書物の勇者?何だそれ   作:名無しし

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書物の強化方法

最初の波まであと一週間を切ったある日のこと。

 

「ご主人様ー」

 

「ご主人……」

 

俺はアイラを抱っこしてコハクの小さな手をとりながら、優雅に散歩していたのですぞ。

リファナには回復薬やその他戦闘で必要になりそうなものを買い出しに行ってもらっています。

 

「次……コハクの番……」

 

「はいはい、それではアイラはここまでですな」

 

「早いのです。もっとしてほしいのですー!」

 

「ワガママ言わないの、コハクだって待ってるんだから」

 

俺はアイラに言い聞かせながら降ろして、コハクを抱き上げようとしたのですぞ。

 

「ん?」

 

「ご主人?」

 

少し先に見覚えのある姿が目に入ったのですぞ。

アレは確か、タルトだったかモーゼだったかの二人でしたかな。

 

「……ふむ」

 

「ご主人、コハクも、抱っこ……」

 

そうだな、いい機会だ。波でリユート村の避難をする人手も必要だし、ここで一つ仕込みをしておこうか。

 

「二人とも、ちょっといいか?」

 

「なのです?」

 

「むー……」

 

何やらコハクが不満な様子ですが、今それを気にしているとあの二人を見失うのですぞ。

 

「あそこにいる二人の後をつけて、住んでいる場所を探してきてほしいんだけど、できるか?」

 

「わかったのです!」

 

「……わかった」

 

元気よくアイラが返事をしたのに対しコハクは不満そうに返事をした。抱っこしてやれなくてすまない。

 

「よし、それじゃあアイラはあっちの女の人でコハクはもう一人の男の人を頼むぞ。くれぐれも見つかるんじゃないぞ?」

 

「はーい」

 

「……」

 

コハクは無言で頷く。そんなに抱っこして欲しかったのか、しょうがないな。

 

「あとでたくさん可愛がってあげるから、今は我慢してくれ、な?」

 

俺はコハクの頭を撫でる。これで機嫌が直ってくれればいいが……

 

「ん、わかった。ご主人」

 

機嫌が良くなってくれたようで良かった良かった。

 

「ご主人様ー!アイラも撫でてほしいのです!」

 

「アイラはさっき抱っこしたろ?コハクは今抱っこしてやれない分撫でてあげてるから我慢して欲しいのですぞ」

 

「むー」

 

「……ふふん」

 

するとコハクは撫でられながらドヤッとした表情でアイラを見ていた。

 

「コハクー!」

 

「こーら、コハク煽らないの。それよりもほら、早くしないと二人を見失っちゃうぞ」

 

「むー、わかったのです……」

 

「ん、わかった」

 

「日が暮れる前には宿に戻ってくるのですぞ」

 

そう言って二人を送り出した。アイラは何やら不満そうな様子だったがジャーキーをあげたらすぐに機嫌が良くなったのですぞ。もちろんコハクにもあげましたぞ。

 

 

 

 

「さて、そうだな。俺は何をしていようか」

 

思えば一人になるなんて久々だな、召喚前は学校に行く以外ではゲームしてるかラノベを読み漁ってるぐらいだったしな。

 

「んー」

 

俺はおもむろにステータス画面を開いた。

現在のレベルは42、リファナを含めアイラたちも初期限界である40だ。資質向上を含めるともっと上だろう。

 

もちろん資質向上以外の四聖や七星の強化方法も、素材があるものは実践している。それだけでなくーー

 

この書物独自の強化方法も存在しているみたいだしな、ヘルプを読んでわかったことだ。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

『読書Lv』

書物を読むことで強化。勇者が読み聞かせることで勇者以外の仲間にも強化可能。

 

 

ーーーーーーーーー

 

なんとも書物の武器らしい強化方法だ。確か似た強化方法があったよな、食えば食うほど強化されるやつが風山絆の異世界の方にあったはず。

 

あれから文字の勉強を続けてツヴァイトクラスの魔法は多少は習得できた。そのおかげかこの強化方法も実践できているという現状だ。

 

ドライファクラスの魔法を一つは覚えたかったが、上級魔法となると文章も難しくて簡単に読めない。

 

「ま、ここまでやりゃ三勇教も敵じゃないか」

 

今やろうと思えば教会に乗り込んで教皇含めて目撃した信者を全員殺れる自信はある。だが今後の展開を考えると奴はまだ生かしておいた方がいい。

 

尚文にだって迷惑がかかるし女王が帰還するあたりまでは表立って問題を起こすのは避けるべきだ。

 

ま、原作読んで殺したくなるレベルの輩は他にもいるし、タイミングを合わせてさりげなく消せば何も問題はない。

 

刺客に関しても返り討ちにしてしまえばいい、正当防衛だ正当防衛。

 

 

そんなことを考えながら裏路地を歩いているとガラの悪そうなやつらにに絡まれた。

 

「アンタ、噂の書物の勇者だろー?」

 

「仲間にしてくださいよー」

 

上から目線で偉そうに話しかけてくる。

コイツらもしかしてアレか?

尚文に絡んでバルーンやられたやつらか?

 

「いいだろぉ?一人でこんなところ歩いてるってことは仲間がいないんだろ?」

 

「盾の悪魔には酷い目にあった俺らを助けると思ってさー」

 

うん、間違いなさそうだ。こんなやつらにかける慈悲なんてないな。

 

 

 

 

 

 

「ヒィイイイ!」

 

「い、命だけは……!」

 

「んー、中々の臨時収入だな」

 

俺に絡んできたやつらは全員捕縛して、文字通り身ぐるみを剥がしてやった。

 

ちょっと挑発しただけで刃物を出して襲ってきたし、防ぎもせずに受けたらカンって音が鳴ってそれを見て驚いたところをちょいちょいっとね。

 

「殺さないでも何も、先に手を出してきたのそっちだろう?ま、次は本当に命も奪うからな」

 

そう言い残して奴らを裸で放り出したまま俺は裏路地を後にした。ちょうど依頼を達成した後だったらしく、報酬含め装備も全て奪った。なかなか良い値で売れた。

 

「そういえば口止めすんの忘れてたな。まぁいいや、どうせ俺の悪名が広がるだけだしな」

 

盗賊は資源ですぞ。奴らはただのガラが悪い冒険者だが、そんなのは関係ない。悪人から奪って何が悪いんだって話だ。

 

そんなことを考えながら宿へと戻ると、入り口にリファナが立っていた。

 

「あ、せつな様。お帰りなさい」

 

「ああただいま」

 

まだ陽が暮れるのに時間はある、気長に待とうか。

 


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