書物の勇者?何だそれ   作:名無しし

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文字の勉強

 

「うぐぐぐぐ」

 

「むむむむむ」

 

「んんんんん」

 

「唸っても答えは出てきませんよ、真面目に取り組みましょう」

 

「異世界文字理解なんて技能のある武器、ないかなぁ」

 

俺たちは今、魔法書を片手に唸っていた。あらかた俺のやりたいことは済んだので、すべきことに目を向けた。

 

レベルや戦いに関しては、最初の波を乗り越えるにはもう十分すぎるだろう。武器も新調してリファナには剣、アイラたちにはナイフを二本ずつ買い与えた。人型での戦いにも慣れて貰う必要はあるが、レベルと資質のゴリ押しで序盤のうちは何とかなるだろう。

 

「楽をしようとしないでください。地道に頑張りましょう」

 

「ぐぅ」

 

くそぉおおおお!まあ原作でもそんな武器は見つかっていないし、多分ないのだろう。

 

「ご主人様、アイラも頑張るのです」

 

「ん……コハクも、頑張る」

 

「そうだなぁ、一緒に頑張ろうな!」

 

「なんで二人の言うことは聞くんですか!」

 

「天使だからですぞ」

 

何を言っているんだリファナは?天使なのだから言うことを聞くのは当然のことですぞ。

 

「はぁ……もういいです」

 

リファナは呆れたようにため息をついた。

まぁいっか、今は集中しよう。ドライファクラスの魔法を一つでも覚えてしまえば、刺客が来ても簡単に返り討ちにできるだろう。

 

「んーそうだな。まずは魔法書より子供向けの本とか、読みやすくて簡単な書物で勉強するべきか?」

 

いきなり魔法書を開いたがそもそも文字が読めなきゃ内容も理解できないし、まして魔法なんかが使えるわけがない。まずは簡単なところから始めるべきだった。

 

「そうですね、まずはそれから始めましょう」

 

俺はすぐさま『ゆうしゃのおはなし』という絵本に書物を変化させる。

 

「あ、その本!」

 

「知ってるのか?」

 

「ええ、私の家にあったのでよくお父さんやお母さんから、読み聞かせてもらいました」

 

「そうなのか。それなら読んでもらってもいいか?」

 

「いいですよ」

 

そう言うリファナに俺は書物を渡した。今思ったが盾とかと違って、手から離れられるんだなこれ。

 

 

 

 

そんなリファナの指導の甲斐もあって、簡単な文章なら詰まりながらではあるが、読めるようにはなってきた。

 

「くそぅ、何で異世界に来てまで勉強せにゃならんのだ」

 

俺は今、一度勉強を中断して気晴らしに城下町を散歩していた。

 

勉強は嫌いだ。この世界に来る前でもそうだったし成績も良いわけでもなかった。特に英語や日本語以外の外国語の講義は苦痛でしかない、何故日本人なのに外国語を学ばなきゃいけないのか。

 

「はぁ……」

 

ため息をつきながら歩いていると、いつの間にか武器屋の前まで来ていた。

気分転換と言っても、特にやることもないし親父んところへ顔でも出すかな。

 

俺は武器屋へと入る。

 

「いらっしゃい。お、書物のアンちゃんも来たか」

 

も?どういうことだ?

 

「む、刹那か」

 

「おーー尚文、とラフタリアか?」

 

声がした方を見ると、そこには尚文と見た目が17歳くらいにまで成長したラフタリアがいた。

 

「はい、お久しぶりです」

 

「ほー、随分と別嬪さんに育ったもんだな」

 

アニメで動いている画を見たが、それなんかより実物の方がもっと綺麗だな。

 

「はぁ……お前もか。いや、オタクなら当然なのか?」

 

「なんのことだ?」

 

「いや、いい。ところでお前は何しにきたんだ?」

 

何しにか、特に目的もなくブラブラしてたからな。

 

「んー、何となくだ。ちょっと色々とやっててな。尚文は?」

 

「ナオフミ様の防具を買いに来てます」

 

尚文が口を開く前に、先にラフタリアがそう答えた。尚文の防具……ああ、てことは蛮族の鎧のあたりかな。

 

「聞いてくださいよ。ナオフミ様ったらーー」

 

ラフタリアが尚文に対する防御に関しての不満をぶちまける。まあ今の尚文は村人と変わらん装備だし。

それに盾の勇者といえど草原で怪我をしたり、洞窟で犬みたいな魔物に噛みつかれて流血してたからなぁ。

 

「そうだな。尚文も防具を買うべきだと思うぞ」

 

「お前たちなぁ」

 

っと、そうだ。前に尚文に渡すために買ったやつがあったのをすっかり忘れていたぞ。

 

「ああそうだ、尚文。お前に会ったら渡しておこうと思ったものがあった」

 

「何だ?」

 

俺は懐から魔法書を取り出して尚文に手渡す。

 

「これは魔法書といって、魔法が覚えられる書物だ。回復と援護がメインのやつだし、適性のある尚文にはぴったりだろう」

 

「それはありがたいが、なぜ俺の適性を知っている?」

 

尚文が怪訝な表情で俺を見る。

おっと、これはしまったな。確か魔法適性を見てもらうのはリユート村の波が終わった後だったな。先出ししすぎたか。

 

「えーっとな。前にも話したが、俺のやってたゲームだと盾職は攻撃力が無い分、回復と援護に特化した僧侶みたいな職業だったんだ。だから同じかと思ってつい、な」

 

「……ああ、たしかに言っていたな。それにしても攻撃力ね、相変わらずクソな役職だな」

 

尚文は納得したようにそう呟くと、すぐに盾に悪態をつく。

誤魔化せたか?あまり原作知識を活用しすぎるのも考えものだな。

 

「とりあえずこれはありがたく受け取ろう。それじゃ、俺たちはこれでーー」

 

「ナオフミ様?まだ貴方の防具を買ってませんよ?」

 

「チッ」

 

店から出ようとした尚文の肩を、ラフタリアがガシッと掴んだと思うとゴゴゴと効果音が出ていそうな笑顔で引き留めた。

 

「じゃ、じゃあ俺はこれで失礼する。じゃあな」

 

「ああ」

 

「ナオフミ様!貴方の装備はーー」

 

そんな声を背に俺は武器屋を後にした。とりあえず、しばらくは書物を読むというより文字の勉強になるだろうが早めに尚文の手に渡って良かったかな。

 

「……はぁ」

 

俺はため息を吐きながら来た道を引き返す。そろそ戻って俺も文字の勉強を再開せねばな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーツヴァイト・ファイアースコール!」

 

火の雨が俺たちの目の前に降り注ぎ辺りを焼き焦がした。

 

「ご主人様すごいのです!」

 

「燃え尽きた……」

 

「すごいですね、せつな様!」

 

アレから数日が過ぎ、簡単な文章なら読めるようになったので火の魔法書で一つ魔法を覚えてみた。

 

「まぁ、うん」

 

「どうしたのです?」

 

「いや、なんでもない……」

 

俺は歯切れの悪い返事をした。

だってさ、この魔法って確かヴィッチが使ってたやつじゃん。なんか気が引けるというか、使いにくい。

 

まぁでも、多少は書物を読めるようにはなったから良しとするか。

 

「そういえばアイラたちの魔法の適性を見てもらってなかったな」

 

確かリファナは火の幻覚だったかな?やり直しでそんなことが書かれてたような気がする。

 

「そうですね、明日改めて行ってみましょうか」


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