俺とリファナは少し遅めの朝食を終えると、草原に来ていた。今日もレベル上げと戦闘経験を積ませようと思っていたが、宿に戻ってすぐアイラたちがどこからか拾ってきた木の枝を押し付けて遊びたそうにしていたので仕方なく遊んでやることにした。
「じゃあ、投げるぞ?」
「「クエ!」」
「そらっ!取ってこい!」
「「クエーー!」」
俺は木の枝を投擲して、それをアイラたちは地面に落ちる前にキャッチして戻ってくる遊びをする。
木の枝は一本だけ、どちらが先に取るか二羽は競っているみたいな感じだ。
「クエ!」
「よしよし、よく取ってきたな。アイラ」
「クエー♪」
ふむふむ、さっきから何度か投げているが先に取ってくるのはほとんどアイラだ。コハクはアイラが取り損ねたものを偶然、ということが多かった。
やっぱ双子でも運動能力の違いが出るもんだなぁ。可愛い天使になってくれれば俺は満足だけど。
「クエェ…」
コハクが何やら落ち込んでるような鳴き声をあげる。アイラばっか撫でられてズルい!みたいな感じだろうか。
「コハクも頑張ってるよ、よしよし」
「クエ♪」
撫でてやると途端に機嫌がよくなる。ふふふ、可愛い奴だ。これが天使になったらもっと可愛くなるのだろうか。
「クエ!」
「はいはい、そらっ!」
「「クエー!」」
「動物は癒されるなぁ」
天使になったらどれだけ可愛くなるのだろうか。
というか、さっきから天使になったときのことしか考えてないな俺。
「ご主人様」
リファナが何やらソワソワした様子で俺に話しかけてくる。
「あの、私もそれを……やって、みても…」
「ああいいぞ」
「クエ!」
アイラがとってきた木の枝を、俺はリファナに手渡した。
「えいっ!」
「クエ!」
「………」
リファナの投擲した木の枝は、真っ直ぐにアイラの顔へと向かっていき、アイラは寸前でそれをキャッチした。
「ううう、ごめんなさい……」
「謝ることはないぞ、投げるときのコツはな……」
俺たちは昼過ぎまで、腹が減るのを忘れるくらい遊んでいた。
「楽しかったですね。お腹空……モゴ!」
「そ、そうだな!お前たちも疲れたろう?あとで飯を狩ってくるから先に小屋に戻ってなさい」
「「クエ!」」
お腹が空いたといいかけたリファナの口を慌てて塞ぎ、俺は二羽に先に戻ってるように指示をする。
二羽の背中が見えなくなるのを待って、俺はリファナに言った。
「……あそこでお腹が空いたとか言ったら、また今朝みたいに魔物肉を食わされるぞ?」
「!は、はい…」
◇
アイラたちの飯のために一時間ほど森で狩りをしたあと、俺らは魔法屋へと来ていた。
もちろん、今日変身するであろう天使のお姿のため、魔力を糸にする機材を使わせてもらいにですぞ!
「あらあら書物の勇者様、今日は一体何の用かしら」
「フィーロたん」
「はい?」
「はい?」
違う。なんで第一声がこれになる。
魔法屋とリファナが全く同じ反応を取る。
「間違えましたぞ。少し頼みたいことがあってな」
俺は魔力を糸にする機材を使わせてもらいに来たことを伝える。
「いいわよ。それで、いつ頃にその子たちは来るのかしら?」
「多分、夕方から夜にかけてになると思うが、大丈夫か?」
「ええ構わないわ」
よっし、あとは洋裁屋のオタクっぽいメガネ店員にでも声をかけて行くか。
「ほほう、そんな可愛い子達が来るのですか?」
「ああ、時間的に夜になると思うから、明日また改めて来るが一応予約というか……」
「いえいえ、是非!今夜連れてきてください!明日までに、最っ高にキュートなお洋服を仕立ててみせます!」
メガネを輝かせて息を鳴らしながら、オタクっぽい洋裁屋は言った。
とりあえず服に関してはこれで問題はない。
あとは金だ、所持金はさっき狩りをして売却した分を含めて合計250枚だ。原作ではフィーロで400枚くらいかかっていた、卵代を引いても270枚はかかる計算になる。
俺は二羽もいるからその倍はかかる、ツケにでもしてもらわなきゃ払えないな。
クソ、こうなりゃ
……場合によっては高位魔物紋を刻まないという選択肢もある。尚文も初期以外で発動してる場面は見かけなかったしな。
たしか高位魔物紋はサービスで200枚だったから、その分を引いて70枚、二羽だから140枚くらいか?まあ、それなら払えるし問題も多分ないだろう。
フフフフフ、天使だ。今夜ついに天使がご降臨されるのだ!それまで狩りをして金を稼ぐぞ!
◇
あれから数時間が経ち、日も暮れてきた。俺とリファナはアイラたちに乗ってパワーレベリングと狩りをして時間を潰していた。そのおかげで所持金も増え、レベルも上がり、大分強くなれたと思う。
俺たちは今、宿に戻って馬小屋にいた。
「はぁはぁはぁはぁ……」
手をわきわきとさせて俺は興奮が抑えられなかった。
「せ、せつな様?」
リファナも大分背が伸びており、その際にせっかくなので呼び方も名前呼びにしてくれと俺が頼んだ。
「フィロリアル様方、そろそろ天使の姿になられるかと思います。どうか……そのお姿を見せてくださいですぞ!」
俺はアイラたちの目の前に跪き、お祈りするようなポーズをして言った。
そしてアイラとコハクは顔を見合わせて、背伸びをしてから変身を始めたのですぞ。
「お、おお……おおおお」
淡い光と共にアイラたちの姿が天使へと変わっていく。
「ご主人様ー!」
「ご主人……」
俺の目の前に、二体の天使様がご降臨された…