波の尖兵の意趣返し   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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魔法を使ってみよう

 おええええ……。

 俺はフィロリアルの引く馬車で完全に車酔いをしていた。

 なんと言っても揺れが激しいのだ。

 いちいち揺れが激しい。

 馬車が安物だと言う点も、乗り心地の悪さに拍車をかけていた。

 

「ソースケ、大丈夫?」

「おええええええええ……」

 

 俺は嗚咽を漏らしながらうずくまっていた。

 

「坊主、慣れればなんと言うことはない。レイファ、坊主に酔いを治す魔法をかけてやれ」

「うん、お父さん」

 

 そう言うと、レイファは俺に手をかざす。

 

『力の根源たる私が命ずる。理を読み解き、彼の者の酔いを癒せ』

「ファスト・キュア」

 

 初めて聞く魔法である。

 盾の勇者の成り上がりには出てこないのかな? 

 かけてもらうと車酔いがかなり引いた。

 

「あ、ありがとう、レイファ」

「うん、お安い御用よ。私も初めてフィロリアルの馬車に乗ったとき、酔いつぶれちゃったもの」

 

 天使のように微笑むレイファ。この子を守らないとなと改めて思う。

 幸いにして現状俺は人の話を聞き入れることができるらしい。

 まあ、いわゆる【事前知識】……ゲームの世界と思い込み要素は無いし、その後の運命をある程度知っていると言うのもある。

 それに、俺の周りには現状ヴィッチが居ないのも、認識の阻害を受けるのを防いでいると言えるだろう。

 あのおっさんだったら、きっと今頃ヴィッチと合流して、傲慢なままゲームの世界と思い込んでいたに違いなかった。

 

「酔いが治ったのなら行くぞ」

「はい!」

 

 俺は再度フィロリアルの馬車に乗る。

 それから、しばらく馬車の旅を楽しんでいると、セーアエット領城下町が見えてくる。

 遠目に見た感じだと、バイオプラントの木もなさそうに見える。普通に石造りの西洋風の街並みだ。

 ……時期的にはいつぐらいだろうか? 

 

「あのさ、レイファ」

「どうしたの? ソースケ」

「セーアエット領って波は起きていないのか?」

「波……ああ、厄災の波ね。喫緊だとフォーブレイで発生したって聞いたけれど、メルロマルクではまだ起こっていないわ」

 

【波】と言うのは、世界融合現象の事だ。何らかの理由で世界と世界がぶつかると、【波】が発生する。

 ディメンションウェーブといった方が日本人の感覚に近いだろう。

 この世界では【災厄の波】と呼ばれる。

 はっきり言えば、web版なら俺を転生させたやつのせいなんだけどね。書籍版の世界だとちょっとわからない。他に黒幕いるらしいし。

 話を戻そう。

 現時点でメルロマルクでは波は発生していないらしい。

 と言うことは、時間軸的には四聖勇者達が召喚される前と言うことになる。

 

「ふーん、教えてくれてありがとう」

「うんん、大丈夫だよ」

 

 レイファは素直で可愛い。本当に理想の妹みたいだ。

 思わず俺はレイファの頭を撫でていた。

 

「えへへ」

 

 可愛い。

 この世界でレイファのために生きるのもアリかもしれない。

 レイファのお兄さんとして生きていくのだ! 

 基本好き勝手していいわけだしね。

 思惑通りでないと思うけれども、知らんな。

 

「魔法屋に行くぞ。坊主、付いて来い」

「ああ、わかった」

 

 魔法屋は男性の魔法使いが受付をしていた。

 所狭しと魔道書や水晶玉が並んでおり、魔法屋と言われて納得する。

 

「おお、ドラル。お前さんがこの店に来るとは珍しいな!」

「ああ、実はコイツの魔法適性を見てやって欲しくてな」

「銀貨1枚だ」

「ああ」

 

 ドラルさんと魔法屋のおじさんはどうやら顔見知りらしい。

 が、金銭のやり取りはキッチリする間柄でもあるようだ。

 

「さて、君は勇者様の世界から来た少年だね」

「実際どうかはわからないけど、一応そう言うことらしいですね。俺は菊池宗介と言います」

「ふむ、おとぎ話に出てくる勇者の命名法則と同じだね」

 

 それにしても、何で日本出身者ばかりが波の尖兵や勇者として送り込まれるのだろうか? 

 まだ明らかになってないまま来てしまったので、知る由はないんだがな。

 

「さて、この水晶で少年の適正魔法を占おう。手をかざしてごらんなさい」

「こ、こうか?」

 

 んー? 

 かざしたところで、俺からは何もわからなかった。

 

「ふむ、少年は雷と補助に適性があるようだね」

「雷と補助……」

 

 まあ、実感はわかないよな。

 

「補助は持っているが、あいにくと雷の魔道書は持っていないな」

 

 ドラルさんはそう言って、銀貨を追加で2枚机に置く。

 

「それじゃあ、ファスト・サンダーの水晶玉をくれ。魔法の感覚を覚えさせたいからな」

「んー、あいよ。まあそんなものか」

 

 魔法のおやじさんはそう言うと、水晶玉を取り出した。

 

「そいつを持ってみな」

「あ、ああ」

 

 水晶玉を持つと、何かが流れ込んでくる。

 ほうほう、なるほど。魔法はこうやって使うのか。

 確かに第三の手を操作するイメージである。

 合気道の身体の使い方と同じように、今までに使っていなかった筋肉を動かすような感覚だ。

 

「ここで試されても困るから、店の裏手の広場で試してきたらどうだい?」

「そうさせてもらう」

 

 俺は感覚を忘れないためにも、イメージをしながら店の裏手まで回る。

 

『力の根源たる俺が命ずる、理を読み解き、彼の者に雷の洗礼を与えよ』

 

 魔法を唱える。これは確かに自動で詠唱が出てくる感じだ。

 唱えた瞬間に見えるターゲットカーソルを広場の中央に指定する。

 

「ファスト・サンダー」

 

 バチンと小さな落雷が発生する。

 おお! これが攻撃魔法なんだ! 

 俺は感動して思わずガッツポーズをしてしまった。




なんだかんだ言って順調な異世界生活です。

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