキルはないだろ?」
「やるじゃない」
俺は実戦で鍛えた槍術で白い奴を攻めるが、上手く剣でいなされてしまう。
コイツ、強すぎないか?
俺も俺で、白い奴の剣を紙一重で回避しつつ、合気道で対応する。
ギイン、ギャン、バンと、様々な効果音を出しながら、俺と白い奴は互いに攻める。
明らかに遊ばれている。
それほどの実力があって、なぜ波を鎮めるために戦わないのか疑問が出てくるほどだろう。
波の尖兵とわかっていなかったら問いただしていた所である。
「そんなに弱いのに、よくもまあ生き残れたものだ。感心するよ」
「そいつはどうも」
「ふ、やはり、ミナは君には似合わないようだ。強く、美しい僕に相応しい」
「好きにしたら良いじゃねぇか」
「君が生きていると、ミナが悲しむからね」
「じゃあ、殺しあうしかねぇな!」
「君みたいな雑魚で僕を殺すなんて、寝言は寝てから言いたまえ。まあ、すぐに永遠に寝ることになるから、問題ないかもだけどね」
白い奴の攻撃のスピードが上がり、さらに隙が無くなる。
「チッ!」
俺もそのスピードに合わせる。
剣の間合いの近接戦闘だが、剣と槍の二刀流に合気道の格闘術が合わさる事で対応できてはいる。
「必死だな」
「ぬかせ。一発も当てれてないじゃないか!」
「ふっ、これだから雑魚は」
とてもではないが尚文達の状況を見ていられるほどの余裕は無かった。
勝ってくれることを信じるほかない。
不意に奴の闘気が膨らんだ、来る!
「食らえ! 鏡面刹!」
某ゲームの主人公の連撃を白い奴は使ってきた。
兜、袈裟、突き、凪ぎ、全ての剣を槍と剣で払う。
しかし、数カ所致命的ではないものの、俺はダメージを負ってしまう。
「ぐぅ!」
肩や二の腕、右脇腹が熱い。
血が出ているようであった。
「くくく……。僕のこの技を受けて生きているとは大したものだ」
つ、強い!
波の尖兵としても奴が格上なのは感じるが、冒険者としてもかなり強い!
「はあああ! 乱れ突き!」
俺は技を放つ。
右腕のみで乱れ突きを放ち、左手の剣は別の技を放つために準備する。
「ふっ、そよ風かな?」
俺の技を全て回避してしまう。
そんな事は分かっていた事だ。
だからこそ、俺は魔法を詠唱する。
『力の根源たる俺が命ずる。真理を今一度読み解き、彼の者を打ち滅ぼす雷を今ここに招来させよ』
「ドライファ・サンダーブレーク!」
俺はあの必殺技を再現する。
地面を思い切り蹴り間合いを作り、剣に雷エネルギーを充電する。
バチバチと短剣から電気が迸る。
「今必殺の、サンダーブレーク!」
俺は槍を奴に向ける。
剣から槍に雷エネルギーが伝わり、ビームを放つ。
雷エネルギーは赤黒く変貌し、奴に向かって飛んでいく。
「ふっ、そんな真っ直ぐな攻撃が通用するわけがないじゃないか」
白い奴はそう言って余裕で回避する。
「真っ直ぐなわけがないだろ」
そもそも、サンダーブレークは範囲攻撃だ。
俺の魔力で構成された雷を、俺が曲げれないはずがない。
「なっ!」
奴は初めて驚愕の表情を見せた。
サンダーブレークが命中し、ダメージを与える!
バチバチと奴から電撃の流れる音がするが、奴は悲鳴をあげなかった。
「……!」
「「「──様!!」」」
取り巻きの女どもと、ミナが悲鳴をあげるが、雷の音で俺は奴の名前が聞き取れなかった。
「……ふっ、美しい僕が汚い犯罪者に負けるわけがないだろう?」
白い奴はそういうと、バチンと音を立てて俺の魔法を打ち消した!
打ち消した?!
「なっ?!」
妨害魔法を誰かが唱えた気配はなかった。
なのに、白い奴はサンダーブレークを打ち消したのだ!
ドライファだぞ?!
「不思議がっているようだね。ふふ、これが僕の力だ」
そう言うと、奴は腰に剣を納めて、天に手を掲げる。
「君に見せるのは癪だけれど、僕が最強である証を示そう」
奴の手に出現したのは、豪華で強そうな斧だった。
斧の根元の部分に、聖武器の特徴である赤い宝石がハマっている。
そして、斧の持ち手の末端にはアクセサリーがぶら下がっていた。
「マジかよ……」
俺は改めて武器を構え直す。
斧の眷属器の強化方法は、肉体改造!
奴はそれで、魔法防御のステータスを高めていたようだ。
「君はどうやら強敵らしい。雑魚かと思ったが、僕にこの斧を使わせたことがその証左だ。誇るが良い。そして、その誇りとともに、死ぬがよい」
一瞬で奴は消えた。
「ぐはっ?!?!」
そして、俺の腹部に斧が命中する。
バキバキと骨の砕ける音と、鎧が破壊される音が聞こえる。
意識が一瞬飛びかけるが、俺は生きているようだ。
俺は吹き飛ばされて、壁に激突する。
「ふっ、まだ息があるか。このグレートキングアックスを耐えるとは驚きだね」
「「「きゃー! ──様ー!」」」
やばい、スカしたアイツもムカつくが、ピンチだった。
「かはっ!」
口と鼻から大量の血が出る。
真っ二つになってないのは奇跡だろう。
「う、ぐ、かはっ!」
俺はつい、チラリと尚文達の様子を見てしまう。
いかんいかん、これは俺の戦いなんだ!
俺はポーチからヒールポーションを取り出し、素早く服用したのだった。
強すぎない?
マジで強すぎない?