「うーん、頭が痛え……」
昨日、魔物の肉を生で食わされて気持ちが悪くなり、それを誤魔化すために酒場で酒を飲んだんだが調子に乗って何杯も飲んで二日酔いになっていた。
「リ、リファナ……水を、持ってきてくれ……」
「は、はい!」
リファナはコップを持って外に出て行った。
「ク、ソ……飲みすぎた……」
しばらくして廊下をドタドタと走る音が聞こえてきた。
「くぅ、頭に響く……」
ドアがバァンと開かれると、そこから見覚えのある二羽が顔を出した。
「「グア!」」
「うお!?」
「ご、ご主人様〜」
リファナが二羽に挟まれるように手だけを出してこちらに向けていた。
「だ、大丈夫か?」
俺はリファナと思しき腕を引っ張り救出する。
「何があったんだ?」
「井戸から水を汲もうとしたら、急にこの子たちが走ってきて、私を挟んだままここまで走ってきたんです」
アイラとコハクは昨日よりも大きくなっており、扉が狭くて部屋には入れないようだった。
「グアー!」
「わかったわかった」
「グア!」
「うおっ!?」
「ひゃあ!?」
こっちへ来てというような様子だったので、渋々頭をは抑えながら行くと、アイラが俺を、コハクがリファナを背に乗せるとそのまま宿の外へと飛び出して行った。
「おい待て、まさかこのまま走るのか!?俺は二日酔いなんだぞ!?」
そんなことを魔物に言っても無駄である。無情にも二羽はそのまま森に向けて走り出した。
チラリと見たが宿の入り口が壊れておりコイツらが無理やり入ってきたのが一目瞭然だった。
ああクソ、弁償しないといけないなぁ。そんなことをボンヤリと考えながらただ引きずられるように連れていかれた。
「うぷっ」
三十分ほど強引に乗せられて走った結果、俺たちは昨日の森の入り口まで連れて来られた。
これが、フィロリアルの乗り心地か……クソ悪すぎるぞ。二日酔いも相まってより一層気持ち悪い。
よく尚文は平気だよな、酔い無効の異能持ちなのかほんと。
「よ、酔い止めの薬は……無かったか」
「うーん」
リファナの方を見ると俺と同じようにーーいや、俺以上にぐったりとしているようだった。
「リファナ、とりあえず今朝の分の薬だ。あと背中とかの傷を治す薬を塗るから脱げーーと言ってもその状態じゃ無理そうだな」
しょうがない、ここはーー
「うぷっ」
気持ち悪そうにぐったりとしているリファナは意識が朦朧としているのか。俺が服を脱がしているのに全く気がついていないようだ。
平常心、平常心だぞ刹那。俺はロリコンだけど紳士だ。紳士なら無理やり手を出すなんてことはしない、落ち着け落ち着け。
よし、塗り終えたぞ。おお、傷口がみるみる消えていくぞ、流石は異世界だな。って、んなことに感心してる場合じゃない、早く服を着せないとな。
あとは回復魔法でもかけておこう。
「ファスト・ヒール」
理性を保ちながら服を着せ終わり、俺はリファナが眼を覚ますまで待つ。
うぷ、気が抜けた途端に気持ちが悪くなった。
少し仮眠を取ろう。そう思って横になると二羽が俺を突き始めた。
「グアグア!」
「な、なんだよ。少し寝かせてくれよ」
グウゥー
「「グア!」」
二羽はお腹が空いたと言わんばかりに俺を突っついていた。
「あーもう、魔物の肉は昨夜の分で無くなったよ!そんなに食いたきゃ自分で狩ってこいよ」
「「グア!」」
そう指示すると、二羽はすぐさま森の奥へと駆け出して行った。この感じだと、すぐに戻ってきそうだ。うう、頭が痛い……
案の定、数分で戻ってきてドサドサとその場に昨日のようにウサピルなどの魔物の死骸が置かれた。
「「クエ!」」
しかもクイーン形態になっていやがる……成長が早えなオイ。
……にしてもこのペースなら夜には天使になるだろう。ぐへへ、楽しみだなぁ。
「リファナ、起きろ」
「うぅ…」
「魔物の解体を手伝ってくれ、終わればいくらでも休んで構わない」
「はい……」
俺はリファナを起こし、二人で魔物を解体することにした。
「……あの、ご主人様」
「何だ?」
「私、何だか体が軽いのですが、何かされたのですか?」
「……えーっと、それは多分伝説の武器の影響だろうな。加護ってやつだろう」
まあそれだけじゃなくて、薬を塗ったりしたからだろうな。
寝ている女の子の服を脱がして、薬を塗っただなんてどんな変態プレイだ。絶対にバレてはならない。
それにしても昨日までと比べてリファナの態度も変わってきてるな、俺に対してあまり怯えなくなってる感じがする。それに身長も伸びてきている。
グー
ちょうどそのとき俺もリファナも、お腹から音が鳴った。起きてすぐに連れ回されて、何も食べていないのだから当然だろう。
「「クエ!」」
すると昨日みたいに二羽が俺たちに肉をつまんで食べるように押し付けてきた。
「ひゃっ!な、何!?」
「だから俺は食えないっての!」
「「クエ!」」
クエ!じゃねえんだよ!今のお前らの鳴き声は完全に食え!にしか聞こえねえぞ!どんだけ食わせたいんだよコイツらは!
いつまでも食べないとまた口元に押し付けられそうだ。これは覚悟を決めた方がいいかもな。
「…リファナ、コイツらは俺たちにこれを食わせようとしてるんだ」
「ええ!?生肉ですよ!?」
「覚悟を決めろ。でないと無理にでもコイツらに食わされるぞ」
俺とリファナはゴクリと固唾を飲み込むと、覚悟を決めて魔物肉を一口かじった。
「……ヴヴェ!」
「うっ!おえぇ…」
そして同時に吐き出した。コイツらのせいで乗り物酔いで気持ち悪くなったうえに、生肉を食わされたのだ。当然だろう。
さらに俺はそこに二日酔いも加わっている。
「クエ!」
「痛い痛い!わ、わかったって!」
俺が吐き出したのを見て怒ったようにアイラは俺を嘴で突く。
「ううぅ、気持ち悪い……」
「クエ」
コハクがリファナを介抱するように横に寝かせて、毛布を嘴を使って器用にかけた。
おい、なぜ俺には怒っておいてリファナには優しくしてるんだ。
「クエ!」
「食えじゃねーー!」
最悪の朝で今日という日を幕開けた。
「クエクエ!」
「ったくコイツらは……」
チラリとリファナを見ると口元を押さえて今にも吐きそうになっていた。このままだとまた食わされる羽目になるな。
「リファナ!口を絶対に開くなよ!」
「うっ!」
俺はリファナを担いで近くの川へと走り出した。アイラたちは食事に夢中でこっちには気づいてない。
「リファナ、よく耐えたな。もう吐き出して大丈夫だぞ」
「うぅ、おえぇ」
「大丈夫か?」
俺はリファナの背をさすってやる。正直俺も吐きたいが、それでアイラたちの前でお腹が鳴ったら無限ループだ。
「うぅ…」
「ほら、干し肉だ。口直しに食べろ」
リファナはそれを受け取るとガジガジと味を噛みしめるように食べていた。
うーむ、髪もボサボサしてるしこの際、尚文みたいに髪を切ってやろうか。あ、ハサミ持ってない。宿に戻った時にでもやるか。
宿……壊しちまったなぁ……、いくらかかるんだろ。
そんなことを考えながら俺はリファナが食べ終わるのを待っていた。
「あとは常備薬を忘れるなよ」
「うぅ、はい…」
最初に比べて慣れたのか嫌そうな顔をしつつもしっかりと飲めたので俺は頭を撫でてやる。
「よしよし、よく飲めたな」
「……あの、ご主人様」
「ん?なんだ」
「何で、優しくしてくれるのですか?」
「前にも言ったが、これから一緒に戦うんだからな。それで一緒に戦う仲間に優しくしないでどうする?」
リファナは不思議そうな顔をする。
「……あと三週間ほどで世界を脅かす波が訪れる」
「え!?」
「俺は、魔法での攻撃はできるが物理攻撃はできないんだ。だから近接戦闘では圧倒的に不利になる」
「あの……災害と戦うのですか?」
「そうだ、それが俺たち勇者の役目なんだ。やりたくてやってるわけじゃないが、そういう意味ではお前と俺は似てるのかもしれん。強制させてる俺が言える立場じゃないけどな。だから、できるなら俺に力を貸して欲しいんだ」
「……わかり、ました。私、戦います」
「ああ、改めてよろしく頼むぞ」
「「クエ!」」
ちょうどその時、アイラたちが俺らを追ってやってきた。
「だからそれは食わねーー!」
魔物肉を、ぶら下げながら。
「ううぅ、やっとまともな飯が食える…」
「うぷ、うぅ」
俺とリファナは例の定食屋に来ていた。
「ご注文は?」
「一番安いランチとお子様ランチ……あと水をたくさん持ってきてくれ」
アイラたちは自分たちのご飯を満足そうに平らげるとすぐに俺たちを乗せて宿の馬小屋に戻って行った。あいつらの壊した宿の入り口やら廊下やらは分割で払うことになった。
次回「天使降臨」