会議室は8畳間程度の広さのある部屋だ。
ここに大部分が男がいるとどうなるかを考えてみよう。
おっさんくさい部屋の完成である。
銃がないため硝煙の匂いはしないが、物々しい雰囲気なのは言うまでもなかった。
「さて、では我が国アルマランデ奪還作戦の作戦を説明する」
このレジスタンス基地の一番偉い人が端を発した。
「現在、アルマランデ小王国は、稀代の悪女マリティナを王とした政権が誕生している。王一族は皆処刑され、アルマランデ小王国の国体はすでに存在しない」
暗い雰囲気である。
そりゃ、王族ってのは国が脈々と続く、国の歴史の証明だ。
俺の世界でも『国体』てのは重要で、イギリスなんかも民主主義国家だけれども、王族を大切にしている。日本もそれは同じだ。
つまり、アルマランデ小王国は国体と権力を同時に失った状態……すなわち、国が完全に滅んだ状態となってしまったわけである。
「だが、あの土地は俺たちアルマランデ小王国の国民のものでもある! あんな悪女に良いようにされて、黙っていられるわけがない! 絶対に取り戻すんだ!」
「「「おおー!!」」」
レジスタンスの連中は威勢良く拳を挙げる。
樹はよくわかっていない顔をしているな。
まあ、一般的日本人の感覚だとわからないんだろうけれどね。
俺も、理屈でしかわからないからな。自分の国の滅ぶ様を見せつけられ、自分の国を好き勝手にする連中に対する怒りの感情は。
だからこそ、ここまで熱を持っているんだろう。
「では、作戦会議を始める。と言っても、諜報部の方で国の情勢は聞いているし、ラインハルト達の生還によって、多くの内情に関する情報がもたらされた。それに……腕の立つ冒険者達の協力を得られている。これで、勝てる要素が出てきたわけだ」
と言っても、連中は軍だ。
正規の戦争を仕掛けても、倒すことは難しいだろう。
およそ100人程度の規模では蹂躙されておしまいである。
「では、作戦の概要を説明する」
司令官はそう言うと、地図にペンでマークをつける。
「現在、我々はアルマランデから見て北部に位置するボウラルドの南東部にいます。流石に100人の部隊が突入すると、バレますので、10班に分けて行動します」
「ふむ、それの目的は?」
「それぞれの地区のレジスタンスの救助です。ゆ……冒険者様は我々レジスタンスの中の2名を加えて10人でチームを組んで頂きたいと思っています」
あれ、レイファが数から抜けているな。
「レイファさんは冒険者ではなく一般人の様ですので、こちらに残っていただき、回復魔法でけが人の様子を見ていただこうと思っています。構いませんよね?」
燻製に確認する司令官。燻製がこっちを見たのでうなづいておく。
俺としても、レイファには居残ってもらうしか選択肢はないのだ。
レイファのレベルでは、流石にただの足手まといだしな。
「構わぬぞ」
「ありがとうございます」
一応は、レイファにも合気道の稽古はつけていたりする。
レイファは俺の足手まといになりたくないと一生懸命なのだ。
と言っても、付け焼き刃な現状、レイファの合気道の実力は8級レベルなので、使い物にならないけれどな。
俺ですら2段なのだ。最高段位が7段だし、7段の先生はそれこそ化物クラスだ。
ちなみに、4段でようやく道場を持てるレベルなので、道は遠い。
「そういう訳で、代わりに地理に詳しいレジスタンス2名についてもらい、行動していただきます」
「良かろう」
「冒険者様には一番攻略難度が高いと見ている、レイシュナッド地方を任せます。解放後に我々と、ラインハルトのチームでコロシアムの解放を行います」
レイシュナッド地方は、王城近くの地区だ。
収容所も存在しており、収容所にはレジスタンスの偉い人が捉えられているらしい。
ジャンヌもそこだろうか?
今回俺たちが襲うのは、この収容所である様だ。
「ちなみに、コロシアム収容の人は別の所に収容されています。我らがジャンヌさんを取り戻すためにも、レイシュナッド地方の収容所の解放は必須です。よろしくお願いします」
「うむ、ワシらに任せるが良い」
そんな感じで、俺たちはレイシュナッド地方に向かうことになった。
距離にして1日はかかる。
王城までは、通常のフィロリアルで2日かかる位置であるので、それなりに距離があるのだろう。
つまり、樹の言っていたベストエンドルートに沿っているという事だろう。
どうせ、収容所でも分岐があるのだろうから、基本的には判断を樹に任せて、俺は雑魚を処分していけば良いかと考える。
俺は収容所襲撃班の打ち合わせを聴きながら、そんな事を考えていた。
俺も小説に思考を引っ張られているのかも知れないな。
実際、今この話に関わってはいるが、本編とは相違が発生している気がしていたのだ。
最初の波から次の波までに樹に関して具体的に語られているのは、リーシアが加入するイベントだけである。
だが、リーシアはすでに仲間になっており、下っ端として動いていて俺と話す機会はない。
だから、ズレていると確信を持って断定ができないし、俺の介入によって原作の改変が起きていないとは断言できないのだ。
まるで、運命がそう定めているかの様に、俺は四聖勇者連中に認識されていっている。
樹なんかも、関わることは無いだろうと思っていたのに、関わってしまっている。
……メガヴィッチと異なる理が俺に働いているのかもしれなかった。
このままだと、元康達とも何か共闘をする事になりそうな予感がしている。
世界は、俺に何をさせたいのだろうか?
それを問う日が徐々に迫ってきている、そんな気がしていた。
「ソースケさん、どうしましたか?」
今回一緒に行く事になったレジスタンスのリノアさんが、考え事をしていた俺の肩をトントンと叩いた。
しかし、リノアねぇ……。
あたしのことが好きになーる好きになーる……ダメ?
「ああ、少し考え事だ」
「そうですか。では集中して作戦を聞いてくださいね?」
俺はリノアさんに言われてうなづいた。
リノアさんは、髪の色こそ違うが、顔の作りはFF8のリノアに似ている。
VCコンソールでやったっけか。懐かしい。
FFなんてなさそうな樹はわからないだろうけれどな。
髪の色、目の色は鮮やかな赤色をしていて、炎の力を持っている事が予想される。
ファイヤー・エンジンだっけ? そんな感じの色である。
俺はリノアさんを見ながら、そんなくだらない事を考えていた。