「アンちゃんたち……」
俺たちは今、武器屋に戻ってきていた。
もちろん、リファナたちに武器を買い与えるためだ。
「コイツが使えそうで、銀貨6枚の範囲の武器を寄越せ」
「同じく」
「……はぁ」
武器屋の親父は深い溜息を吐いた。
「国が悪いのか、それともアンちゃんたちが汚れちまったのか……まあいいや、銀貨6枚だな」
どう考えても国が、三勇教が悪い。尚文は……汚れたというよりやさぐれたって感じだな。助けたのに何でって疑問はあるけどな。
「後は在庫処分の服とマント、二人分はまだ残ってるか?」
「……良いよ。オマケしてやる」
武器屋の親父が嘆かわしいと呟きながら、ナイフを数本持ってくる。
「銀貨6枚だとコレが範囲だな」
俺と尚文は適当にナイフを選び、リファナたちに何度も持ち比べさせて一番持ちやすそうなナイフを選んだ。
ナイフを持たされて顔面蒼白の二人は俺と尚文、親父に視線を送る。
「ホラ、オマケの服とマント」
親父はぶっきらぼうに俺たちにオマケの品を渡し、更衣室へと案内させる。
ナイフを二人から没収して、オマケの品を持たせて行くように指示をすると、二人はよろよろと咳をしながら更衣室へと入り着替える。
「まだ小汚いな……後で行水でもさせるか」
尚文がポツリとそう呟く。
見てわかる通り、二人は奴隷で酷い扱いを受けていたからな。
さて、この後の展開ではマントの下、体に噛みつかせているバルーンをラフタリアに割らせるわけだが、それはあくまで二週間後の話であり、今の尚文がバルーンを持ち合わせてはいないだろう。
「行くぞ、ラフタリア。じゃあな親父。それと刹那、色々と助かった。改めて礼を言う」
「あ、ああ」
そう言って尚文はラフタリアを連れて武器屋を出て行った。
そうなるのか。多分、草原に行って店でやらせる予定だったバルーンを割らせるやつをやるのだろう。
「それじゃ、俺たちもーー」
尚文に続いて武器屋を出ようとしたときだった。
「ん?」
持っていた卵にピキピキと亀裂が入り、そしてパリンと音を立てて中からフィロリアルの雛が顔を出した。
「「ピイ!」」
「な、双子!?」
双子の、フィロリアルだと!?
鶏の卵とかでたまに黄身が二つ出てくるのがあるが、まさかフィロリアルでそれも双子として生まれてくるとは。
色は……藍色と琥珀色かな?
こ、これは……可愛い!可愛いのですぞー!
手を伸ばすと雛は二匹とも俺の手に乗ってきて、また元気に鳴いた。
「「ピイ!」」
「ははは、可愛いなぁ」
「アンちゃん、アンタ親だと思われてるみたいだぜ」
俗に言う刷り込みってやつですな。無論、俺はそれで構わないのですぞ!全ての幼い女の子たちを守る保護者に、俺はなるのですぞー!
と思ったがそもそもコイツらは雌なのか……?まあ、可愛いから雄でもいいや!ショタロリ万歳!幼い子供に囲まれるハーレムパーティ!これが異世界ってやつかぁ、女神ちゃんありがとう!
ぐへへへへ、これからどうしてやろうか。まずこの子が大きくなって、雄だったら雌が出るまで買ってー、つがい用に一匹買ってー、そしてー
「かわいい……」
変態的な妄想に浸っていると、リファナが俺の手に乗っているフィロリアルに向けてそう呟く。
表情も可愛いものを見つめるようなものになっていて、さっきまでの怯えた様子とは全然違う。
「リファナも撫でてみるか?」
俺はリファナの方に手を向け、撫でやすいようにリファナの背に合わせる。
「わぁ……」
「「ピイ!」」
リファナの小さな手がフィロリアルの頭を撫でる。すると気持ちが良いのか元気に鳴いた。
「コホ、えへへ……」
「可愛いなぁ……」
「「ピイ!」」
っと、可愛がるのもいいが名前をつけてあげないとな。
そうだな、藍色と琥珀のフィロリアルだから……
「よし、お前たちの名前は『アイラ』と『コハク』にしよう!」
「「ピイ!」」
アイラとコハクは名前を呼ばれたからか返事をするように、元気に鳴いた。
「それじゃあ改めて、俺たちも行こうか。それじゃあね親父さん」
「まあ頑張れよ、アンちゃん」
◇
書物に卵の殻を吸わせて魔物使いの本を解放して城下町を歩きながら俺は考え事をする。
さて、これからどうするかね。レベルを上げようにも今草原の方に行くと尚文らがいるだろうし、そうなると反発現象で経験値が手に入らないだろう。
確か原作だと、バルーンを割らせた(予定)あとは……
「いらっしゃい……ませ!」
手ごろな定食屋を見つけて中に入ると、店員が嫌な顔をして、俺らを出迎える。そして嫌な顔をしたまま座る場所へと案内する。
「この店で一番安いランチとお子様ランチ、あと豆を煮溶かした柔らかい食べ物をくれ」
「!?」
びっくりした様子で俺を見つめるリファナを横目で見ながら、俺はアイラとコハクの餌も注文する。
「かしこまりました。銅貨10枚です」
「ほい」
銀貨を渡してお釣りを貰う。店員は嫌な顔をしながら渋々といった様子で店の奥へと戻って行った。
周囲の人間もこちらを見てヒソヒソと内緒話をしている。
相変わらず、噂が広まるのは早いねぇ。原作でも読んで思ったが、この速さはなんなのだろうか。
あとそうだな、時期的にお子様ランチを食べている子供は流石にいないか。
ぼんやりとそんなことを考えながらメニューが運ばれてくるのを待つ。
「なん、で」
「ん?」
「なん、で、食べさせてくれるの?」
リファナが不思議そうな顔で俺を見つめながらそう言う。
なんで、ね。確かラフタリアは食べたいって顔してるからとかで店に入ったわけだし、今回の場合は単純に原作に合わせただけで、リファナのお腹が鳴ったわけでもないしな。
「…まずは栄養をつけないと、この先死ぬぞ?お前は、これから一緒に戦って行くんだからな」
俺は戦えないわけじゃないが、剣や槍など物理攻撃ができないからな。近接となると不利になる、結果的にリファナを引き取ったのは正解だったかもしれない。
「お待たせしました」
しばらくして注文したメニューが運ばれてきた。俺はリファナの前にお子様ランチを置き、アイラたちの方へ煮豆の餌、そして自分の飯、例の安いランチに手を伸ばす。
ふむふむ、一番安いとはいえ不味くはない(不味い飯とか店が出すわけないが)。味はベーコンみたいなハムみたいな味がする。
「……食べないのか?」
しばらく自分の飯を頬張っているとリファナが自分の目の前に置かれたお子様ランチに、一切手をつけてないのに気がつく。
あーあれか、前の飼い主と照らし合わせて手を出したら取り上げられるとか思ってるんだろう。
「……いいの?」
「別に取り上げようとか、はたき落とそうとか思ってないぞ?食べろ、一応命令だ」
命令と言うとリファナは恐る恐るといった感じでお子様ランチを素手でかぶりつく。
「ほら、お前たちも食えー」
「「ピイ!」」
アイラとコハクも煮豆を嘴で突きながら食べ始めた。