書物の勇者?何だそれ   作:名無しし

23 / 28
迷子騒動

 

 

アレから二時間くらいが経過した。段々と陽が傾いてきたのに未だにアイラたちの姿は見えなかった。

 

「……少し心配になってきたぞ」

 

「そうですね、迷子になってなければいいのですが……」

 

そんなことを考えているとアイラが戻ってきた。

 

「ただいまなのです!ご主人様!」

 

「おぉ、お帰りアイラ。様子はどうだったか?」

 

駆け寄るアイラを抱き上げて頭を撫でながら、俺はそう尋ねた。

 

「えぇと……その、ご主人様……」

 

「ん?どうした」

 

「実はーー」

 

申し訳なさそうな様子で語り出したアイラの話によると、どうやら住んでいる場所までは見つけられたようだが、その妹らしき女の子と遊んでいるうちに見つかってしまったらしい。

 

「『これからも仲良くしてね』と言われたのです。思わずアイラははいと返事してしまったのです……」

 

「そうか……」

 

まあアイラも子供だしな、子供同士遊びたくなるのも仕方のないことだ。それにアイツらだって三勇教じゃない限り悪いやつではないだろう。もしそうなら早急に消すが。

 

「ごめんなさいなのです。ご主人様……」

 

しょんぼりした様子で俯くアイラ、落ち込んでる姿も可愛い……。いや、今はそれを堪能するわけにはいかん。

 

「別に気にすることないぞ。その子と遊べて楽しかったか?」

 

俺はアイラの頭を撫でる。

 

「すごく楽しかったのです!また一緒に遊びたいのです!」

 

「そうかそうか。それなら数日後の波が片付けば、また遊んできていいぞ」

 

「わーい」

 

きゃっきゃと喜ぶアイラ。

俺は無言で頭を撫で続けるのですぞ。

 

「んんぅ」

 

気持ちよさそうにするアイラ、その様子を見て俺も思わず頬が緩んでしまうのですぞ。

 

「アイラ、コハクのことは見かけなかったか?」

 

「見ていないのです」

 

「そうか……」

 

日もだいぶ暮れてきたし、本格的に迷子になってると考えた方がいいかもしれない。

 

「あの、せつな様。探しに行った方がいいのでは?」

 

「そうだな、万が一戻ってきてすれ違った時のために宿屋の人に伝言を頼んで行こう」

 

俺は宿の人間にコハクの特徴を伝えて、もしも戻ってきたら俺らが探しに行ったことを伝言してもらうように言ってから、二手に分かれてコハクを探しに出た。

 

 

 

 

「コハクを……この子と同じくらいの背丈の女の子を見なかったか?」

 

俺はアイラをは指差しながら武器屋の親父に尋ねる。

 

「いやぁ、あいにく見てねえな。というかその子は何なんだ、アンちゃん?」

 

「詳しく説明してる暇はないが、この間ここで孵ったフィロリアルだ」

 

「何?」

 

「邪魔したな」

 

武器屋のところにも来ていないか、雛の時の記憶があるのならここに来てるだろうと思っていたんだが……

 

幸い姿を知ってる魔法屋と洋裁屋は捜索に協力してくれているが、どちらにも来ていないとするとどこへ行ってしまったんだ……!

 

嫌だ、天使が俺からいなくなるだなんて考えたくないですぞ!

 

「……アイラ、コハクの匂いとか辿れたりはしないか?」

 

「そういうことは、できないのです……」

 

犬とかじゃあるまいし、流石に無理があるか。

 

「コハク、どこに行ってしまったんだ……!」

 

「もう、会えないのですか……?」

 

アイラが涙目で俺を見つめる。

 

「そんなことはない!絶対に、見つけるんだ!」

 

コハクの視点からして、帰り道が分からなくなってしまったらどうするか考えろ。

 

俺だってそこまでメルロマルクに詳しいわけではない、マップはあるけど文字が読めなければ意味がなくなる。文字の勉強をしてるとはいえ読めるようになってるわけではない。

 

「一か八か、よく俺らが遊びに行っていた森に行ってみるぞ」

 

コハクの向かった方向にはちょうどその森もある。知らない場所に行って不安になり、知ってる場所が近くにあるのならそこへ行くだろう。

 

俺も小さい頃、外で迷子になったとき両親によく連れてきてもらった公園に行ったらそこで会えた。俺だって昔から引きこもりだったわけじゃないぞ!

 

「アイラ」

 

「はいなのです」

 

アイラにクイーン形態になってもらい、その上に乗って森へと向かった。

 

 

 

「おーい、コハクー!」

 

「どこなのですー!」

 

大声で呼びかけるも返ってくるのは魔物や動物の声だった。

 

「……ええい!視界の数字が邪魔だ!」

 

強化されたアイラに乗って、森を縦横無尽に駆け抜けていたので魔物を次々と跳ね飛ばして、それによって経験値が流れるように入ってきた。

 

「フィロリアルの言葉で、野生のフィロリアルに協力してくれないか呼びかけてみてくれないか?」

 

「わかったのです。クェエエエエ!!」

 

森中に響き渡るような鳴き声がアイラから発せられた。同種族のフィロリアルにも捜索に協力してもらえれば心強い。

 

少しして周囲からグアグアと聞こえてきた。野生のフィロリアルが返事をしているのだろうか。

 

「ご主人様、わかったと皆言ってるのです」

 

「そうか……」

 

コハクは一体、どこに行ってしまわれたのですかな!?

嫌ですぞ!嫌ですぞ!俺の前から居なくならないでほしいのですぞー!!

 

「グアグア」

 

「わかったのです。ご協力感謝なのです」

 

「なんだって?」

 

「『東側は僕たちが探すから』って言ってるのです」

 

「そうか……」

 

そうして俺たちは西の方へ向けて走り出したのですぞ。

 

 

しばらく無我夢中に森を駆け抜けていると遠くで煙が上がっているのが見えたのですぞ。

 

誰かが焚き火をしている。誰でもいいですぞ。コハクのことを聞いてみるのですぞ!

 

「アイラ、あっちに向かって欲しいのですぞ!」

 

「はいなのです!」

 

ドタドタとまた魔物を跳ね飛ばしながら煙の上がっている方へ走り出したのですぞ。

 

 

「誰だ!」

 

あっという間に煙の上がってる場所の近くまでたどり着くと、そこでは見覚えのある人物が魚を焼いていたのですぞ。

 

俺たちに気づき、こちらへ振り向いて盾を構えるあのお方はーー

 

「お義父さん!」

 

「お、お義父さん?何のことだ?というか刹那だったのか、一体何しにきた?」

 

おっとつい間違えてしまいましたぞ。

 

「あ、いやすまない。実はーー」

 

 

おとーー尚文にこれまでの事情を話すと、尚文は苦虫を噛み潰したような顔をして言った。

 

「はぁ、それでその人化したフィロリアルとやらを探していると?」

 

「そうなのですぞ!コハクが!俺の天使がどこかに行ってしまわれたのですぞぉ!!!」

 

「わかったから少し落ち着け!お前、大丈夫か?色々と」

 

そう言いながら頭を指差し尚文は心配そうに俺を見た。

やさぐれていても、お義父さんはお優しいのですぞ!

 

「う、うぅすまない、少し取り乱してしまった……ですぞ」

 

「喋り方……いやそれはいい、生憎と俺は見ていないがな」

 

「そう、か……」

 

コハク……本当にどこへ行ってしまわれたのですかな?俺は、俺はーー!

 

「コハク、もう会えないのです……?」

 

「う、く、うぅ……!」

 

すっかり辺りも暗くなり、これ以上の捜索は困難だ。もうダメだと思った時だった。

 

「ナオフミ様?」

 

「む、ラフタリアか。戻ってきたのか……そいつは?」

 

声がした方を見るとラフタリアがいた。腕には何か抱きかかえているようたが暗くてよく見えない。

 

「えっと、帰る途中で見つけたのですが事情を聞くに、迷子になっていたようでして……」

 

そう言って近づいてくるラフタリアが腕に抱きかかえていたのは、寝息をたててスヤスヤと眠るコハクだった。

 

「コハク!」

 

俺は一目散にラフタリアへと駆け寄り、呼びかける。

 

「ん、んぅ……」

 

ゴシゴシと眠い目を擦りながらコハクは目を覚ました。

 

「コハク……!よかった、無事で……!」

 

「ん……?」

 

 

ボーッとした目で俺を見つめるコハク。段々と状況が理解できたのか、コハクの両目から涙が流れる。

 

「あ、うっ……ご主、人……!」

 

「コハク……!」

 

俺はラフタリアからコハクを受け取るとそのまま抱きしめた。コハクもぎゅううと俺の服を握りしめ胸に顔を埋めて泣いた。

 

「ごめん、なさい……!コハ、コハクはっ、帰り、道がわからなく、なってぇ……!」

 

「いいんだ、いいんだコハク。お前が無事ならそれでいい、俺こそお前たちに無茶な命令をして悪かった!」

 

「ゴハグ〜!よがっだのでず〜!」

 

アイラも子供のように声を上げて泣いてこちらへと駆け寄る。俺は二人をそのまま抱きしめる。

 

二人はそのまま泣き続け、いつしかコハクは疲れもあったのか再び眠ってしまった。 

 

 

「ほんっとうに助かった!何とお礼をしたらいいか……!」

 

「い、いえ私は当然のことをしたまでで……」

 

俺はコハクを抱きかかえたまま、何度もラフタリアに頭を下げた。もしラフタリアに見つけてもらえていなければ本当に会えなくなっていただろう。

 

「ありがとうなのです」

 

アイラも俺に倣って頭をぺこりと下げた。

 

「それじゃあ俺たちは失礼する。今日は本当に助かった」

 

「ああ」

 

「バイバイなのです」

 

俺はコハクを抱きかかえ、アイラに乗ってその場を後にし宿へと戻る。城門は閉まってたが、穴開けて中へと入った。見張りの兵士?んなの吹っ飛ばしたわ。

 

しばらく右腕でコハクを抱え、左手でアイラの手を繋いでいると後方から誰かが息を切らしながらかけてきた。

 

「リファナか」

 

「せつな様!よかった、見つかったのですね」

 

「ああ、ラフタリアが見つけてくれたらしい。流石、お前の親友だな」

 

「ラフタリアちゃんがですか?」

 

「ああそうだ。本当に助かったよ」

 

流石はフィーロの姉、面倒見のいいお姉さんだ。

 

「そうだリファナ、アイラも疲れてるだろうし抱っこして宿まで連れて行ってくれないか?」

 

「え?あ、はい!アイラちゃーん」

 

そう言って笑みを浮かべながら腕を広げるリファナ、アイラは一瞬俺の方を見たがすぐにリファナの方へと行った。

 

「フフー、アイラちゃんっていい匂いがするね」

 

「んぅ、くすぐったいのです」

 

リファナは元気そうだな、この前拒否されたから余計に嬉しいのだろう。にしてもアイラも今回は素直に従ったな。

 

「リファナ」

 

「なんですか?」

 

俺は空いた左手でリファナの右手を掴む。

 

「ひゃ!せつな様?」

 

「アイラに夢中になってお前まで迷子になられたら面倒だ。宿に着くまで繋いでいろ」

 

「は、はいぃ」

 

なんか声が小さいが、暗くて顔がよく見えん。

 

「それじゃ、行くぞ」

 

俺たちはそれぞれコハク達を抱っこしながら、手を繋いで宿まで戻った。

 

 

 

「ふぅ、今日は疲れたな」

 

「そうですね、早く休みましょうか」

 

俺はベッドに腰を下ろし、抱き抱えているコハクも下ろそうとしたがーー

 

「……ん」

 

コハクは俺の服をぎゅっと掴んだまま、離れなかった。眠っていてもわかるのだろうか、本当に怖かったんだな。俺も迷子になった時は二度と会えないかもと思って親と会った途端に泣いた記憶がある。

 

「んー、そうだな。俺はこのままコハクと寝るよ。リファナ、今日はアイラと一緒に寝てくれないか?」

 

怖い思いをしたんだ、一緒に寝て安心させないとですぞ。

 

「わかりました!アイラちゃーん」

 

「ご主人様……」

 

「アイラ、今日は我慢してくれ。コハクも怖かったんだからな」

 

アイラが寂しそうな目で俺を見ているのですぞ。俺だって辛い、だけど今日はもっと辛い思いをしたコハクのためにも仕方のないことなのですぞ!

 

「……………………………………わかったのです」

 

かなり長い間が空いたのちにアイラは渋々といった様子で返事をした。本当にすまないのですぞ。明日は二人ともしっかりと可愛がってあげるのですぞ。

 

「それじゃあ、おやすみ」

 

「はい、おやすみなさい。せつな様」

 

俺はコハクを抱きしめたまま布団に入る。

人肌が暖かい、本当に魔物かと思えないくらいに暖かいのですぞ。

 

そういえばフィロリアルクイーン状態だと羽毛の中はとても暖かいらしいな。メルティもその中で寝てたし、今度試してみようか。

そんなことを考えるよりも、今はーー

 

「……ん、ご主人……」

 

コハクが寝言を言いながら、幸せそうな寝顔に俺は大満足なのですぞ。

ゆっくりとおやすみ、コハク。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。