書物の勇者?何だそれ   作:名無しし

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夏休みが終わってしまった……


世話焼きフィロリアル

 

バァン!バァン!

 

次の日、何だか妙な騒がしさで俺は目がさめる。

なんかバルーンが何体も割れる音がする。

 

「ん……」

 

「起きたか?」

 

「……おう、尚文か…」

 

見ると尚文が疲れた様子で立っていた。

足元にはバルーンの残骸が無数に散らばっている。

 

「戦ってたのか?」

 

「ああ、ラフタリアが少しでも離れると大声で泣いてな、その度にバルーンが沸いてきた。それでロクに眠ることができずに、ずっと戦ってた」

 

「そうなのか、後は俺がーー」

 

起きて見張りをしようと言いかけた時、ラフタリアが目を覚ました。

 

「ひぃ!?」

 

尚文に抱きかかえられているのに驚いてラフタリアは大きく目を見開く。

 

「後は俺が魔物が来ないか見張ってるから、尚文は少し寝たらどうだ?」

 

「……そうだな、そうさせてもらう」

 

そう言って尚文は横になって目を瞑る。かなり疲れていたのか、すぐに眠りについたようだ。

 

「体の調子はどうだ?」

 

「コホ……」

 

ラフタリアは咳をするだけで何も返事はしなかった。

 

見た感じ、昨日よりかは顔色も良いみたいだし体調も良くなってはいるだろう。

 

「お前、運がいいな。この人、伝説の盾の勇者様なんだぜ?」

 

「知ってる……コホ」

 

その辺の話はもうしてあるか、なら俺も一応名乗っておくか。

 

「リファナにはもう話してあるが、俺も一応勇者なんだ。書物のな」

 

「???」

 

案の定、リファナと全く同じ反応である。ほんと何なんだろうか、書物の勇者って。

 

可能性があるとすればキョウの武器が俺に宿ったとかだろうけど……霊亀の復活はまだかなり先にはなるが、もしかしたら原作じゃ語られていない設定があるのかもしれない。

 

ここで考えていたところで答えが出るわけじゃない。そんなことより、これからどうするかを考えるべきだ。

 

「まぁそういうことだ。ところで尚文のことはどう思う?」

 

「コホ……ナオフミ?」

 

あ、しまったな。確かどっかの廃坑だったか、そこでのイベントを少し先出ししてしまった感がある。この辺りはまぁ、あまり影響はないだろ。

 

「盾の勇者の本名だ。あとでまた聞くといい」

 

「えっと、ご主人、様は……ちょっと怖いけど、何か……コホ、優しい……?」

 

「そうだ。コイツはな、この世界に召喚されて、色々あってこうなっちまったけど、本来は優しい奴なんだよ。だからな、そう怯える必要はないよ」

 

「コホ……そう、なの?」

 

「ん……」

 

ラフタリアと話をしていると、その途中でリファナが目を覚ました。

 

「体調はどうだ?」

 

「ひぃ!?」

 

ラフタリアと全く同じ反応である。流石は親友といったところか。いや、奴隷にされて酷い目に遭っていたのだから当然の反応だろうか。

 

「「ピヨ!」」

 

ちょうどリファナの隣で寄り添うように眠っていたアイラとコハクも、リファナの声で目を覚ましたようだ。

 

おや?昨日よりも体が大きくなってる、そういえばフィーロもこんな感じだったな。となるとこのままレベルを上げていけば今日中には成鳥になるだろう。

 

「おお、起きたか二人とも〜」

 

「「ピヨ〜」」

 

手を伸ばして頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を閉じて鳴いた。

 

ていうかフィロリアルの数え方ってなんだ?人型にもなるし鳥にもなるしで、俺は今"二人"と言ったがこの形態だと、二羽と言った方が正しいのだろうか。

 

……まあどのみち可愛い天使になってくれるならどうでもいいけどな!

 

 

そんなこんなで陽が昇り尚文が起きるまでの間、ラフタリアたちと雑談していた。

 

尚文は眼が覚めると、城下町の方へ行くと言ってラフタリアを連れて俺たちと別れた。その際に、調合した薬をいくつかくれた。リファナの風邪もまだ完治してないだろうし、これは助かる。

 

さて、今日もレベリングをしようとは思うが、自分で金を稼がないと、もう所持銀貨は200枚もない。

 

となればまずはバルーンに噛まれても痛くないくらいまで強化しないと、それで懐に忍ばせて尚文みたいにバルーンでの脅しをするためにな。

 

どのみち、資質向上するにもレベルは必要だし最初の波までに俺以外を上限である40まで上げておきたい。それも、資質向上を含めてだ。

 

よし、なら早速やることは決まりだ。

 

さっそく俺はリファナを抱き上げる。

 

「ひゃあ!」

 

「よし、さっそく魔物狩りだ!」

 

「「ピヨ!」」

 

アイラとコハクは元気に鳴き声をあげると、すぐに俺は森の奥へと走り出した。

 

「うぉおおおおお!」

 

魔力が続く限り、体力の持つ限り、アイラとコハクが付いて来られるような速さで俺は森の中を駆け抜ける。

 

もちろん、武器が反応したらその度に止まって武器に吸わせて解放することを忘れない。

 

「リファナ!」

 

「は、はい!」

 

「ギィ!?」

 

途中でリファナを下ろして戦いに参加させる。レベルを上げるだけじゃ経験は積めないからな。

 

バルーン、キノコ、タマゴ、ウサギ、最初の森で出現する魔物を次々に倒し続けた結果、レベルが俺は30、リファナは21、アイラとコハクは18まで上がった。

 

日が暮れるまで魔物と戦い続けて、俺たちは一度城下町へと戻る。素材を売るためだ。

 

さて、足元を見られないように脅し用のバルーンを……

 

 

「痛ててて!」

 

尚文みたいに自分の体にバルーンを噛みつかせて、マントの下に忍ばせようとしたが、盾の勇者じゃないので防御力が高くなく、ダメージをくらいまくる。

 

「く、そ。これじゃロクに……!」

 

そこで俺はとある考えを思いついた。

 

そうだよ、別にバルーンの刑にこだわる必要はないじゃないか。俺は魔法が使えるんだ。

 

「我ながらいいことを思いついたもんだ」

 

ニヤリと笑いながら俺はバルーンを投げ捨てると、買い取り商人の所へと足を運んだ。

 

 

 

 

「ギャアアアアアアアアアア!」

 

「このままお前を草原まで引きずって、買い取って貰おうか?」

 

 

リファナたちを宿に預けて俺は外に出ると、どこからか悲鳴が聞こえてきた。そちらの方へ行くと、ちょうど尚文が買い取り商人に対してバルーンの刑に処している場面に遭遇した。

 

尚文がいるなら隣にいてもらえば特にやる必要はないか?

いや、どうせ犯罪者を庇ったとして俺も悪名が広がってるだろうし、女王さえ帰ってくりゃ後は何とでもなる。尚文の味方をするのならば、俺も同じように外道に成り下がろうか。

 

 

「はいはい。まったく、とんだ客だよコンチクショウ!」

 

そう吐き捨てる商人から尚文が立ち去るのを待って、俺はそいつに近づく。

 

「買い取りを頼む」

 

「いらっしゃいま…せ!」

 

そう言って素材を置くと、商人は怒りの表情からすぐに営業スマイルを浮かべてこちらへと向く。

 

俺の顔を見て、すぐにへらへらした様子になった。

 

「バルーン風船ですねぇ。10個で銅貨1枚ではどうでしょうか?」

 

案の定、足元を見てきやがった。

ま、尚文と違って前の客のやり取りは聞いていたが恫喝している場面だったしな。

 

「俺が相場を知らないと思ってんの?」

 

「何分、うちも商売でしてねぇ…」

 

まして共犯者に相場とか、小声でそう言ったの聞こえてないとでも思ってんのかね。

 

「さっき生きたバルーンに噛み付かれて、鼻が赤くなってるよねぇ。もう一度やったら取れちゃうかなぁ?」

 

そう言いながら俺は風魔法を使ってマントを揺らし、バルーンがそこにいるかのように演出し商人にハッタリをかます。

 

「ヒィ!?わ、分かりました……」

 

商人は顔を青くさせて、渋々といった様子で素材を買い取った。ふむふむ、結構な稼ぎになったじゃないか。やはり攻撃力があるのとないのでは大違いだな。

 

「俺の噂も広めておけよー。バルーンの刑を処す、盾と書物の勇者の噂をなぁ!」

 

そう悪ぶって俺は商人のもとを立ち去る。

 

さてさて、市販の薬を買ってリファナに飲ませたり体に塗ってあげないとな。もちろん尚文からもらった薬でもいいが、質のいいものを与えないと治りは良くないだろう。

 

「あぁ、腹減ったな」

 

「「グアグア!」」

 

薬屋に寄って薬を買って腹を空かせながら宿に戻ると、俺は最初に馬小屋へ向かった。するとアイラたちはダチョウみたいな形態になっていて俺を出迎えてくれた。

 

「おー、随分と大きくなったなぁ」

 

「グア〜」

 

アイラがじゃれついてくる。こいつは甘えん坊だなぁ。

俺はアイラの喉を撫でてやる。すると気持ちよさそうな声をあげた。その様子を羨ましそうに見ていたコハクも近寄ってきて撫でてと言わんばかりの様子で俺の方をつっついた。

 

「グアグア」

 

「コハクも可愛いなぁ」

 

「グア〜」

 

アイラとコハク、まとめて喉や頭を撫でながら俺は癒される。

体を触ると肉が蠢いていたりバキバキと成長音がしていた。

 

リアルでこれを聞く日がくるとは、聞いていて痛くないのか心配になるぞ。

 

「よーしよし、今ご飯をやるからな」

 

俺は昼間のレベリングで狩った魔物の肉を出して二羽の前に置いた。するとアイラがそれに向かって首を下ろして一つを嘴で掴んだ。

 

何だ?食べるんじゃないのか? そう思っているとアイラはそれらを俺の前に置いて、コハクは俺の背後に回り食べてと言わんばかりの様子でグイグイと押してきた。

 

「いや、これお前たちのご飯……」

 

「「グア?」」

 

首を傾げられても困るんだが、つーか加熱もしてない生肉を食って腹を壊したらどうするんだ……

 

しかも地面に直置きしてるし衛生面的に良くない。

 

「グアー」

 

「グア!」

 

「わ、わかったわかった」

 

コハクは俺に食べることを強要するかのように背後からグイッと推してくるし、アイラは鳴くしで俺は渋々ウサピルの肉を少しだけ口に運んだ。

 

「……ヴヴッ!」

 

臭い!不味い!気持ち悪い!

何で俺が魔物用の餌を食べなきゃいかんのだ。

 

「「グア!」」

 

俺が食べたことに満足したのか、二羽ともやっと餌を貪り始めた。

 

「クソ、腹減った……」

 

「グアグア」

 

「な、なんだよ!」

 

アイラが俺の服をつまんで、また魔物肉を食べさせようとする仕草をした。今度はコハクが肉をつまみあげて俺に押し付けてきた。

 

もしかしてコイツら、俺が腹減ったと言ったから食べさせようとしてくれてるのか?

 

だけどこれは生肉だし、俺は人間なんだが…

 

「グア!」

 

また俺がいつまでも食べないとアイラが怒ったような声をあげ、コハクがグイグイと肉を押し付けてくる。

 

「わかったから!」

 

渋々肉を少しかじって飲み込む。

ウエェ、マジで血の匂いが臭えし気持ち悪い。

 

コイツら、世話を焼くのが好きなのか?だとしてもこれに関しては余計なお世話だ。

 

「あ、ありがとう。美味しいよ」

 

「「グア!!」」

 

引きつった笑顔で二羽にそう言うと、満足そうにポーズを決めながら鳴いた。

 

これ以上余計なことを言って食わされる前にさっさと部屋に戻ろう。

 

「それじゃあ、また明日な!」

 

「「グア!!」

 

アイラたちは敬礼するようなポーズを取り、頭を下げて俺を見送る。

 

ああ早くまともな飯が食いたい、酒でも飲んで胃を洗浄しよう。


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