俺たちは、領主の兵士に案内されて、領内の宿の一室を貸し与えられた。
「ワシはお前らの相手をしている暇などないのだ。宿を一室貸すから即刻この屋敷から立ち去るがいい」
という感じで、俺たちは追い払われたわけであった。
あたりはすっかり暗くなってしまっていた。
あの人も三勇教なのだろうが、話の通じる人物であるように感じた。
「景虎、お前はこれからどうするんだ?」
改めて、俺は尚文に聞かれる。
「どう、とは?」
「お前の復讐対象の一人はこれで片付いたんだ。これからどうするつもりなのか気になってな」
「ああ、なるほどね……」
尚文の言いたいことはわからんでもない。
だが、俺には役目がある。
もちろん、勝手に俺が設定したものだがな。
「俺は、旅を続けようと思う。俺は敵は多いからな。だから、勇者様の旅に同行することはできないのさ」
俺の敵は、燻製と三勇教だ。
燻製はいずれ自爆して燻製されるので、その時を待てばいいが、三勇教の連中は引き続き襲ってくるだろう。
なんと言っても俺は神敵なのだ。
噂の内容を正しいとするなら、政治的話では罪ではないが、宗教的話となると別なのだ。
「そうか、それは残念だ。同じ日本人だし、お前なら信用できるからと思ったんだがな」
「岩谷にも信頼の置ける仲間がいるじゃないか」
そう、ラフタリアとフィーロさえいれば、尚文は最強だ。
なんと言っても主人公様なんだからな。
俺みたいなイレギュラーとは訳が違うだろう。
「まあな」
「そうです。私はナオフミ様の剣ですから!」
「フィーロも! ごしゅじんさまのために戦うよ!」
ボフンと音を立てて、フィーロは幼女形態に変身して、尚文に抱きつく。
「ええぇぇえぇ?!」
それに、レイファは目を白黒させる。
ああ、レイファはそう言えば初めて見るんだったな。
「そう言えば、自己紹介がおざなりになっていましたね。レイファさん、でしたっけ。私は盾の勇者様であるナオフミ様の仲間の、ラフタリアと申します。よろしくお願いしますね」
ラフタリアが改めて自己紹介する。
「俺は岩谷尚文だ。これでも盾の勇者をやっている。景虎……宗介だったか、同じ世界からやってきた。よろしくな」
尚文も改めて自己紹介する。
「フィーロはフィーロだよ! よろしくね、キレイなおねーちゃん!」
フィーロはニコニコしながら自己紹介をする。
キレイなおねーちゃんって、なんだろう。
確かにレイファは天使だからな。
「は、はぁ。あの、私はレイファって言います。アールシュタッド領の外れの森の小屋に住んで、お父さんと一緒に木こりをやっていました。ソースケとは、4ヶ月前に出会った感じです。よろしくお願いしますね、盾の勇者様、ラフタリアさん、フィーロちゃん」
レイファがエンジェルスマイルを披露する。
ドラルさんが亡くなったせいか、心配ではあったがもともと芯の強い子だ。
その微笑みを見て、俺は安堵する。
「……この世界の人間にもこんな良い子が存在するんだな。ビッチ王女やクソ女ばかりだと思っていた。フィーロがキレイなと言った意味がなんとなくわかった」
尚文はそう感想を述べる。
「うん、おねーちゃんね、すっごいキレイなの!」
やはり、レイファは地上に降り立った天使で間違いないな。
「ソースケみたいに私を褒めちぎっても、何も出ませんよ」
レイファは苦笑しながら、そう返す。
「ここが、領主様が貸し与えられた宿だ。領主様に感謝することだな」
「ふん、今回は素直に感謝してやろう」
「……チッ」
兵士は不機嫌そうに舌打ちをすると、そのまま領の館に戻っていった。
「なんで兵士さんは盾の勇者様を変な目で見るのでしょう?」
「……さあな、それがわかったら苦労はしないさ。フィーロ、馬車を持ってこい」
「はーい!」
「では、私もフィーロについていきますね」
「ああ、ラフタリア、頼む」
フィーロとラフタリアは馬車置いている場所まで向かった。
部屋を確保して、俺たちはラフタリアたちを待つ事になった。
「えへへ、ソースケとまた会えて嬉しい!」
「俺もだ」
本当は、ドラルさんも無事であって欲しかったが、仕方ないだろう。
「こうしてみると、まるで兄妹みたいだな」
あきれた様子でそう評する尚文。
俺もそう認識しているので、あながち間違いではない。
「そう言えば、レイファは最初の波の後はどうしていたんだ?」
元々気になっていたことである。
「私とお父さんは、特に大きな被害もなくあの家で暮らしていたよ」
「最初の波……?」
ああ、尚文は初耳だろう。
「一応聞いているかもしれないが、岩谷達勇者様が召喚される前に隣のセーアエット領で波が起きてな。レイファの住む小屋は、セーアエット領に近かったから心配していたんだ」
「……最初の波、か」
尚文はきっと、ラフタリアの事を思い起こしているのだろう。
「たまに波の魔物? が襲ってくるから、お父さんが魔物を討伐してたの」
「さすがはドラルさんだな」
「で、お父さんが言っていたんだけれど、勇者が召喚されたって話を聞いたの。もしかしたら、ソースケが帰ってこれないのはそれに巻き込まれたからだって言ってた」
あながち間違いではない。
しかし、俺は安心した。
錬のお供をしている時も、ずっとレイファ達が無事な事を心配していたからな。
本当にレイファの笑顔は癒される。
「たっだいまー!」
「戻りました、ナオフミ様」
と、ラフタリア達が戻ってきたようで、部屋に入ってきたのだった。
レイファは天使やな(確信)
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