レイファの言っていたあの人と言うのは、男性であった。
飢餓の状態が続いているせいか頬骨が出ており、あまり筋肉が付いていないことがわかる。
そのかわり、お腹が出ており、栄養失調特有の体系をしていた。
装備している武器はお粗末なものを装備している。
領主に対してクーデターを狙っていたのだろうか?
こう言う場合は情報通に聞くのが確かだろう。
俺たちの馬車は今はレイファと樹の仲間の回復魔法使いが男を看護しており、俺は樹の馬車に乗って待機していた。
「おい、弓の勇者」
「僕は冒険者です。樹と呼んでもらえれば良いですよ。その代わり僕も貴方のことを宗介さんと呼びますがね」
何でこう、コイツは慇懃無礼なんだろうか?
「……じゃあ、樹。どう言うイベントか、説明してもらえないか?」
「名前から思っていましたが、やはり貴方も僕たちと同じように日本からやってきた方だったのですね」
樹は納得したようにそう言うと、答えてくれた。
「では、イベントのあらすじだけをお話ししますね。と言ってもこのイベントは発生率10%ほどしかないイベントで、第一の波と第二の波の間の時期に、この周囲を探索しているとエンカウントするイベントです」
「期間限定のランダムイベントか」
パワポケ……とかそう言うのかな?
コンシューマゲームに仕込んであるイベントという事なのだろうか。
PSO2ならばパラレルワールドの発生とか、アブダクションとかそう言うイベントが該当しそうである。
「そうです。ディメンションウェーブには、こうしたランダム発生のイベントや、分岐によるストーリーの一部変更・拡張があって、何周も周回しても飽きない作りになっているゲームでした」
あ、なんかそう言うの聞いたことあるな。
フェアクロだとか、ユグドラシルだとか、良くあるゲーム転生みたいな、あり得ないぐらい高性能設定の人間が作れるとは到底思えない、MMORPGに似た感じだ。
あれは小説内であるから設定としてアリなだけで、実際存在したら運用コストだとか、膨大なデータを保管する場所とかに困りそうな代物である。
2019年時点でも海外でそう言うゲームが作られているとは聞いたことがあるが、プレイするまでにはあと3年はかかりそうなやつだ。
「それで、このイベントは簡単に説明すると、悪徳貴族と戦うレジスタンスに加わり、囚われの姫を救助すると言うイベントですね。これだけ聞くと良くあるイベントの一つに過ぎないのですが、この時期にしては出現する敵のレベルが異様に高く、そして驚くようなどんでん返しが存在すると言うイベントになります」
う、嫌な予感がするな。
特に囚われの姫という辺りが。
「このイベントは推奨レベルが80、挑戦可能レベルが60と高難易度クエストになります。敵も歯ごたえがありますし、下手すれば波の魔物よりも強力な魔物と戦えるイベントですね。もちろん、そのルートに行くとバッドエンドなので、気をつける必要がありますがね」
しかし、樹はペラペラとよく喋るな。
自分の好きなゲームの話だから、当然といえば当然なのかもしれないけどさ、一緒にいる連中が首を傾げているぞ。
「もちろん、報酬はかなりいいものになります。弓なら、ベストエンドでアローレインの強化版であるアロースコールが使えるキム・クイが、バッドエンドで倒したボスが確定ドロップする必中の弓である与一の弓が入手できます。アロースコールはこの時点ではレアスキルなので、是非とも入手しておきたいスキルですね。もちろん、僕はベストエンドを目指しますけれど」
得意げに話す樹の姿に、他の連中は若干驚きを隠せない様子だ。
「で、グッドエンドに行く方法は?」
「さすがにこのイベント自体に遭遇がほとんどありませんでしたので記憶がだいぶおぼろげになってはいますが、重要な分岐は攻略サイトで何度も見ていたので、それだけは覚えていますよ」
「ふーん、ならば俺は不要じゃないの? 樹だけで十分だろ」
「いえいえ、宗介さんを逃がすわけがないじゃないですか。一時休戦なだけです。それに、今回のクエストに限っては仲間NPC多いほど有利な選択肢を選べますからね」
やはり、こいつが同行を提案したのは監視のためか。
それに、仲間が多いほど有利と言うことは、そう言う裏切りや陰謀が渦巻くイベントであると言っても差し支えないのだろう。
なるほど、樹が好きそうなイベントである。
と、樹の方から話を振ってきた。
「そう言えば、宗介さんはこの世界と似たようなゲームはやっていないんですか?」
「俺のところはweb小説だったな。ディメンションウェーブって言う名前のな」
「なるほど、ではこのイベントについてエピソードが書かれていなければ知りようがありませんね」
嘘であるが、事実は誰も知らないので問題なかった。
実際、更新停止中ではあるが、書いているからな。
実際、俺は原作の合間合間に起こった出来事については知らないし、盾以外の勇者が何をしていたのかも知らなかったのだ。
「ソースケ! あの人起きたよ!」
と、レイファが馬車に顔を覗かせて教えてくれたので、俺と樹、なぜか燻製が代表して様子を伺いに向かった。
「……うぅ……ここは……?」
「良かった、目が覚めたんですね」
レイファは安堵の表情を浮かべる。
一緒に看病していた魔法使いの表情は硬いままなので、レイファ天使度が高いことを証明してくれる。
「うぐっ」
「あ、まだ横になっていてください。生命力が少ないのか、治りが遅いので」
起き上がろうとして痛みに顔を歪めた男性に、レイファがそう言って再度横にさせる。
これで看護服だったら、完全に白衣の天使だなと思ってしまうのは仕方ないだろう。
「キサマ、何故行き倒れていたのだ?」
何故か燻製が尋ねる。
樹は微笑んだまま様子を伺っている。
あー……これが将軍様プレイなのか……。
俺は呆れる。
「その……。冒険者には関係のないことなので……」
「いえ、なんで貴方が剣などで切られた傷があるのか、もう私達には無関係では無いと思います」
レイファが強い目で、男を見る。
セリフを取られて舌打ちをする燻製は馬鹿なのかな?
「……ですが、やはり我々のことなので」
「キサマ、助けてもらっておいた分際で……あいた!」
セリフを間違っているのか、燻製は樹に足を踏まれる。
「ぬ、ぬぅ……。キサマ、そこの女が言う通り、キサマを助けた時点で関係ないとは言えなくなったからな。せめてワシらに事情を話すがいいぞ」
「それに、僕たちはこれでもクラスアップをしています。メルロマルクが保証する冒険者ですよ」
「そ、そうなんですか……!」
樹の言葉に、希望の光を見たと言った様子の男性。
いやー、やっぱり、誰が言うかってのは重要だなと思うね。
どんな言葉でも自分というフィルターを通して伝わるからさ、樹と燻製では同じ言葉を言っても、伝わる意味は異なるだろう。
「……その、我々は隣国、アルマランデ小王国で、悪政を敷く国王を打倒するためのレジスタンスです」
そのレジスタンスの男が言うには、アルマランデ小王国の現状はこんな感じらしい。
現状、長期にわたる原因不明の飢饉により、世界中がやせ細っているのはどこも同じであるが、アルマランデ小王国は一人の女によって傾国の危機にあるらしい。
マリティナと呼ばれる美しい女が突然、国王に就任した時から圧政が始まったそうな。
メルロマルクとシルトフリーデンの間に存在する国なので、当然ながら亜人と人が混ざって生活する国だったが、マリティナは住む場所により格付けを行い、待遇に差をつけたそうだ。
亜人は全員奴隷となり、農作物の栽培から鉱山で働かせるようになり、人間も人間で蝦夷地の人間は一定金額以上の取引を禁止し、毎年領地で一番の美男子を徴収、ブサイクと美女を処刑すると言う事を行なっているらしい。
食事は全て王家に献上、ほとんどが粟や霞を食べて過ごすのが現状だそうだ。
また、コロシアムで人間同士を殺し合わせる遊びもしているらしく、そんな状態ではまるでスパルタクス待ちみたいな状態を作り上げてしまっていたそうな。
「え、なにそれ思っていたより最悪じゃん」
俺は思わず声が出てしまった。
「なるほど、流石に直で聴くとキツイものがありますね……」
樹は眉を潜める。
「ふむ、では、ワシらはそのマリティナと言う女を倒してしまえば良いと言う事かな?」
偉そうに燻製がそう聴くと、レジスタンスの男は首を横に振った。
「いいえ、どうか、我々をあの国から逃がしていただきたいのです!」
どうやらこのイベントの最初のシナリオは、レジスタンスたちを別の国に逃がすところから始まる様子であった。
明日、明後日は更新できないかもしれないです。
マリティナ…あっ(察し)