「おまたせ〜」
陽気な足取りで俺は武器屋の入り口に立っていた尚文に声をかける。
「ああ、って何だそれは」
尚文は俺の抱えているフィロリアルの卵を指差す。
「これはフィロリアルの卵ですぞ」
「ですぞ?」
おっと、また口調が。
なんだろう、フィロリアルのことを話そうとすると、うっかりですぞ口調になる。
「なんでもない、尚文も見たんじゃないか?街中で馬車を引いている鳥のような魔物を、これはそれの卵だ」
「……ああ」
尚文が納得したように頷く。
思ったがこの状態の尚文だと、最初の波が終わった後に買うフィロリアルはフィーロになるのだろうか。
まあ、今はそれを気にしなくてもいいか。
「それで、仲間について提案があるんだが尚文」
「何だ?」
「この世界には奴隷というものがあるらしくてな、それを使えば裏切られる心配もないと思うぞ」
普通ならたった一日で注文した品が届くとは思えないが、やり直しでキールがこのタイミングで届いていたはずだから、あの二人も届いているだろう。場所も名前もわかっているのなら尚更だ。
「奴隷、ね。確かにそれが良いかもな。で、斡旋してくれる心当たりはあるのか?」
「昨日、この卵を買ったところで奴隷も販売してると聞いている」
俺は尚文と共に奴隷商の元へと向かった。
◇
「これはこれは書物の勇者様と」
「フィーロたん」
「ハイ?」
「は?」
やべ、条件反射でやっちまった。まあいい、奴隷商にはこのキャラで通すつもりだし今更変えるのもアレだ。
「尚文、色々と事情があってコイツにはこんなキャラで演じなきゃいけないんだ。察してくれ」
俺は小声で尚文にそう説明する。
「……まあいい、どんな事情かは知りたくもないがお前がそう言うなら聞かないでやる」
尚文がそう答える。
心なしか、尚文が距離を置いたように見える。色々と誤解を招くな、このキャラ。
「ハ、ハァ。それで、どのようなご用件で?」
「ここで奴隷を斡旋してくれると聞いてな」
「フフフ、勇者様が奴隷を欲しがるとーー」
尚文が一歩前に踏み出し、奴隷商と何やら取り引きを始めたようだ。
ここからは尚文の手腕の見せ所だな。
何度か尚文が奴隷商とやり取りしていると、奥の檻へと案内され檻の中には原作で読んだように、リザードマンとウサギの奴隷がいた。
そして真ん中にはラフタリアとリファナがお互い寄り添うようにして震えていた。
どうやらリファナも無事、とは言い難いが生きていたようだ。
「おい刹那」
「何ですかな?」
この後のことを色々と考えていると、尚文から話しかけられる。
いつの間にかラフタリアとリファナが檻から出されており奴隷登録の儀式を始めようとしているところだった。
ふむ、無事この二人を斡旋することに成功したか。
俺がですぞ口調で返事をすると尚文は苦虫を噛み潰したような表情して続けた。
「………お前はどうするんだ?」
「どう、とは?」
「俺は正直、予算に余裕があるとはいえ二人も面倒は見きれん。この奴隷商は執拗に二人を勧めてくるんだが、お前が片方を引き取らないか?」
むむむ、そうなるか。この頃の尚文はラフタリア達の事情を知るわけがないしな。
けど片方を俺が引き取るとなると、ラフタリアはまず論外。原作基準で考えるなら尚文の剣であり意中の相手でもあるからな、そこは幸せになってほしいとは思うし、引き取るなんて考えられない。
だがリファナにしても厳しい、何故ならリファナもまた盾の勇者に対して崇拝というか憧れているみたいだしなぁ。
「うーむ、それならーーー」
◇
「では、またのご来店をお楽しみにしております」
「ああ」
俺と尚文は奴隷の二人を連れてサーカステントを後にする。
あ、もちろんインクを武器に吸わせて尚文には奴隷使いの盾、俺は奴隷使いの本という武器を解放させたぞ。
「さて、お前達の名前を聞いておこうか」
「……コホコホ」
「コホ……」
尚文が名前を言うように命令すると、二人はお互いの手を繋いだまま顔を背け、返答を拒否した。
だが、先ほどの奴隷登録の儀式により命令を拒否したら奴隷紋が発動する設定になっているためすぐに二人は苦しそうに胸を押さえた。
「ぐ、ぐうう……」
「ぐうう……」
「ほら名前を言え、でないともっと苦しくなるぞ?」
「ラ、ラフタリア……コホ、コホ!」
「リ、リファナ……コホ!」
「そうか。ラフタリアか、行くぞ」
「リファナ、行くぞ」
名前を言って楽になったのか、二人は呼吸を整えた。俺たちはそれぞれ自分の登録した方の奴隷の手を掴み、路地を進んだ。
悩んだ挙句、俺はリファナを奴隷として登録した。ラフタリアには尚文がお似合いだ。
そう考えるとリファナには非常に申し訳ない感じがする。