波の尖兵の意趣返し   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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【高難易度】リタイア

 ふと、気がつくと、目の前に投擲用のナイフが浮かんでいた。

 

「……ここは」

 

 周囲を見渡すが、暗く何も見えない。

 だが、不思議と暗く感じない空間だった。

 

 ステータス魔法に文字が表示される。

 

私は投擲具の眷属器の精霊。不正所持者よ。私を解放してほしい。

 

 不正所持者、ときましたか。

 まあ、投擲具の正当な所持者はリーシアだが、覚醒にはまだ遠いだろう。

 

「解放……ねぇ」

 

 あいにくと、そう言うわけにはいかない。

 こっちにも事情があるしな。

 

不正に所持をしても、正当所持者と比べて強くなれるわけでは無い。不正所持者よ。早急に解放しなさい。それが正義です。

 

 正義だの何だのを俺は議論する気はない。

 結局、正しい行いなんて時の流れや状況、立場によって変わってしまうのだ。

 だから、俺は精霊にこう答えるしか無い。

 

「あいにくと、いま解放するわけにはいかないからね。しかるべき時に、弓の聖武器から依頼が来るから、それまでは仲良くしようや」

 

 そう、おそらく、この武器は現時点でタクトに渡してはいけないのだろう。

 どのタイミングでコーラが奪われたのかは知らないが、投擲具は波の尖兵の間を渡って最終的にタクトに簒奪される宿命だ。

 解放したとして、結局タクトに渡るのは見え透いた話である。

 

──所持者よ。警告する! ──に解──のが──の──

 

 急にノイズが酷くなった。

 見ると、アクセサリーが怪しく輝いている。

 聖霊の干渉を阻害しているのだろうか? 

 

「まあ、しばらくは俺の中で眠っていると良いさ」

 

 コーラが生き延びていたのは秘匿して所持していたからだろう。

 ならば、俺もそれに習うのが一番である。

 

 さて、この空間を出る必要があるな。

 この空間はおそらく、眷属器が作り出した空間だろう。

 俺の体が目覚めれば、それで起きるはずである。

 言うなれば、夢の狭間。

 

 俺は、投擲具を掴む。

 ステータス魔法に投擲具のアイコンが追加された。

 まあ、起きるまでの間に、確認をするとしよう。

 

 投擲具は解放が進んでいる。

 どうやらこのアクセサリーには状態の保存機能が付いているみたいであった。

 ヘルプアイコンは追加されているが、強化方法のタブは存在しない。

 まさに序盤で説明されている内容のみしか表示されていなかった。

 

「うーん、俺も知識があるから多分ほかの聖霊具の強化方法を使えるんだろうけれどね。まあ、ひとつだけ試してみるか。このままだと弱すぎるし……」

 

 どうせ、リーシアに継承された時にリセットされるのだ。

 爪よりも強くしなければ問題ないだろう。

 

 俺は錬の強化方法を思い出す。

 精錬、エネルギー付与、レアリティアップだったか。

 ステータス魔法にノイズが入り、初心者用の投げナイフに項目が追加される。

 投擲具の強化方法は金銭によるオーバーカスタムだが、こいつはアクセサリーからの阻害で使用できなさそうであった。

 

初心者用の投げナイフ C

能力未解放……攻撃力+3、素早さ+1

熟練度23

 

 あ、解放されちゃったよ。

 しかし、殆ど使われてなかったんだな。

 基本的に解放されている武器は店売りのものばかりである。

 

「……てことは、改造しすぎると色々とマズイってことだよな。おそらく、このアクセサリーの強化データや解放済みのデータの保存サーキットみたいになっているから、気をつけないとな」

 

 と言うわけで、俺はひとつだけ……解放されている店売りの手斧であるランページアックス(青)を超強化する事にした。

 

ランページアックス(青) R

能力解放済……攻撃力+4、素早さ+4

専用効果……ランページバイト

熟練度0

 

 と言っても、熟練度が無さすぎて、ここまでしか強化できなかったが。

 ちなみに、元康や樹の分は解放自体が出来なかった。

 そりゃまあ、あの二人からは信頼も何もされていないし、樹については敵対すらされているから仕方がないだろう。

 他の七星武器の強化についても同様っだと思うので、試さなかったが。

 盾の強化方法であるエネルギーブーストについては、俺のステータス項目に追加されている。

 SPももちろん存在する。

 ちなみに、装備を解除するとその項目が消えるので、装備時限定らしい。

 後は、信頼と、武器強化方法の共有についてだが、これは正直わからないんだよね。

 と、俺は精神空間でも相変わらずであった。

 

 目が覚めると、馬車の中であった。

 両腕は添え木がされて固定されており、回復薬で回復中なのか地味に痛い。

 アーシャが膝枕をなぜかしており、リノアはラヴァイトを動かしているようだ。

 

「う、ぐ」

「ソースケ様!」

 

 アーシャが俺が起きた事に気付いた。

 

「ソースケさん、良かった、気がつかれたのですね」

 

 レイノルズさんが俺の顔を覗き込んだ。

 よくみると、両腕は添え木された上で回復薬につけ込まれている。

 修復される痛みが結構きつい。

 

「ささ、回復薬を飲んでください。脇腹にはヒール軟膏を塗ってますよ」

 

 アーシャに口移しで薬を飲まされる。

 両手が使えないせいで抵抗できなかった。

 

「んぅ?!」

 

 舌を入れてくるアーシャ。

 俺が噛み付くと、すぐに引っ込めた。

 

「じょ、冗談ですって!」

「ふざけるな……」

 

 俺は両手を動かしてみる。

 まだ回復していないのか、うまく握れなかった。

 

「ですが、良かったですよ。ソースケ様が生きていて」

 

 アーシャに安堵の表情が見られる。

 まあ、心配させたのは悪かった。

 しかし、HPと言うのは確かにすごいな。

 これならば医者いらずである。

 まあ、病気にかかったりした場合とか、そう言うのがあるため治療院はあるわけだがね。

 ちなみに、呪いは解除されていないため、即時回復はしないようであった。

 

「ソースケ、しばらく休んでいて大丈夫よ。ジャンヌさんも復帰したし、イツキも居るわけだから、これならばマリティナを倒せるわ」

「ええ、ラインハルトさん達と合流して、現在は首都に向かっているところです。スティール=ダイヤモンドのような強敵も、イツキ様が対処してくださるみたいですので、とりあえずは大丈夫ですよ」

 

 レイノルズさんはそう断定する。

 本当に大丈夫かねぇ? 

 正直、金剛寺という男はどうしようもないと思う。

 遠距離の飽和攻撃で骨まで溶かさないと死なないのではないだろうか? 

 正攻法では殺せないのは間違いないだろう。

 投擲具なんて慣れない武器でも使おうものなら瞬コロされかねない。

 

 だが、ここでジャンヌを助けたことは、レジスタンス側に大きく流れが傾いたことを意味していた。

 俺が後方でアーシャやリノアに守られつつ回復している間、レジスタンスと樹だけで問題なく王都に進行できたからだった。

 気がつけば、俺の手が動くようになるまでにはすでに、王城への突入直前までことが進んでいたのは驚くべきことだろう。

 現時点の経過日数は4日目。ジャンヌを救出した翌日のことである。




とりあえず、攻略自体は樹メインで進められますからね
最終決戦までに宗介は復帰できるのか?!
そして、金剛寺との決着は?!

そんな感じです。

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