――ウオァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ…………
「なんじゃ、この咆哮は……」
日本某県に住む老人は怪鳴を聞き目を覚ました。
どうもこの獣の唸り声の音が出てるのは森の方らしい。
10の代から稼ぎ明け暮れ社会的に疲れた老人は世間の煩らしさを忘れたいため、定年退職後に町から離れた森林がすぐ側にある場所に家をたてた。
働いてた頃に比べ町まで遠いが車で20分ほどだ……だが買い物の時間が増えたぐらい彼にとって大したことじゃない。
ここに居れば自然が自分へ安らぎを与えるのだ。
しかし今の状況は安らぎの場に相応しくない……深夜の森に不気味な慟哭が走った。
老人は気になって森へ様子を見にくことにした。
熊でも暴れてるのか、狼でも吠えたのか……町まで繰り出し人が犠牲になると考えたらいてもたってもいられない。
細心の注意を払い懐中電灯等も持たずそっ…と漆黒の森に近付く。
「これは…」
鬱蒼と繁る森の入り口に差し掛かり異変に気付いた。
「木が倒れている…」
それも1本、2本じゃなく数十本はくだらない。
普段は空も見えないところから綺麗な星空が顔を見せていた。
まさか遠吠えの主が行ったのか?。
「獣どころの話じゃないな……明日、役場へ連絡をいれ――
『見つけたぞ俺の殺戮対象』
老人の意識は其処で途絶えた。
「シワシワの老いぼれか……食っても能力を回復するにはまだまだ足りぬがお前の命を俺に還元せよ」
歯切りの悪い咀嚼音が響いた。
「老いぼれの血肉やはり不味いな」
老人を食った……破壊者トロイは夜の中一層光輝く町の方へ向かいだした。
――町ともなれば血肉が盛んな若い者もいっぱいいるだろう。
俺に上手い肉を食わせてみろ。
ーーーーー
――眠いなぁ。
窮屈な朝の電車から、目をしょぼつかせながら一人の女子大生嶺野朱莉は眠気と格闘していた。
毎日、毎日同じ光景を見るサイクルの繰り返しをかれこれ2年半……彼氏がいたこともあったし、仲間とも日本各地へ旅行したりもしたが色々とマンネリだ。
――私って皆から嫌われないように、髪染めたり、ピアスしたり、お洒落したり……。とにかく皆にあわせてたけど本当の自分はどうしたかったのかな。
電車の窓に映る自分と似たような姿の女子が電車内にちらほら見えた。
ただ流行に乗っかり、他人の真似をするだけの自分。
中身がない薄っぺらい人間……と考えたら急に自分の存在価値が分からなくなる。
この社会に私と言う人間はいてもいなくても変わらないんじゃないかって思いが強くなってしまう。
無論、それを考えたところで堂々巡りになるだけで朱莉に死ぬ勇気もない。
考えるだけ無駄なのに考えをやめることは出来なかった。
「ハァ……」
電車の人込みから解放されため息をつきながら、キャンパスへ向かう道の途中朱莉は倒れた男を見つけた。
男は見たところ、自分と同じぐらいだ。
道を往く学生も教授も誰一人見向きもせず彼に声をかけようとしない。
――皆が無視してるんだし、私も……。
一瞬、皆と同じようにしようって考えが頭を過ったが……彼女の人を助けたい気持ちには勝てなかった。
「あなた大丈夫ですか!?。動けますか!!」
「……は、はい。助けてくださりありがとう。俺は登呂育人ともうします。実は3日前からいい食事をとれなくて……『昨晩食べるには食べた』のですが腹の足しにもなりませんでした」
「そうなんですか……。取り敢えずここじゃ人が多いし一先ず私の家に来ませんか?」
家の冷蔵庫になにかあったろうか。
簡易的な料理ならすぐ出せそうだ。
「私、嶺野朱莉っていいます。捕まってください育人さん」
「ありがとう朱莉さん」
「気にしないでください。困った時はお互い様です♪」
――人助けってやっぱり気持ちいい。自己の意志を貫くのは悪いことばかりじゃないわね。
――……ッククク!どう笑いを堪えていいか分からん。馬鹿な女だ。
彼女が周囲にあわせて人助けすら拒むのを否定し、青年を助けたのは良いことである。
……しかし、助けた青年は人類の殺戮を目論みわざとエネルギーとなりやすい若い人間を近付かせ本人は於呂かその友達も喰らう気でいる。
善意の為の人助けは皮肉な結果となったのだ。