正面、右、左、蹴り、全てを受け流しつつ、俺はババアの元で学んでいたことを思い出していた。
コイツを倒すには、今の俺では力不足でしかない。ならば、今まで使ってこなかった力……気を使うしかないだろう。
奴の攻撃を払いながら、俺は呼吸を整える。
「スゥ……」
あの呼吸法を思い出す。
そして、意識してそれを再現する。
「ハァ……」
深く呼吸をすると、だんだん『気』と言うものを感じ始めていた。
魔力とは異なる、生命に等しく宿る何かだ。
「はは、そんな付け焼き刃の呼吸法など何の意味がある!」
奴は罵ってくるが、関係なかった。
イメージは流水岩砕拳だ。
一番イメージしやすいからな。
空手に連打などなかった気がするが、奴は連打で攻撃してくる。
整えた呼吸、そして『気』が活性化したことにより、俺はゾーンに入ったようであった。
徐々に俺のカウンターが、奴に吸い込まれるように入って行くようになった。
「必殺、流水応烈打」
自然とそう口にしていた。
相手の突きに合わせて、強烈な当身と、『気』を織り交ぜた攻撃を放つ。
「う、ぐが! コイツ突然! ガハッ!」
攻撃が入りかつ『気』の攻撃は鎧を貫通してダメージが入るのか、よろけながら奴は後退する。
「ミョウダイ様!」
「チッ……、ガハッ! 一旦引くぞ! 態勢を立て直す!」
奴……ミョウダイと呼ばれた鎧はそう判断し、素早く騎士団を撤退させる。
「待て!」
「ふん、菊池宗介と言ったな。その名前、覚えておく。次に会った時が貴様の最後だ」
ミョウダイはそう言うと、何かを地面に叩きつけた。
ものすごい勢いで煙が発生する。
煙幕か!
煙が腫れるころには、奴の部隊は撤収が完了していた。
「冒険者様、ありがとうございます!」
「すまない、取り逃がしてしまった」
「いえ、今回の作戦は撤退作戦ですから、問題ありません。先頭で戦っていた冒険者様達も、どうやら敵を撤退させたみたいですよ」
言われて、俺が先頭の方を向くと樹達が戻っていた様子だ。
被害状況の確認をしているようだ。
しかし、ミョウダイだったか。アイツは傲慢ではあるが、頭がキレる奴のようだった。
部隊を預かる将としての判断も、間違ってはいないだろう。
不利を悟って逃亡したとも見えるが、俺や樹達の情報を集めると言う意味では生きて帰ることが重要だからだ。
……次に奴と見える時、さらに強力な敵として立ち塞がることが予想される。
安定しない『気』の使い方をちゃんと我が物にしないと、次は負けるかもしれない。
「チッ、ここで奴を殺せなかったのは、大きな痛手かもしれないな……」
俺は舌打ちをする。
俺の格闘技……『流水』系統の技の習熟が俺の課題なのだろう。
俺が『気』を用いた技を使うと、『流水』と頭に着く。
おそらく、俺が流水岩砕拳をイメージしているからだろうけれどな。
それに、課題も多く見えた。
剣……ナイフの扱いや、弓……クロスボウの熟練度も上げる必要があることは明白だろう。
俺は、トドメ以外は基本的に、ナイフとクロスボウを使うことを決めた。
その後、俺たちは無事に国境を越えて、メルロマルクではなく、別の隣国のボウラルドと言う国に逃げのびていた。
ボウラルドにはすでに先に拠点を作っていたレジスタンス達が待っており、女性や子供、老人達を受け入れてくれた。
もちろん、レジスタンスとして戦う女性は別であるが。
「冒険者様方、ありがとうございます! 無事に脱出することができました」
「ワシらは当然の事をしたまでだ。感謝されるほどではない」
そう言う燻製の顔は、正義を実行できた快感に酔っている顔ではあるがな。
人に感謝される事よりも、自分の思い描く正義を実行できたことに喜びを感じるタイプなんだろうな、コイツは。救いようのない奴だ。
「それで、次の作戦はもう決まっているのですよね」
樹が聴くと、ラインハルトはうなづいた。
「ええ、次は我々だけで突入して、各地区の解放を行なっていきます」
「この国のレジスタンスの連中が、武器や薬、食料なんかを集めていたので、これで反撃ができます」
ボウラルドは比較的、食料には困っていない国だ。
だからこそ、集めることができたのだろう。
「ふむ、今までは義理で逃亡作戦までは手を貸していたが、これ以降は依頼として受けるぞ」
燻製がそう言うと、驚きの表情をする。
「それは、我々に協力してくれると言うことですか?」
「むろん、そのつもりであるが、報奨金は用意すべきだろう」
「……ふむ、そうですな。では、銀貨350枚でどうでしょうか? 我々に出せる限界なのですが……?」
「安くはないか? もっと……あいた!」
樹が燻製の足を踏みつける。
それ以上もらうのは正義ではないと判断したのか?
「わかりました。ではその金額で良いでしょう。構いませんね?」
「わ、お、おう……」
一応、リーダーは燻製だと見せかけるためだろうけれども、何だろうなこれは。
ブレないその姿勢を褒めるべきなのか、何なのか。
第二の波の後、真槍だとフレオンちゃんと対話するんだっけか?
一体どうやって対話するのか気になるな。
あれ以降読めてないから気になる。
「ありがとうございます!」
ラインハルトさんが樹の手を握る。
感激している幹事である。
「やはり、弓を扱う冒険者様は正義の心の持ち主のようですね! 皆にも伝えてきます!」
ヴェドガーはそう言うと、レジスタンス達が待機している場所まで走っていった。
もう、樹が弓の勇者だってバレているんじゃないだろうか?
樹は自尊心を満たしているが、アニメ版の尚文が教皇戦で言っていた通り、勇者の威光を示したほうがいい気がする。
まあ、俺は口出しはしないがな。
俺の正義と樹の正義は全くもって異なるのだ。
俺の正義は、もっと合理的なところにある。
ミニマムだと、レイファが無事なことを前提とするがな。
それでも、樹は結局は勇者様なのだ。
樹の行いに誰もが感謝し、喜んでいる間は樹が自分の正義を疑うことはないし、燻製達に囲まれている間は傲慢で自分の承認欲求を満たす行為を止めることはないだろう。
やはり、人間を構成するのは環境だなとしみじみ思う。
誰とつるんでもブレない人間なんていないのだ。
俺もレイファとともにいる間は穏やかでいられるのもそう言うことだしな。
「では、ラインハルトさん、冒険者様方、こちらにどうぞ。これより作戦会議を行います」
俺たちはレジスタンスの一人に案内されて、会議室に向かうのだった。