俺たちは今、尚文とともに武器屋で波に関しての打ち合わせをしていた。
「ほー、随分とカッコいい鎧だな。尚文」
「そうですよね!似合っていてカッコいいですよね!ナオフミ様!」
「お前らな……はぁ、ありがとう」
渋々といった様子で礼を言う尚文。
うーむ、やっぱり尚文にはその格好が似合ってるな。別に尚文が悪人というわけじゃないぞ。
「で、アンちゃんたちは何で俺の店に集まってんだ?」
「まあまあ、どうせ行くあてもないし、ここは落ち着くし何せ信頼できる職人がいるからなー」
今のところ仲間以外で信用できる奴と言ったら武器屋の親父くらいだからな。
「まあ、アンちゃんたちにそう言われるのは光栄だが……」
「で、波って何処で、何時起こるんだ?」
「ん?アンちゃん教わってないのか?」
「何をだ?」
尚文は龍刻の砂時計についてはまだ知らなかったはずだからな。
親父が尚文に砂時計についての説明をする。尚文は説明を聞き終えると、あからさまに不快な表情をする。
「ああそういや忘れてたな、せっかくだし俺らも行くか」
「そう、だな」
こうして俺たちは龍刻の砂時計へと向かった。
時期的に考えて波が明日起こるのなら、例の三馬鹿とその御一行に遭遇する可能性が高いだろうな。
教会に着くと受付らしきシスター服の女性が、俺たちを見るなり怪訝な目をした。顔を知っているのだろう。
「盾と書物の勇者様ですね」
「ああ、そろそろ期限だろうと様子を見に来た」
「ではこちらへ」
尚文がシスターに案内されて中へと入っていった。俺はその前にアイラたちへと向き直る。
「アイラ、コハク」
「なのです?」
「ん……?」
「この後な、槍を持った奴が来るからーー」
俺は二人にボソボソと話しかけますぞ。
「わかったのです」
「ん、わかった」
「よしよし、いい子だ」
二人の頭を撫でてさしあげますぞ。
「せつな様?早く中に入りましょう」
「ああそうだな」
「こちらになります」
そう言って案内されたのは教会の真ん中に安置された大きな砂時計だった。
デカイなー、これが実物か。確かこれの砂を武器に入れると転移スキルが手に入るんだったよな。
「大きいのです」
「キラキラしてる……」
砂もそろそろ落ち切りそうだし、波までおそらく24時間もないだろうな。
そんなことを考えているとピーンと書物の方から音が聞こえ、一本の光が砂時計の真ん中にある宝石へと届いた。
すると俺の視界の隅に時計が現れる。
20:09
しばらくして9の目盛りが8に減る。
なるほどなるほど、これはわかりやすいな。
思えば何で今までここに来なかったんだろう?尚文に合わせて行動すりゃ先に来ていてもよかったような?
「ん?そこにいるのは尚文と刹那じゃねえか?」
っと、そろそろ来る頃だと思ってたぜ。三馬鹿筆頭の女好きの道化勇者サマがよ。
ふと尚文の方へ視線を向けると殺意に満ちた表情していた。
「お前らも波に備えて来たのか?」
「なんだお前、まだその程度の装備で戦っているのか?」
俺にではなく尚文に向かって
尚文は相変わらず不快な表情をしながら黙っていた。すると何も言わない俺たちに対して
「ちょっと!モトヤス様が話しかけているのよ、聞きなさいよ!」
「ナオフミ様?こちらの方は……?」
ラフタリアが首を傾げながら奴らを指差してそう言う。
「せつな様?」
リファナも同じように首を傾げながら俺に尋ねた。
「チッ」
「あ、元康さんと…………尚文さん、刹那さん」
樹は舌打ちをした尚文を見るなり不快な者を見る目をし、やがて平静を装って声を掛ける。
その後ろから錬がクール気取りで無言でこちらに歩いてくる。
「……」
それぞれがゾロゾロと仲間を連れて、時計台の中の人口比率はものすごい増えたな。
「ん?」
俺はふと錬の仲間に見覚えのある姿を見つけた。
確かクルクルパーとローストビーフでしたかな、本名なんて全く覚えてないですぞ。
アイツら、錬の仲間になってたのか。
「誰だその子たち。すっごく可愛いな」
元康がラフタリアを始め、リファナやアイラたちを指差してほざく。
今のお前にフィロリアル様を語る資格などないですぞ。
「始めましてお嬢さん方。俺は異世界から召喚されし四人の勇者の一人、北村元康と言います。以後お見知りおきを」
鼻にかかった態度でラフタリアに近づき、キザったらしく自己紹介する。
「は、はぁ……勇者様だったのですか」
「あなたのお名前はなんでしょう?」
「えっと……」
困ったようにラフタリアは尚文に視線を向け、そして元康の方に視線を移す。
「ら、ラフタリアです。よろしくお願いします」
「そちらのお嬢さんは?」
リファナがこちらに困ったような視線を向ける。
「別に、名乗ってもいいぞ?」
そう言うとリファナは元康の方へ視線を戻した。
「リファナといいます」
「…………」
「…………」
リファナは元康に名前を名乗ったが、アイラとコハクは俺の背後に隠れたまま何も喋らない。
「刹那、お前の後ろにいる……おぉ」
元康が二人を見て静かに興奮する。
コイツの性癖は確か天使萌えだったな、それに気がついたのだろう。
「お嬢さん方!お名前は!?こんな、可愛い子は始めて見た!」
「ああそう」
「俺、天使萌えなんだ……」
アイラとコハクの前に元康は跪く。体勢的に俺に跪いてるように見えてなんか嫌だ。
「……気安く話しかけるなのです。この腐れ×××」
「腐れ×××」
「ブフッ!」
二人は汚いようなものを見る目で元康に向かってそう言う。
俺は事前に、槍を持った奴にはそうするように命令していたが、あまりにも淡々と言うもんだからつい吹き出してしまった。
「ちょっと!モトヤス様に向かってなんていう……」
「待て」
ヴィッチがヒステリックに叫ぶのを元康は制し、何やらプルプルと震えている。なんだ?女性にそう言われてショックだったのか?
「……て、天使に、天使に罵られるなんて…………なんか、いい……」
元康は悶えるように体を震わせ、そう言った。その表情は満更でもないような、むしろ悦んでいるように見える。
うわぁ…………
その場にいた誰もがドン引きしている。あのヴィッチでさえ、うっわコイツ……てな感じで引いているのが表情で分かる。
そういえば
もともと素質があったんだろう。
「……えっと、それじゃあ行くぞ」
俺はアイラたちの手を取り、錬と樹の方にある出入り口へ歩き出す。
二人とその仲間は道を開ける。
そして、錬とすれ違うあたりまで来たときアイラが口を開いた。
「あ、ローゼお姉ちゃんなのです」
アイラは錬の背後に並ぶ、一番後ろに立っていたローストビーフ改めローゼを指差してそう言ったのですぞ。
ああ、確かそんな名前でしたな。
「!」
ローゼと目が合うと、向こうは明らかに動揺して表情を青くした。
確かこないだ付けさせたとき、アイラはコイツに見つかってその妹と遊んだんだったな。
「知り合いか?」
「はいなのです。この間遊んだアンナちゃんはこの人の妹さんなのです」
「へぇ……そうなのか……」
そう言ってローゼに目を向けると彼女は顔を青くしながら俯いている。よしよし、作戦自体は半分成功したな。
「まあいいや、今度また遊びに行くときによろしく言っておいてくれよ」
「わかったのです!」
そんな会話をしながら俺らは出入り口に向かって歩く。
「明日は、武器屋の親父のとこにでも行って飛ばされるのを待つか」
ローゼとすれ違うとき、ボソッと彼女にだけ聞こえるように呟いて俺たちは教会を後にした。