左右から気持ちのいい揺れと天使の声がして、俺は目覚めたのですぞ。
「ご主人様ー」
「朝……」
「んんぅ……」
アイラとコハクが俺を揺れ起こそうとしてるのがわかりますぞ。俺はあえて寝ているふりをして、その感触を楽しむことにしたのですぞ。
「ご主人様、朝なのです」
「起きて、ご主人……」
「スー」
ああ気持ちがいい、左右から耳元で天使の声がするのですぞぉ。目を開けたら目の前に顔があるのだろうなぁ。
「むー、起きないのです」
「それじゃあ、こうする……」
ごそごそと俺の上に乗ってくる感触がする。声からしてコハクだろう。
「あー!コハクずるいのです!」
「早い者勝ち……」
「アイラもご主人様の上に乗るのですー!」
「ダメ、ここはコハクの場所…」
グイグイとコハクを押しのけようとするアイラ、負けじと押し返してその場を死守しようとするコハクの感触を堪能していたが、喧嘩にならないうちに起きておくか。
「こらこら二人とも、朝から喧嘩はダーメ」
二人の頭をポンと撫でながら俺はゆっくりと起き上がろうとしたが、二人がお腹に乗ってるので上体が起こせない。
「あ、おはようなのです!ご主人様!」
「ご主人、おはよう……」
「おはよう、起き上がれないから降りてほしいのですぞ」
そう言うとパッと二人は俺の上から降りる。素直でいい子だなぁ。
うん、これなら高位魔物紋を刻む必要はないな。というか、この子たちに痛い思いなんてさせるわけにはいかないのですぞ!
「ありがとう、二人ともいい子だな」
「アイラはご主人様に仕える『めいどさん』なのです!だから言うことを聞くのは当然なのです!」
「コハクも、『めいどさん』だから、ご主人の、言うこと、聞く……」
まだ服は仮の寝巻きを着せているだけだから実質、裸みたいなものだけどな。
色々と騒いでたせいか服がズレてきている。というか隙間から見えるぞ……あとちょっとで、ピンクの突起物が……
「せつな様……」
「うおっ!?リファナ!」
ゴゴゴという雰囲気を醸し出しながら腕組みをしながら、リファナは隣のベッドから俺を睨みつけていた。
それに俺は思わずたじろぎ、我に返った。
危ねえ危ねえ、思わずいたいけな幼女に良からぬことをしでかすところだった。
「いくらこの子たちが魔物とはいえ、やっていいことと悪いことがありますよ?」
顔は笑っているのに、雰囲気が全然違う!これめちゃくちゃ怒ってるな。
こういう時、
「……リファナ、恥ずかしがらずに君も脱いでいいのですぞ!」
バチーンと、乾いた音が部屋に響いた。
◇
「痛ててて、あんなに怒ることはないだろうに」
「冗談もほどほどにしませんと、首と胴体がさよならしちゃいますよ?」
「ひゃい」
冷静になって考えてみればあんなこと言ったら怒るのは当たり前だ。なぜ俺は愛の狩人の思考で言ってしまったのか……
チラリと繋いでいる手を見る。
「どうしたのです?」
「ん……ご主人?」
「なんでもないのですぞ」
この子らが可愛いからな、思わず愛の狩人になってしまうのも仕方ないですな。
「おーっす、服はできてるか?」
「はいはーい。服は出来てますよー。久々に徹夜しちゃった」
その割には元気そうだな。どの世界でもオタクというものは変わらんな、俺も新刊をまとめ買いした日にゃ徹夜で読んだものだなぁ。
そんなことを考えていると店の奥からアイラたちの服を持ってきた。
ワンピースに純白のエプロン、シックにまとめたエプロンドレスで、漫画とかでよく見るようなザ・メイドって感じだな。
ワンピースの色はアイラとコハクに合わせて藍色と琥珀色だ。
「わぁ……」
「可愛い……」
「それじゃあ更衣室に案内するわね」
「「はーい」」
アイラたちを店の奥へと案内してもらい、着替えてくるのを待った。
「じゃあ魔物の姿にも変わってね」
ボフンと変身する音が聞こえてる音がし、そして。
「うん。やっぱり似合うわぁ……」
なんともうっとりするような声が聞こえた。
店の奥から店員とアイラたちが出てくる。
そしてアイラとコハクへと目を向ける。
ほほう、これは………おっと危ない。
俺は鼻を抑え、吹き出そうになった血を無理やりせき止める。
危ない危ない、またぶっ倒れて気絶するところだった。
服を着ることによって、より一層魅力が増しましたな。天使のメイドとは目が幸せすぎますぞ。
「ご主人様ー!」
「どう……?」
「二人とも、とても似合っていますぞ!可愛いですぞ!!」
片手でガッツポーズをしながら俺は答えましたぞ。もちろん、お世辞ではなく本音ですぞ!
「えへへ、ありがとうなのです!」
「…………ん」
アイラは嬉しそうにその場でくるくると回っておりますが、コハクは顔を赤らめてモジモジとしてますな、コハクは恥ずかしがり屋な一面があるようですな。それもまた、可愛いのですぞ。
「コハク、恥ずかしがることはないのですぞ。本当に似合っていますぞ」
俺はコハクを抱き上げますぞ。
「はう!?はうあう……」
ぷしゅーと音が聞こえてきそうなくらい赤くなっていますな。あぁ〜可愛い、可愛すぎますぞぉ!
「あー!コハクばかりずるいのです!アイラもアイラも!」
アイラが両手を伸ばしながらぴょんぴょんと跳ねてきます。必死な感じがまた可愛いのですぞ。
「はいはい、わかっておりますぞ。ほら」
左でコハクを支えながら、右腕でアイラを持ち上げますぞ。HAHAHA!両手に花とはまさにこのことですな!
「リファナ、俺の腰につける金袋から銀貨を出して支払いをお願いするのですぞ」
「はい」
呆れるリファナをよそに俺は両手に抱えるメイド天使を堪能しながら、悦に浸っているのですぞ。
幸せだぁ、これが天国というものですかな。何せ天使がいるのですからな!