俺は燻製のは阿呆を相手していたので、後でレイファから聞いた話だ。
「大丈夫ですか? 大変! 怪我してる!」
「ファスト・ヒール!」
レイファが回復魔法を使って、その人物を回復させた。
レイファの回復魔法によってダメージを回復させたその人物は、リーシアから渡された水を飲まされて、ようやく喋れるようになった。
「……あ、ありが……ございま……」
「大丈夫ですか? こんな道端で倒れているなんて、普通じゃありませんよ」
樹はその人物に問いただそうとするが、意識を失ってしまったようだった。
頬は痩せこけており、身体中に刃物による切り傷を負っていたようだ。
誰かに追われているところを命からがらといった感じに見受けられた。
「おい! イツキ様が聞いているんだぞ! 勝手に気を失うな!」
ペシペシと侍が叩くのを、レイファは止める。
レイファのレベルが低い為、抑えることはできなかったが。
「待ってください! 怪我人なんですよ! 意識が回復するのを待って事情を聞いた方がいいと思います!」
「カレクさん、この子の言うとおりですよ」
「……チッ、失礼しました、イツキ様」
樹が宥めて手を止めた侍に、レイファもなんだか怖気を感じたらしい。
何というか、言葉にできない寒気を感じたそうだ。
「……ふむ、どうやらこれは、優先順位が高い案件ですね。このイベントは、作中でもなかなか高難易度かつランダム発生のイベントです。これを逃す手はありません。そこの貴女、菊池宗介に一時休戦を申し込みたいのですが、聞いてもらっても構いませんか?」
レイファは樹の方から襲ってきたのだろうと呆れつつも、戦わなくて済むならそれが一番だと判断したらしい。
「……わかりました。ソースケにそう伝えますので、あの鎧の方を止めていただけますか?」
「わかりました。こちらから休戦を求めるのです。こちらも剣を引くのが道理ですからね」
逐一偉そうな将軍様は、そう言うと、レイファや仲間たちとともに戦闘を繰り広げている俺達のところまでやってきた。
「ふんっ! はぁ! どりゃっ!」
「……お前やる気あるのか?」
俺は一方で燻製と戦っていた。
と言うよりも、燻製があまりにも見え透いた攻撃しかして来ないので、斧の軌道を全部逸らしてあげて、燻製に全力で空振りさせている、と言うのが正しい認識だろう。
相変わらずの脳筋っぷりな戦い方である。
「ふんぬううう! 卑怯者め、避けるな!」
「何で避けるのが卑怯なんだよ阿呆。第1、当てるつもりの無い攻撃をするお前が悪い」
しかし、燻製にも褒めるべきところはあるのは確かだ。
その長時間斧を振っても切れないスタミナと、当たれば凄まじい攻撃力だけであるが。
『このすば』で言うならば、打たれ弱すぎるダクネスみたいな感じ?
……例えて思ったけれど、本当にコイツ無能だなぁ。
攻撃を当てる工夫をしないならば、攻撃を当てるつもりがないのと同じである。
燻製の攻撃など鼻くそを穿っていても避けるのは容易い。
「ぬがああああ! 鼻くそほじりやがって! ワシを舐めるなあああ!」
「そんな当てる気のない攻撃をしながら言われてもな……」
でも、一応レベルは燻製の方が高いはずである。
何でこう、彼は弱いのだろうか?
あ、陰謀以外はパーチクリンだったな!
はっはっは!
「マルドさん、武器を引いてください。菊池宗介も、マルドさんと戦うのをやめてください」
と、樹の声が聞こえた。
俺は無手で相手をしていたんだがな……。
それに、喧嘩を売ってきたのはそちらの方だろうに、なぜそんな偉そうなのか?
「しかし、イツキ様!」
「僕たちの正義を示す事件が起きているようです。彼よりも優先順位が高いですよ。それに、彼も僕たちと同行すれば、僕たちの正義が彼に伝わり、改心するかもしれません。彼女……レイファさんにも同行するよう話は通してあります」
「ぐっ……わかりました、イツキ様。ですが、コヤツが不埒な真似をしたら即刻ワシが懲らしめますぞ」
「ええ、それならば仕方のない事ですからね」
樹にそう言われて、燻製は渋々斧を引っ込める。
「はっ、お前に俺が倒せるわけないだろうが。木こりでもしてたらいいんじゃないの?」
「キサマ!」
「マルドさん!」
再び斧に手をかけようとした燻製を樹が制する。
渋々斧を収めるあたり、今は樹のところで美味しい思いをしているのだろう。
で、気になることが一点出てくる。
協力とはどう言う事だ?
「レイファ、どう言う事だ?」
「うん、ごめんね。何とか手を引いてもらうように交渉したら、同行する事になっちゃった。それに、あの人を見捨てるのはどうかなって思っちゃって」
「あの人?」
「うん、道で倒れていた人だよ。何か訳がありそうだったし、怪我の大部分が刃物で切られた跡っぽい感じだったよ」
樹のあのはしゃぎようからすれば、レアイベント発生の合図なのだろう。
しかも、将軍様の需要を満たすような、特殊なイベントである。
「……個人的には逃げてしまいたいが、レイファがそうしたいならば俺はそうするさ」
俺はため息をつく。
「では、賞金首である菊池宗介……さん。一時的ではありますが、共闘しましょう。僕は冒険者の川澄樹と言います。よろしくお願いしますね」
「……よろしくな」
すでに弓の勇者であることは指摘したんだが、この将軍様はそう言う設定らしい。
と言うか、俺が日本人である事に対して何か思う節がないのだろうか?
疑問は尽きないが、おいおい聞いて行くとしよう。
こうして、再び燻製と協力する羽目になってしまったのであった。